民事訴訟法を勉強していると、具体的なイメージが湧かない条文があると思います。その1つが、民事訴訟法第157条いわゆる時機に後れた攻撃防御方法の提出です。
そこで、今回は、民事訴訟法第157条について少し検討をしてみたいと思います。
1 訴訟の全体について
まず、どのような訴訟でもそうですが、いきなり訴訟を提起することはほとんどありません。
例えば、200万円貸したのに弁済期が到来したにもかかわらず、返済がない場合でも、貸した相手に、直ぐに訴訟提起することは稀です。
すなわち、弁護士に委任して、内容証明を送り示談交渉を行い、それでも、任意の弁済がされない場合に、訴訟を提起するというのが通常の流れだと思います。
2 民事訴訟法第157条第1項について
(1)総論
では、訴訟が開始して以降、民事訴訟法第157条第1項はどのような場面で機能するの でしょうか?
まず、条文をみてみましょう。
民事訴訟法第157条第1項は、「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」と規定しています。
この条文だけ見ると、どのような場面を想定しているのかイメージが湧かないですよね。
上記条項は、具体的には、①時機に後れた、②故意又は重大な過失、③訴訟の完結が遅延することの3つの要件を定めています。
(2)①時機に後れた
時機に後れたとは、実際の訴訟の進行に照らして、実際に提出された時期よりも早期の時点で提出することができ得る客観的事情の有無によって判断されます。
簡単に言うと、もっと前に出すことができましたよね。
というような場合です。
ただし、ここで注意が必要なのは、訴訟戦略を立てた場合、第1回期日で出さずに、第3回期日あるいは第4回期日に証拠や主張を出した方が効果的な場合もあります。
したがって、第1回期日に出さず、第3回期日に出した場合に、直ちに「時機に後れた」と認定されることはあまりないです。
(3)②故意又は重大な過失
上記条項の故意又は重大な過失とは、一般的に訴訟の完結を遅延させることについては要求されておらず、単に提出が時機に後れて提出することについて認識しているないしは著しい注意義務違反で認識していない場合に、認定されます。
つまり、上記①の要件についての認識だけあればよく、下記の③の要件について認識していなくても、②故意又は重大な過失の要件を満たすということになります。
(4)③訴訟の完結が遅延すること
訴訟の完結が遅延することについては、所説ありますが、通説的な見解は、実際に攻撃防御方法が提出され、これが却下されずに審理を行った場合の訴訟の完結の時点が、却下した場合の訴訟の完結の時点よりも後である場合を意味するとされています。
3 結局どういうこと?
民事訴訟法第157条第1項の内容について以上のとおり検討してきましたが、実際のところ、同条項の要件を満たす場合は、さほど多くありません。
例えば、裁判所が、数期日提出が遅れた程度で上記条項の要件を満たすので、却下すると認定することは非常に稀だと言えます。
具体的にありうる場合としては、書証及び人証の調べが終了し、次回期日に最終準備書面を提出し、同期日で口頭弁論を終結する予定であったにもかかわらず、従前全く主張していなかった事項について、主張及び証拠を提出するような場合だと思います。
したがって、弁護士に委任して訴訟を行う場合には、原告側では訴訟提起前の段階、被告側では、初回期日あるいは第2回期日までには、全ての事情を話し、それぞ裏付ける資料等を弁護士に預けておいた方が無難であると考えられます。