5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

諦めないで。民法第724条の消滅時効の起算点について

  例えば、犯罪に巻き込まれた場合等に加害者に対して損害賠償請求をしたいと考えているときに、加害者が誰だか分からないはたまた名前はわかってもそれが本名かどうか分からず、住所も知らず今どこにいるのかも分からないというケースはあります。

 

 不法行為に基づく損害賠償請求については、民法第724条に除斥期間と消滅時効期間が規定されています。そのため、同期間を経過すれば特別法がない場合には、加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできなくなります。

 

 これは悲しいですよね。そこで、今回は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点について少し検討してみようと思います。

 

1 民法第724条の規定

 民法第724条は「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。

 

 つまり、消滅時効については「損害及び加害者を知った時」から3年が経過すれば、不法行為に基づく損害償請求権は、時効により消滅することとなります。また、「不法行為の時」から20年が経過した場合も同様に除斥期間により権利消滅することとなります。

 

 冒頭の例でいえば、加害者が誰だか分からないという時には、「加害者を知った時」には当たらず、消滅時効は進行しないため、例えば10年後に加害者が誰であるか判明したような場合には、その知った時から3年間は不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅せず、同損害賠償請求をすることができます。

 

 もっとも、加害者が誰であるかは分かるものの、それが本名であるのか否か分からず、またどこにいるのかも分からないというケースでは、「加害者を知った時」に当たってしまうのでしょうか。

 

 この点ついて、最判昭和48年11月16日(民集27巻10号1374頁)は以下のとおり判示しています。

 

2 最判昭和48年11月16日

 同判決は、現行法でいうところの「加害者を知った時」について、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当」であると判示しました。そして、同判決は、「不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する損害賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき」、初めて「加害者を知った時」に当たる旨判示しています。

 

 同判決を前提とすると、そもそも、加害者が分かっていても、それが本名であるか分からず、今どこにいるのかも分からないというようなケースでは、「加害者を知った時」に該当しない可能性が高いと思います(もっとも、公示送達の方法により訴訟係属させ、裁判上の請求をする余地があるケースもあり得るため、弁護士等の法律専門家に一度相談をすることが得策だとは思います。)。

 

 そのため、例えば自分が犯罪に巻き込まれたような場合に、加害者が未だ捕まっていないようなケースでは、例えば被害に遭ってから3年を経過した場合であっても、加害者が逮捕された際には、損害賠償請求をすることができると考えられます。

 

 したがって、たとえ加害者が不明であったとしても、諦めずに収集した証拠等はしっかりと保存しておき、いつでも損害賠償請求をすることができる状態を維持しておくことが大切です。

民法第715条第3項。知っておきたい求償権の話

  民法第715条は不法行為分野の中でとても有名な条文ですよね。色々な論点があって比較的勉強がしやすい分野だと思います。今回は、民法第715条第3項の使用者の被用者に対する求償権について少し検討してみたいと思います。

 

1 民法第715条について

 民法第715条は、使用者責任を規定した条文ですよね。その趣旨は、いわゆる報償責任にあるとされています。すなわち、他者を使用することで利益を受けている者は、被用者が生じさせた損害についても賠償の責任をとるべきであるという考え方が根本にあります。

 

 民法第715条第1項本文では「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。ちなみに但し書きについては、一般的に極めて例外的な場合でなければ、その要件を充足しないとされています。

 

 もっとも、あくまでもこれは使用者が被害者に対して損害賠償責任を負うことを規定したものにすぎません。すなわち、直接的に不法行為を行ったのは被用者であり、被用者の被害者に対する損害賠償責任を免除するものではありません。その結果、被用者は民法第709条等に基づく損害賠償責任を負い、使用者は民法第715条第1項本文に基づき損害賠償責任を負い、使用者と被用者は連帯して被害者に対して損害賠償債務を負うこととなると考えられます(いわゆる不真正連帯債務)。

 

 そうだとすると、民法第715条第3項が「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定するのは、当然のことを規定しているとも思えます。

 

