5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

刑訴法312条1項 訴因変更の要否!判例にみる基本的な考え方

 

 

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 刑訴法の勉強をしていると、訴因変更の要否はメジャーな論点ですよね。しかし、実際に問題とかを解いてみると、意外に理解できていなかったりするかもしれません。

 そこで、今回は、訴因変更の要否の問題について検討をしてみたいと思います。

 

 

 

 

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1 そもそも訴因変更とは何か。

 まず、訴因とは、刑事裁判において審判対象となる犯罪事実をいいます。そのため、訴因として必要不可欠な事実は、罪となる事実(構成要件該当事実等)及び他の犯罪と区別できる事実ということとなります。

 

では、訴因変更って何でしょうか。

 この点、刑訴法312条1項では、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」と規定しています。

 

 すなわち、起訴状に記載された訴因について、一定の事実変化が生じた場合に、検察官が請求することにより、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更の請求を行うこととなります。

 

 では、訴因変更が必要な場合とはどのような場合でしょうか。

 すなわち、審理の結果、裁判所が起訴状記載の事実と異なる心証を形成した場合(一定の事実変化が生じた場合)において、検察官が訴因変更の請求を行わないときに、裁判所が、心証の事実どおりの事実を認定することができるのか、それとも、検察官が訴因変更を行わなければ、当該心証どおりの事実認定をすることができないのかが問題となります。

 

 この点について最高裁平成13年4月11日決定が判断を示しています。

 

2 判例の判示事項

上記判例は、殺人罪などの共謀共同正犯として起訴された事案です。そして、検察官が、訴因変更の請求をしない場合、裁判所が、検察官が請求している訴因の実行行為者と異なる実行行為者を認定したことについて、法令違反の有無が争われました。最高裁は、この点について下記のとおり判断を示しています。

 

訴因と認定した事実を比較した場合に「犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。」と判示した上で、

 

「そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから」、原則として、審判対象の画定という見地から、訴因変更が必要となるとはいえない。と判示しました。

 

 もっとも、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者を明示した以上」、裁判所が実質的に異なる認定をするためには、原則として、訴因変更手続きを要すると判示しました。

 

 しかし、判例は、実行行為者の明示は訴因の記載として不可欠な事項ではないため、「被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実とくらべて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続きを経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない」と判示しました。

 

 

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3 結局のところ

 以上の判例の判示した内容は一見難しいですが、実際のところ、さほど難しくはありません。

 

 そもそも、訴因にとって不可欠な要素とは、先述したとおり、罪となる事実と他の犯罪と区別できる事実です。これらに変更が生じた場合には、当然のことながら、審判対象が変ってしまうため、訴因変更が必要となります。

 

 そして、これ以外の事実について変更が生じた場合には、審判対象自体に変化はないものの被告人の防御の観点から訴因変更をした方が良い場合があると言えます。この点について、判例は、「被告人の防御にとって重要な事項」が、訴因として明示されていた場合には、訴因変更が必要だとしつつ、具体的な事情を考慮し、訴因変更をしなくてもよい場合を示しました。

 

 被告人の防御にとって重要な事項とは量刑に関わる事実が代表的なものであると考えられるため、犯行態様、結果の内容程度等が例としては挙げられます。

 

 判例の基準は個々の要素を見ていくと当然の帰結であると考えられます。そのため、問題などを解くときは、どのような事実が、判例の基準のどの要素にかかわるものであるかしっかりと考えることが大切です。

 

 

 

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婚約破棄された!損害賠償請求したいけれど、これって不法行為?民法の話

 

 

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 好きな人からプロポーズされると本当に嬉しいでよね。

 しかし、いざっ結婚となった瞬間に、相手が婚約破棄をしてきた。 

 悲しい思いや、悔しい思い、様々な感情が駆け巡り、どうしても許せないと思う事もありますよね。

 

 そこで、今回は、婚約破棄をされた時に損害賠償請求をすることができるのか?検討をしてみたいと思います。

 

1 婚約の成立

 まず、そもそも、相手に対して損害賠償請求をする前提として、当事者間に婚約が成立していたことが必要となります。

 

 では、婚約とは具体的にどのようなことをいうのでしょうか。

 婚約とは、将来婚姻をしようとする当事者間の予約の合意であると言われており、当事者間の合意のみで成立はします。

 しかし、そのような婚約の合意は、将来確実に夫婦になろうという内容である必要があるため、一般的には、婚約指輪の授受、結婚式へ向けた準備、両家の顔合わせ、結納等の客観的な事情が全くなければ、認められません。

