刑訴法の勉強をしていると、訴因変更の要否はメジャーな論点ですよね。しかし、実際に問題とかを解いてみると、意外に理解できていなかったりするかもしれません。
そこで、今回は、訴因変更の要否の問題について検討をしてみたいと思います。
1 そもそも訴因変更とは何か。
まず、訴因とは、刑事裁判において審判対象となる犯罪事実をいいます。そのため、訴因として必要不可欠な事実は、罪となる事実(構成要件該当事実等)及び他の犯罪と区別できる事実ということとなります。
では、訴因変更って何でしょうか。
この点、刑訴法312条1項では、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」と規定しています。
すなわち、起訴状に記載された訴因について、一定の事実変化が生じた場合に、検察官が請求することにより、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更の請求を行うこととなります。
では、訴因変更が必要な場合とはどのような場合でしょうか。
すなわち、審理の結果、裁判所が起訴状記載の事実と異なる心証を形成した場合(一定の事実変化が生じた場合)において、検察官が訴因変更の請求を行わないときに、裁判所が、心証の事実どおりの事実を認定することができるのか、それとも、検察官が訴因変更を行わなければ、当該心証どおりの事実認定をすることができないのかが問題となります。
この点について最高裁平成13年4月11日決定が判断を示しています。
2 判例の判示事項
上記判例は、殺人罪などの共謀共同正犯として起訴された事案です。そして、検察官が、訴因変更の請求をしない場合、裁判所が、検察官が請求している訴因の実行行為者と異なる実行行為者を認定したことについて、法令違反の有無が争われました。最高裁は、この点について下記のとおり判断を示しています。
訴因と認定した事実を比較した場合に「犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。」と判示した上で、
「そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから」、原則として、審判対象の画定という見地から、訴因変更が必要となるとはいえない。と判示しました。
もっとも、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者を明示した以上」、裁判所が実質的に異なる認定をするためには、原則として、訴因変更手続きを要すると判示しました。
しかし、判例は、実行行為者の明示は訴因の記載として不可欠な事項ではないため、「被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実とくらべて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない」と判示しました。
3 結局のところ
以上の判例の判示した内容は一見難しいですが、実際のところ、さほど難しくはありません。
そもそも、訴因にとって不可欠な要素とは、先述したとおり、罪となる事実と他の犯罪と区別できる事実です。これらに変更が生じた場合には、当然のことながら、審判対象が変ってしまうため、訴因変更が必要となります。
そして、これ以外の事実について変更が生じた場合には、審判対象自体に変化はないものの被告人の防御の観点から訴因変更をした方が良い場合があると言えます。この点について、判例は、「被告人の防御にとって重要な事項」が、訴因として明示されていた場合には、訴因変更が必要だとしつつ、具体的な事情を考慮し、訴因変更をしなくてもよい場合を示しました。
被告人の防御にとって重要な事項とは量刑に関わる事実が代表的なものであると考えられるため、犯行態様、結果の内容程度等が例としては挙げられます。
判例の基準は個々の要素を見ていくと当然の帰結であると考えられます。そのため、問題などを解くときは、どのような事実が、判例の基準のどの要素にかかわるものであるかしっかりと考えることが大切です。