 もっとも、使用者と被用者との関係が少し特殊であることも考える必要があります。つまり、被用者は使用者から指示を受けて事業を執行する際に不法行為を行っています。例えば、交通事故を起こした等のケースが典型だと思いますが、交通事故を起こすに至った経緯として、加重労働を強いられていたり、使用者が安全に対する措置を全く行っていなかったというような場合もあり得ます。このような場合に、使用者が被用者に対して完全な求償を行えるとするのは、少し道理に合わないように思います。この点、最高裁昭和51年7月8日判決(民集30巻7号689頁)は、使用者から被用者に対する求償権を制限できる場合があることを判示しています。

 

2 最高裁昭和51年7月8日判決

 同判決は、使用者の被用者に対する求償について「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」と判示しています。

 

 上記判決の例示する要素はとても広汎なものとなっています。そのため、使用者が被用者に対して求償することができる場合があったとしてもその額については、一定程度制限されることが予想されます。したがって、使用者の立場からすれば、上記判決の例示する要素について日頃から配慮し、適切な職場環境を構築することが大切になると言えます。

 

景観利益と不法行為のお話

 近隣景観は、自宅マンションを購入したり、住宅を建設する時にとても重要な要素になりますよね。例えば、住宅を建設して数年後に目の前に高層マンションが建設されて、家の庭からは建設された高層マンションしか見えないということになると困りますよね。

 

 そこで、今回は、自宅の目の前に高層マンション等が建設された場合に、高層マンションを建てた不動産会社等の所有者に対して損害賠償請求をすることができるか否かについて少し検討してみたいと思います。

 

1 民法上の不法行為の規定

 民法第709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。景観が侵害された場合に、そもそも景観利益が「権利又は法律上保護される利益」に当たるか否か、また、仮にこれらに当たるとした場合、如何なるときにこれらを侵害したと言えるか、そして、その侵害は違法性を有するかという主に3つの点が問題となります。この点について、参考になるのが最判平成18年3月30日(民集60巻3号948頁)です。

 

2 最判平成18年3月30日(民集60巻3号948頁)

 同判決では景観利益が「権利又は法律上保護される利益」に当たるか否かについて、「良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保護に値する」と判示しています。つまり、景観利益については、「法律上保護される利益」に当たる場合があるとして、侵害対象になることを判示しています。

 

 もっとも、建物の建築が第三者の景観利益を侵害するか否かにつき、同判決は「被侵害利益である景観利益の性質と内容、当該景観の所在地の地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである」と判示し、違法性について、「その侵害行為は刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為として相当性を欠くことが求められる」と判示しています。

 

3 景観利益侵害を理由とする不法行為の成立

 上記の判例に照らすと、高層マンションの建設により景観が害された場合には、景観利益に対する侵害を理由として不法行為が成立し、損害賠償請求をすることができる場合はあると言えます。しかし、不法行為の成立要件としての違法性について、「刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど」と判示しているため、高層マンションを建築するに当たって、法令遵守をしている場合には、違法性は認められない可能性が非常に高いと言えます。その結果、不法行為が成立せず、損害賠償請求をすることはできないということとなります。

 

 以上の検討に照らすと、法令遵守をせずに高層マンションを建築するケースは多いとは言えません。そのため、同高層マンションを建設した不動産会社等の所有者に対して、損害賠償請求をすることができる事案は限られていると思います。もっとも、注意が必要なのは、これはあくまでも高層マンションを建築した所有者との関係の問題であり、例えば、住居用の土地を購入する際に、その土地の販売業者が近隣に高層マンションは建設されない等の説明をしており、それが土地購入の主な動機となっているような場合で、購入後数年で高層マンションが建設されたようなケースでは、土地販売業者に対して、不法行為あるは債務不履行等を理由とする損害賠償請求をすることができる可能性はあります。 

 

 したがって、個別の事案で誰に対して何を根拠に損害賠償請求をすることができるのか、しっかりと検討をすることが大切です。

 

承継的共同正犯についての基本的な考え方

 共同正犯って難しいですよね。様々な判例や論点があり、一つ一つを丸暗記するは無理です。今回は、共同正犯の中でも有名な承継的共同正犯について、少し検討してみたいと思います。

 

1 共同正犯について

 共同正犯については、刑法第60条に規定があります。同条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」と規定しています。講学上共同正犯については、意思の連絡とそれに基づく実行が要件になるとされています。

