1 覚せい剤自己使用の場合
芸能人や著名人が覚せい剤を使用して、有罪になるニュースとかよく見ますよね。このような覚せい剤自己使用の場合、決定的な証拠として尿及びその鑑定結果が挙げられることがよくあります。このような尿は、被疑者が自ら進んで提出する場合や捜査機関の説得に応じて、任意に提出することも多いです。任意提出の場合、あくまでも被疑者の意思に基づいて任意に提出されたものであるため、令状がなくても捜査機関は、提出された尿を押収することができます。
しかし、被疑者が頑なに尿の提出を拒否した場合はどうでしょうか。この場合、通常想定される強制的に尿を採取する方法としては、尿道にカテーテルを入れて尿を体外に排出させる方法があります。このような方法をそもそも行うことができるのか、また行うとした場合にどのような令状が必要なのかが問題となっていました。
2 最決昭和55年10月23日刑集34巻5号300頁
では、どのような令状があれば、捜査機関は、強制採尿を行うことができるのでしょうか。この点、最決昭和55年10月23日刑集34巻5号300頁は以下のように判示しています。
まず、強制採尿は、「身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対してある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によって適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあっても軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由」はないとし、
「被疑事件の重要性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続きを経てこれを行うことも許されてしかるべき」と判示しています。
つまり、簡単に言うと、尿道にカテーテルを入れて強制的に尿を採取すると、確かに、屈辱感等の精神的な打撃はありますが、身体検査における場合と同程度であり、基本的には障害を引き起こすものではありません(起きても軽微にとどまります)。そのため、強制処分としてできる余地があります。といような意味で判示していると考えられます。
では、強制処分はどの類型に当たるとして令状が必要になるのでしょうか。
この点、同最決は以下のように判示しました。
捜査機関が強制採尿を実施するには「捜索差押令状を必要とすると解するべきである。ただし、右行為は、人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法281条5項が右捜索差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として、強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である」と判示しています。
つまり、尿道にカテーテルを入れて尿を体外に排出させて尿を押収することは、捜索及び差押えとしての性質を有しているので、捜索差押許可状によるべきですが、その場合、人体に対する侵襲を行うので、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が必要とされました。
3 どうでもよい議論?
このように捜索差押許可状によることが基本的な実務でも定着をしてきています。しかし、同決定がでる前までは、強制採尿がそもそもできるのか否か、できるとしても鑑定処分許可状によるべきであるという説も実際にはありました。
このような議論は一見どうでもよいように思うのですが、かなり重要で新しい人体侵襲を伴う捜査手法があらわれた場合に、法律上規定されているどのような強制処分であると解し、どのような令状が必要になるのか真剣に考えなければなりません。そのため、強制採尿についてのロジックも、新しい捜査手法が出現した場合に実施することができるのか否かを考えるに当たりとても重要になります。