昔から、株主が、株主総会において取締役等の責任を追及したり、更迭したりするために質問をすることが度々行われてきました。
株主のこのような質問に対して、取締役等は、どのような説明義務を負うのでしょうか?
そこで、今回は、株主総会における取締役の回答について会社法上の規定を勉強してみます。
1 会社法第314条について
まず、取締役の説明責任を規定した条文として会社法第314条がありますので、この条文をみてみましょう。
会社法第314条は、「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。」と規定しています。
2 説明義務の有無程度
以上の会社法第314条の規定に照らすと、前提として、取締役等の役員は、株主総会において、株主から説明を求められた場合にのみ、説明義務が生じます。
裁判例においても、「取締役等の説明義務は株主総会において説明を求められて始めて生ずるものであることは右規定の文言から明らかであり、右規定の上からは、予め会社に質問状を提出しても、総会で質問をしない限り、取締役等がこれについて説明しなければならないものではない。」と判示したものがあります(東京高判昭和61年2月19日)。
したがって、取締役等は、株主から株主総会において、説明を求められなければ説明をすべき義務がないことは明らかと言えます。
では、株主から説明を求められた場合、どのような方法でどの程度説明をすべき義務があるのでしょうか?
まず、会社法上、役員等の説明の方法について定めた規定がないことから、ある特定の方法を用いるべき法的義務はないと合理的に考えられます。
そして、説明の程度については、上記裁判例では、「株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲で説明をすれば足りる」と判示しています。
3 総括
以上の会社法第314条の規定及び裁判例を見ると、取締役等は、株主総会において、株主から質問を受けなければ説明をすべき義務がなく、また、質問があった場合でも、株主総会の目的事項については、もちろんのこと、殊更詳細な説明をすべき法的義務までは負わないと言えます。
したがって、取締役等としては、株主総会前に想定問答集等を作成する場合、どの程度説明をすべき法的義務があるかをしっかりと見定めて同問答集を作成することが重要となります。