 

2 承継的共同正犯とは

 承継的共同正犯とは、ざっくり言うと、先行行為者が実行行為に着手した後犯罪完成までの間に、後行行為者が先行行為者と意思の連絡をし、従前の犯罪行為(作出された犯罪状況等)を積極的に利用しながら実行行為を行った場合等に成立する共同正犯類型です(正確な定義は基本書等を参照した方が良いです)。

 

 途中から犯罪に加わることに、承継的共同正犯の特徴があります。つまり、通常の共同正犯の場合には、二人以上の者が、意思の連絡をし、同意思の連絡に基づき実行を行うこととなりますが、承継的共同正犯の場合には、先行行為者が実行に着手する時点では、意思の連絡がなく、途中から意思の連絡を生ずることとなります。そのため、意思の連絡が生ずる以前の先行行為者の実行行為あるいは作出された結果についても責任を負うためには、先行行為者の従前の犯罪行為(作出された犯罪状況)を積極的に利用する必要があるとされています。

 

 ここで重要なのは、あくまで途中で犯罪に加わったということです。つまり、犯罪が完成した後に、犯罪に加わったとしても承継的共同正犯は成立しないこととなります。例えば、殺人罪を例に考えてみると、AVの心臓をナイフで刺し、Vが死亡した後に、Aが更にVの死体に対して、死体だと認識した上で、ナイフで刺す行為を継続している途中で、BAと意思の連絡をし、その意思の連絡に基づきVの死体をナイフで刺す行為をしたとしても、既に殺人罪は成立した後に犯罪に加わっており、意思の連絡がそもそもない。あるいは、積極的な利用がない等の理由で、殺人罪の承継的共同正犯は成立しないこととなります。

 

 これは殺人罪の例なので比較的わかりやすいですが、強盗致傷罪(刑法240条前段)等の場合はどうでしょうか。これについて判示した下級審判決として、東京地方裁判所平成7年10月9日判決があります。

 

3 東京地方裁判所平成7年10月9日判決

 同判決では、事案を簡潔にすると、先行行為者が、被害者に対して暴行をして怪我をさせ反抗を抑圧した状態にした後に、後行行為者が先行行為者と金品奪取についての意思の連絡を遂げ、反抗抑圧状態を利用して、金品を奪取した場合に、後行行為者は、何罪になるのかが問題となった事案です。

 

 同判決は、この事案において、後行行為者については「強盗罪の共同正犯としての責任を負うものの、強盗致傷罪の共同正犯としての責任までは負わないものと解するのが相当である。」と判示しました。その理由として「後行行為者は、財物奪取行為に関与した時点で、先行行為者によるそれまでの行為とその意図を認識しているのみでなく、その結果である反抗抑圧状態を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用して財物奪取行為に加担しているのであるから、個人責任の原則を考慮にいれても、先行行為者の行為も含めた強盗罪の共同正犯としての責任を負わせるべきものと考えられるが、反抗抑圧状態の利用を超えて、被害者の傷害の結果についてまで積極的に利用したとはいえない」にも関わらず、責任を負わせるのは個人責任の原則に反すると判示しました。

 

4 注意点

 上記の下級審判決からすれば、致傷結果については、後行行為者が加わる前に既に発生しており、致傷の点については完結しており、反抗抑圧状態の積極的な利用はあっても致傷の積極的な利用はないと言えます。

 結合犯事案等の場合で承継的共同正犯を検討する際には、完結した部分とそうでない部分の峻別、言い換えると積極的利用が想定できない部分と想定できる部分を峻別することが非常に大切です。

 

共謀共同正犯についての概観

 刑法総論の中でも共犯は非常に難しいですよね。特に共謀共同正犯は概念として理解できても、その内容をしっかり理解するのはとても難しいと思います。そこで、今回は、共犯の中でも特に難しい共謀共同正犯についてざっくり全体を見ていきたいと思います。

 

1 共謀共同正犯とは何か?

