SNSで、芸能人等を対象として誹謗中傷をする記事をたまに目にしますが、度を超すと、脅迫罪や名誉毀損罪が成立することになりますよね。
しかし、法人に対して、脅迫罪は成立するのでしょうか?
結論から言うと、法人に対する脅迫罪は成立しません。
そこで、今回は、法人に対する脅迫罪がなぜ成立しないのか検討してみたいと思います。
1 脅迫罪とは
脅迫罪は刑法222条に規定されています。
刑法222条
第1項「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
第2項「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も前項と同様とする。」
まず、脅迫罪の保護法益は、意思決定の自由とされています。刑法222条に規定されている利益に対して害を加える旨を告知(一般的に「害悪の告知」とされています。)する場合、人は意思の自由を侵害されるため、かかる告知があったことをもって、脅迫罪は成立します(危険犯)。
もっとも、法人は概念的な存在であるため、かかる意思の自由を有しないと考えられます。
そこで、法人に対して害悪の告知を行った場合に、脅迫罪が成立するか否かが問題となります。かかる問題について、一定の判断を示したのが、高松高等裁判所平成8年1月25日判決です。
2 法人を客体とする脅迫罪の成否
前記裁判例では、脅迫罪は「意思の自由を保護法益とするものであること」を理由に、同罪は、「自然人を客体とする場合に限って」成立すると判示し、法人を客体とする脅迫罪の成立を否定しました。
もっとも、同裁判例は、「法人に対しその法益に危害を加えることを告知しても、それによって法人に対するものとして同罪が成立するものではなく、ただ、法人の法益に対する加害の告知が、ひいてその代表者、代理人等として現にその告知をうけた自然人自身の生命、身体、自由、名誉または財産に対する加害の告知にあたると評価され得る場合には」、害悪の告知を受けた自然人を客体とする脅迫罪が成立する旨の判示をしました。
裁判例のかかる判示は適切であると考えられます。というのも、刑法上、業務妨害罪や信用毀損罪等がそれぞれ規定されており、法人を客体とする脅迫罪の成立を認めなくとも、その他の犯罪の成立をもって、行為者を処罰することが可能と言えるからです。
また、裁判例の判示するとおり、個別具体的な事案によっては、形式的には法人を客体とするものであったとしても、その実質は害悪の告知を受けた代表者等の自然人に対するものと評価できる場合もあり、この場合に、自然人に対する害悪の告知を行ったと評価し、脅迫罪の成立を認めることも適切であると言えます。
3 最後に
以上のとおり、法人に対する脅迫罪は成立しません。しかし、その他の業務妨害罪等の犯罪が成立する余地は十分にあります。
また、仮に、業務妨害罪等が成立しないとしても、法人に対する害悪の告知が行われ、法人が損害を被った場合には、民事上の損害賠償責任が生じることとなります。
したがって、法人等を対象とする正当な批判は問題ありませんが、誹謗中傷をするのはやめた方が良いと言えます。