1 ドラマの名シーン
ドラマ等を見ていると、主人公が仲間を傷つけてしまい、自責の念にかられて「俺を殴れ」と言って、仲間が泣きながら主人公の顔面を殴り、主人公と仲間が抱き合うなんていうシーンをたまに見ますよね。
青春ですね!
若いっていいなと心の中で思うのですが、仲間が主人公の顔面を殴って、主人公が打撲や切り傷を負った場合、これって傷害罪という犯罪になるのではないでしょうか?
本当に空気が読めない発想ですが、気になるので少し考えてみたいと思います。
2 傷害罪とは?
まず、傷害罪は、刑法第204条に規定されている犯罪です。
刑法第204条は「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
ここでいうところの「傷害」とは、人の生理的機能に障害を加えることと言われています。なんだか難しいですね。
例えば、殴って切り傷や打撲を負わせる場合や、薬を飲ませて、下痢や頭痛を生じさせる場合がこれに当たります。
少し注意が必要なのは、傷害罪はあくまでも傷害結果を生じさせる犯罪なので、その方法は、有形無形を問いません。
拡声器で隣の家に向かって悪口を毎日浴びせて、その隣人が精神的なストレスで、頭痛などの症状を発症すれば、殴る蹴るなどの方法をとらなくても傷害罪が成立することになります。
3 同意がある場合
では、被害者が同意をしている場合には、どのように考えるべきなのでしょうか。ドラマ等の場合とは異なり、現実的によく問題となるのが保険金詐欺の事案です。
例えば、交通事故を装い、知り合いに自動車を運転させ、自身が乗車している自動車に衝突させ、自分自身が交通事故で怪我をしたことを装い、保険金を請求するというような事案が散見されます。この場合、詐欺罪の成否は置いておいて、傷害罪に関しては、同意がある以上成立するのかが問題になります。
この点について、最決昭和55年11月13日(刑集34巻6号396頁)は以下のように判示しました。
「被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在する事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体障害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である。」と判示しました。
この判例を前提にするとほとんどのこの手の保険金詐欺事案は、違法性阻却されず、傷害罪が成立すると考えられます。
4 結局のところ
では、本題にもどりドラマのシーンの場合は、どのように考えるべきでしょうか。
上記判例は、事案が異なるので判例法理が直ちに妥当するわけではありませんが、このシーンの場合、非常に難しいです。場合によっては、傷害罪が成立する余地もあると思います。
それもあってかどうかは知りませんが、最近暴力シーンを含むドラマや映画があまり日本では作られていないです。
賛否両論もありますが、面白いドラマが今後も作られることを願っています。