 共謀共同正犯については、各基本書で色々な説明がなされていると思います。基本的な発想としては、実行行為者の背後にいる者を正犯として処罰するための法理というものがあります。この考え方がとても重要です。

 

 刑法第60条では「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて共犯とする。」と規定されています。実行共同正犯の場合には、意思の連絡とそれに基づく実行行為が必要であるとされていますが、実行共同正犯の場合、二人以上の者が、意思の連絡に基づきそれぞれ実行行為を行っているため、正犯性(正犯意思)の問題は顕在化しません。他方、共謀共同正犯の場合は、共謀および共謀に基づく実行行為が必要であるとされていますが、この共謀は、通常、意思の連絡と正犯性(正犯意思)を包含した概念であり、この共謀に基づく実行が必要とされています。というのも、共謀共同正犯の場合、二人以上の者が犯罪に関与しているものの、一人の者は、実行行為を行っていないため、実行行為を行っていない者が、正犯と言えるのか、正犯性(正犯意思)の問題が顕在化することとなります。

 

 そのため、共謀共同正犯の成否の検討については、共謀(意思の連絡+正犯性(正犯意思))及び同共謀に基づく実行行為が必要ということになります。

 

2 練馬事件について

 共謀共同正犯が共同正犯の類型として認められるかにつき、初めて判示したのがいわゆる練馬事件です(最大判昭和33年5月28日(刑集12巻8号1718頁)。

 

 同判決では、共謀共同正犯が成立する要件として「2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって、右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。」と判示しています。

 

 ここで重要なのは、「直接実行行為に関与しない者でも他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。」と判示している部分です。

 

 つまり、あくまでも正犯として処罰するために、自己の手段として犯罪を行ったという点を重視し、教唆犯ではなく共謀共同正犯という共同正犯の類型を認めることとなります。その結果、共謀共同正犯の成立要件としての共謀とは、意思の連絡だけでなく、正犯性(正犯意思)も必要ということとなります。

 

3 共謀共同正犯の検討における注意点

 各種資格試験等で、共謀共同正犯の検討をする際に、答案上、意思の連絡およびそれに基づく実行と書く人もいるかと思いますが、それですと、正犯性(正犯意思)の検討が抜け落ちる解答になっています。他方、共謀及び同共謀に基づく実行と書いている人でも、実質的に意思の連絡とそれに基づく実行行為のみを検討し、正犯性(正犯意思)を検討しない人もいます。また、共謀、正犯性、それに基づく実行という書き方をする人もいますが、この場合、共謀が何を指すのか判然としないという解答になります。

 

 そこで、答案を書く際には共謀がいかなる概念であるのか示した上で、意思の連絡と正犯性(正犯意思)を峻別しながら解答をすることが大切です。

 

会社法361条の取締役報酬における退職慰労金について

   株式会社と取締役の関係は、委任関係であるとされています(会社法330条)。民法上の委任契約については原則無報酬とされていますが、会社法では報酬を予定した規定として会社法第361条第1項があります。同条項は、いわゆるお手盛り防止の趣旨として規定されたものであるとされています。すなわち、取締役が自分自身の報酬を自分で決定することで、過大な報酬を定め、不当に会社財産を流出させ、株主及び会社債権者を害する事態が想定され、係る事態を防止するために定められた規定であるとされています。

 

 これらは主に報酬を想定して規定されたものですが、退職慰労金についてはどのように考えるべきでしょうか。

 

1  退職慰労金について

 そもそも、退職慰労金については、取締役が退任するにあたっての今までの感謝というようなニアンスが含まれていると思います。そうだとすると、一見、報酬などとは一線を画する金銭の支払とも思えます。しかし、一般的には、取締役の在任期間中の職務に対する後払い的なものと考えられており、最判昭和39年12月11日(民集18巻10号2143頁)では、退職慰労金についても、在職期間中における職務執行の対価として支給されるものである限り、報酬に含まれるとされています。その結果、退職慰労金についても、定款に定めがない限り「株主総会の決議をもってこれを定めるべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されない」と同判決は判示しています。その上で、同判決では、株主総会で一定の枠が決定されており、その枠の中で、取締役会が具体的な退職慰労金の額を決定することは許される旨を判示しています。

