「オレオレ母さん。俺だよ!」という振り込め詐欺が今や定着してしまいましたが、最近は還付金詐欺やワンクリック詐欺などの様々なバリエーション豊富な詐欺が発生しています。怖いですね。
騙されないように注意することが一番大事!「そりゃそうだ!」と皆さん思いますよね。ですが、騙されてしまったらどうすればよいのでしょうか?詐欺師に騙されてしまった場合、どのようにして詐欺師からお金を取り戻すことができるのでしょうか。今回は、詐欺師からお金を取り戻す方法について検討してみたいと思います。
そもそも、詐欺とは?
まず、詐欺とは、詐欺行為によって相手方を錯誤に陥れて、当該錯誤に基づいて財物を交付させる行為です。
と!
なんだか難しいですよね。具体的に検討します。例えばオレオレ詐欺の場合を考えてみましょう。
詐欺師>「オレオレ。俺だよ!母さん。」
母>「たかし?元気にやってる?」
詐欺師>「そうだよ。たかしだよ!実は大変なんだ会社のお金を使い込んでしまって明日までに500万円必要なんだ。お願い母さん!助けて」(詐欺行為)
母>「たかし何しているのよ!わかった。すぐに母さんお金を振り込むね!」(錯誤)
母はその後、銀行でお金を振り込み、詐欺師の口座へお金が移転(交付行為)
B級映画のワンシーンみたいになってしまいましたが、要するに、ここでの詐欺行為は、「たかし」であること、「たかしが会社のお金を使い込み補てんのために明日までに500万円必要」だという嘘をついていることです。そして、母は、その嘘を信じたため、これが錯誤になり、その後、銀行に振り込んだ時点で交付行為及び財物移転が完了するので、詐欺が完成します。
補足)このような詐欺は、刑法246条の詐欺罪に当たり、「十年以下の懲役に処する」とされています。絶対にやらないようにしましょう。フリではありません。
詐欺師自身に請求する方法
では、このような詐欺に騙されてしまい実際にお金を振り込んでしまった場合には、詐欺師にどのようにして返還を求めるべきでしょうか。
これを規定しているのが、民法703条及び704条です(民法709条で請求もできますが、これは不法行為に基づく損害賠償請求のため、方法としては迂遠だと思います。)
民法703条・民法704条は、不当利得という制度を規定しています。不当利得制度とは、法律上の原因がないにもかかわらず、財物等を交付した場合にその返還を請求することができる制度です。
簡単にいうと、詐欺は民法96条に当たります。詐欺によって財物を交付したり契約をしたりした場合でも、それを取消すことを民法は認めています。
そして、取消の場合、当該交付や契約がさかのぼって無かったことになります。その結果、詐欺に騙さてお金を振り込んだとしても、詐欺師は、法律の原因がない、つまり不法にお金を保有しいてることになりますので、不当利得に当たり、被害者は返還を請求することができます。
このような詐欺師に対する返還請求は非常に簡明です。
詐欺師が逃亡した場合にはどうするの?
では、詐欺師が逃げてしまった場合には、どうすればよいのでしょうか?具体的にいうと、詐欺師が逃亡し、どこにいるかわからない場合裁判を起こすことはできないのでしょうか?
この点について、「詐欺師がどこにいるかわからない以上、泣き寝入りをするしかない」と思っている方も多いですが、実はこの場合、裁判を起こすことは可能です。いわゆる公示送達(民法110条1号)という方法を使います。
そもそも、裁判を起こすときには、訴状を裁判所に提出し、裁判所が訴状を被告に送達することで初めて有効な裁判が開始できます。ここでの送達は、手渡しで行うのが原則ですが、被告がどこにいるかわからない場合には、裁判所の掲示板に掲載することで、送達が完了します。これが公示送達です。そのため、被告である詐欺師がどこにいるかわからなくても、公示送達の方法で有効に裁判をすることができます。
実際の勝訴の見込み
実際に、オレオレ詐欺等で裁判を起こした場合には、勝訴できる可能性が高いです。というのもオレオレ詐欺の場合等は、組織的な犯罪が行われていることが多く、多数の被害届が出ており、これも詐欺の証拠として利用できます(当然、自分でも被害届を出しましょう)。また、振込み履歴や電話履歴も残っていることが多いので、裁判を有利に運べます。
そのため、詐欺の被害にあった場合には、決して泣き寝入りをせずに、戦うことが大切です。
*他にも振り込め詐欺救済法などによる回収方法もあります。
お金が返ってくる可能性は?
実際に、裁判で勝訴するのはさほど難しいことではありません。具体的なお金の回収方法としては、振り込んだ口座の詐欺師の銀行に対する預金債権を仮差押さえ、あるいは勝訴判決が出ていれば、差押さえをすることになります。そのため、詐欺師の口座にお金があれば、当然回収をすることは可能です。
ですが、詐欺師の多くは、振り込み先の口座から一度引き出し、別の口座にお金を入れるか、自分で持っていることが多いです。そのため、回収するのは難しいです。ゆえに、回収できないから諦めた方が良いという人も多いです。
しかし、本当にそうでしょうか?
裁判は起こすべきです。というのも、今検討しているのは、詐欺師が逃亡をしている場合ですよね。大規模になればなるほど警察も力を入れるので検挙する率はかなり高いです。これを前提にして下さい。その上で、裁判を起こすメリットはいくつかあります。
まず、裁判を起こすと、判決が確定されてから債権の時効が10年となります(民法174条の2)。その結果、判決時から10年間は詐欺師に対して支払請求をすることができます。
また、振り込め詐欺救済法は、基本的には詐欺師の口座を凍結して詐欺の被害者に分配することをメインにしている法律にすぎません。しかし、裁判で勝訴判決を得ると、詐欺師の預金債権だけでなく、詐欺師の保有資産すべてに対して執行をかけることができます。
つまり、詐欺師が別の口座に移して保有しているお金及び引き出して保有しているお金すべての資産に対して執行をかけることができます。
しかも、その執行は判決時から10年間はできます。
そうだとすると、逃亡していた詐欺師が発見されて検挙された際に、他の裁判をして勝訴判決を得ていない被害者は、詐欺師が任意でお金を返すことは基本的にありえないので、裁判を起こして勝訴判決を得て執行をかけるか、仮差押えの申し立てをするしかありません。
これは時間がかかります。
しかし、裁判で勝訴判決を得ている状態であれば、すぐに詐欺師の財産を差し押さえ執行をかけることができます。
つまり、他の被害者に先んじて債権回収を行うことが可能になり、債権回収の可能性が上がります。
そのため、将来のことを見越して裁判をして勝訴判決を得ておくのは非常に重要なことだと思います。
ちょっと補足
勝訴した場合には、詐欺師が有している銀行預金債権などを差し押さえることになりますが、下級審判決などでは、債権者代位(民法423条)で直接詐欺師の預金債権を取に行く方法も認めています。勉強をされている方は、債権保全の必要性を満たさないのではないか疑問に思われるかもしれません。しかし、下級審判決では債権保全の必要性を無資力要件ではなく、居所不明であることをもって認めるものがあります。そのため、無資力ではないことから直ちに債権者代位ができないことにはなりません。
司法試験とか公務員試験の発展問題で出るかもしてないから気を付け下さい。