会社法には株主の権利を規定した様々な規定がありますが、とりわけ、会計帳簿閲覧謄写請求権は重要な権利です。
というのも、株主提案権を行使する場合や株主代表訴訟を提起する場合において、会社の内部事情を適切に調査することが前提として重要となるからです。
そこで、今回は、株主に認められている調査権限である会計帳簿閲覧謄写請求権について検討をしてみたいと思います。
1 そもそも、会計帳簿閲覧謄写請求権とは?
まず、会計帳簿閲覧謄写請求権は、会社法433条に規定されています。
同法条第1項では、①総株主の議決権の百分の三以上の議決権を有する株主、または、②発行済株式の百分の三以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、請求の理由を明らかにしたうえで、会計帳簿閲覧謄写請求をすることができる旨を規定しています。
冒頭で述べたとおり、株主には株主代表訴訟の提訴権限等が認められています。そして、株主が当該提訴権限等を有効適切に行使するためには、会社の業務や財産の状況について詳細を知る必要性があります。そのため、会社法上、株主が会計帳簿閲を閲覧謄写できる権限が認められ
ています。
もっとも、会計帳簿は、株式会社の内部情報として機密性が一定程度高いため、会社荒らしや競業者が競争のために会計帳簿を閲覧謄写する可能性も否定できないため、会社法は、会計帳簿閲覧謄写請求権を少数株主権とし、また、株式会社が例外的に会計帳簿の閲覧謄写請求を拒否できる事由を定めています。
2 株式会社が拒否できる場合とは?
会社法433条第2項では、株主から会計帳簿閲覧謄写請求があった場合に、株式会社が例外的に、これを拒否できる事由として下記の5個の事由を規定しています。
①「当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。」
②「請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。」
③「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。」
④「請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。」
⑤「請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。」
これらの拒否事由のうち特に問題となるのが3号の事由です。
そこで、3号の事由とはどのような場合に認められるのか、判例及び裁判例では、以下のとおり判断基準を示しています。
3 「株式会社の業務と実質的に競争関係にある」場合とは?
まず、判例(最高裁平成21年1月15日決定)では、3号の事由を判断するにあたり、「株主が当該会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、当該株主に会計帳簿等の閲覧謄写によって知り得る情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図があることを要しない」旨を判示しています。
つまり、株主が競業に利用する目的を有していなかったとしても、客観的に競業の関係が認められれば、3号の事由を満たすこととなります。
そして、裁判例の中には、現に競業を行う会社のみならず、近い将来競業を行う蓋然性の高い会社も含まれる旨を判示する裁判例(東京地裁平成6年3月4日決定)や、親会社と一体的に事業を営んでいると評価することができる場合で、親会社の事業が株主の営んでいる業務と競争関係にある場合をも含む旨を判示する裁判例(東京地裁平成19年9月20日判決)等があります。
4 今後の運用について
以上のとおり、判例及び裁判例は、会社法433条第2項第3号事由該当性をかなり広く認める傾向にあると言えます。
もっとも、会計帳簿閲覧謄写請求権は株主代表訴訟の提訴権限等を実効あらしめるために極めて重要な権利であることに異論はありません。そのため、競争関係については、実質的に考えるべきであることはもちろんのこと、広く認め過ぎた場合の弊害も十分に考慮すべきであると言えます。そこで、今後の裁判実務上、限界基準を示す裁判例が出ることが望ましいと考えられます。