2  注意が必要なこと

 会社法第361条第1項では、取締役の報酬について、定款又は株主総会の決議でこれを決定する旨が定められています。そして、額が決まっていない場合には、その算定方法を定款又は株主総会の決議で決定することとなります。そのため、これらの決定により算定方法を設けた上で、取締役会が具体的な額を決定することは、同条項に違反せず、適法であるということになります。

 

 もっとも、注意が必要なのは、先に挙げたとおり会社法第361条第1項の趣旨が、お手盛り防止の趣旨にある以上、算定方法が多様な要素を盛り込みすぎ、実質的に基準として機能をしていないような場合には、取締役会が自由に報酬を決定することができてしまうため、同条項の趣旨に反し、報酬の決定が無効となる可能性があります。

 そのため、退職慰労金の算定方法を定める場合にも、基準としての明確性等が求められるます。

 

 しかし、一般の会社では、報酬基準についての見直しを定期的に行っていても、退職慰労金についての見直しがなされていない場合も多くあります。そのため、基準としての明確性を欠く場合や数十年前に規定した退職慰労金の算定方法が残ってしまっており、実際に退職慰労金を決定する場合に困るという事態も起きる可能性があります。

 そのため、報酬基準のみならず退職慰労金の基準についても定期的な見直しをすることが大切です。

 

会社法第361条の取締役報酬の変更について

  会社法第361条は、会社法上有名な条文です。しかし、内容を理解するのは少々難しいですよね。今回は、取締役の報酬について一度決定した後に、それを変更することが可能であるのかについて少し検討してみたいと思います。

 

1 会社第361条第1項について

  会社法第361条第1項は、以下のように定めています。

  まず、同条項の柱書では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と定めています。そして、各号で以下のように定めています。

第1号「報酬等のうち額が確定しているものについては、その額」

第2号「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」

第3号「報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容」

 

  これはいわゆるお手盛り防止の趣旨で定められた条項であるとされています。すなわち、取締役あるいは取締役会で、自らの報酬を自由に決定することができるとすると、取締役が自身の報酬額を過大に設定し、会社財産を不当に流出させ、株主及び会社債権者を害するおそれがあるため、かかる事態を防止するために、会社法第361条第1項は規定されたものと考えられています。

 

2 報酬額を変更する場合について

  では、一度定められた報酬額を後に変更することができるのでしょうか。

  この点、最判平成4年12月18日(民集46巻9号3006頁)では、定款又は株主総会の決議により取締役の報酬額が具体的に定められた場合において、「その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」と判示しています。

 

  そもそも、株式会社と取締役の関係は、委任関係であるとされています(会社法330条)。民法上の委任契約を想定して考えても、一度報酬内容の合意がなされて委任契約が成立した場合に、委任者の一方的な意思表示によって、報酬につき無報酬としたり、減額するとの内容に当然に変更されることはないと思います。あくまでもこの場合、委任者と受任者との間で再度報酬についての合意をする必要があると考えられます。ゆえに、上記最高裁判決は、契約の本質から考えれば、自然な帰結をしているものと思われます。

 

  もっとも、その後の下級審判決(東京地裁平成2年4月20日判決等)では、取締役の就任後の報酬が定められていて、その役職が任期中に変更したときには、変更後の役職について定められた報酬に当然になるとの報酬の定めや慣行がある場合に、これを知った上で取締役になった者は、意思表示をしていなくても、そのような役職の変更に伴う報酬の変動を承諾した上で、取締役に就任している以上、株式会社は一方的な意思表示によって、役職変更に伴う報酬減額をすることができる旨判示したものもあります。

 

  これについても、あくまでも取締役が、役職変更に伴う報酬減額について、会社と合意していたと考えられるケースであると思われます。つまり、あくまでも契約合意があったケースであり、上記の最高裁判決の枠を超えるものではないと思います。

 

3 どうするべきか

  取締役を選任し報酬を結締した後にその報酬額を変更したいと考える場合は多くあると思います。上記の判例等は、一度定めされた報酬を変更する場合という事案で問題となっているので、逆に言えば、報酬についての契約内容を単年度ごとに見直す等の条項を定款又は株主総会の決議で定めておけば、来年度の報酬については変更することは問題がないと考えられます。そのため、取締役に報酬を定める際には、その報酬額、算定方法のみならず、期間も一緒に検討をするのが良いと思います。