 というのも、このような外形的な事情が全く存在しないような場合に、婚約の成立を認めてしまうならば、学生同士で、安易な気持ちで、「結婚しよう」等といっていて、その後、別れてしまった場合、全て婚約破棄ということになってしまい、日本全国で婚約破棄が横行してしまうことになります。

婚姻は、身分関係を形成させる法律行為であり、当事者に権利義務を生じさせるものです。それゆえ、婚姻の予約である婚約についても、ある程度法律的に保護すべき次元のものである必要があるため、安易な気持ちで当事者が口約束をしていっただけでは、法律上の保護対象とすべきではなく、裁判上、認められないことが多いです。

 

2 婚約と似ている内縁関係

 また、婚約と似たような概念で、内縁関係というものがあります。

 内縁関係とは、婚姻意思があり社会的に見ても夫婦としての生活実態がある関係をいいます。

 内縁関係と婚約関係は、併存する場合がありますが、婚約の場合は、あくまでも将来婚姻をしようとする当事者間の予約であるため、現時点で、同居等をしておらず、社会的に見ても夫婦としての生活実態がない場合でも成立します。

 なお、内縁関係が不当に解消された場合にも、民法709条の不法行為または民法415条の債務不履行に基づき損害賠償請求をすることができます。

 

 

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3 婚約破棄を理由とする損害賠償請求

以上のとおり、婚約が成立するとして、これを破棄された場合に、相手方に損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

原則、民法第709条の不法行為に基づき損害賠償請求をすることができる可能性があります。

典型的な損害としては、慰謝料です。また、式場のキャンセル料や結婚に向けて家具等を購入していた場合には、その費用も経済的な損害として認められる可能性があります。

もっとも、慰謝料は認められる可能性が高いですが、家具等については、結婚をしなくても使用可能なものも多いため、裁判上、購入費用の全額を損害として認定することは稀です。

 

以上のとおり、婚約破棄をされた場合に損害賠償請求をすることができる可能性がありますが、婚約の破棄に正当な理由がある場合には、相手方の婚約破棄は不法行為とはならず、賠償義務が否定されることがあります。

 

この点、正当な理由については、民法770条の離婚事由が参考になりますが、個人的には、もっと、認められる範囲が限定されていると思います。典型例としては、自分自身が家出等をして所在不明になった場合や、相手方に対して、虐待、暴行、侮辱等のハラスメント行為を常習的に行っていた場合であるとか、明らかに自分に落ち度があるようなケースでなければ、相手方が婚約破棄をしたときに、正当理由が認められることはないと考えられます。

 

4 終わりに

 相手方が一方的に婚約破棄をしてきた場合には、民法709条の不法行為等に基づき損害賠償請求をすることができます。

 また、ケースバイケースですが、慰謝料の金額も数百万円程度になることも珍しくありません。

 もし、婚約破棄をされた場合には、泣き寝入りをせずに、しっかりと責任追及をすることが大切です。

 

 

 

 

 

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会社法423条にみる経営判断の原則!善管注意義務違反の考え方

 経営判断の原則は、会社法上有名な論点ですよね。

 

 今回は、会社法第423条でよく問題となる経営判断の原則について、検討してみたいと思います。

 

 

1 経営判断の原則って何?

 まず、取締役と株式会社の関係は、委任契約の関係にあるとされています。それゆえ、取締役は、職務を執行するにあたり、株式会社に損害が生じないように、善管注意義務を負います。また、会社法上は忠実義務が規定されています。

 

 それゆえ、原則的に考えれば、株式会社に損害が生じれば、取締役は善管注意義務及び忠実義務に違反し会社法第423条の任務懈怠が認められることになるとも思います。

 

 もっとも、取締役の職務執行とは、株式会社に利益をもたらすために行うものですが、その反面、リスクも当然存在します。取締役が株式会社に利益をもたらそうと職務を執行をした結果、逆に株式会社に損害が生じてしまう場合も往々にして起こり得ます。

 

 そうだとすると、取締役が職務執行の結果、株式会社に損害が生じれば直ちに、取締役がその損害を賠償すべき責任を負うとすると、誰も取締役をやりませんし、取締役になったとしても、リスクをとってまで経営戦略を行うことはせず、結果、株式会社の利益とならない事態が生じます。

 

 そこで、経営判断の原則という概念が採用され、取締役には、職務執行上、裁量権が認められており、職務執行をする際に、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しないとされています。

 

 なお、経営判断の原則は以上の経緯から採用された概念であるため、取締役の法令違反行為、利益相反行為、監視義務違反行為については、適用されないと一般的に考えられています。

 

 監視義務違反については、以下のリンクを参照してください。

 

 

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2 経営判断の原則と注意義務違反の程度とは?

 以上の経営判断の原則に鑑みると、取締役の職務執行について、善管注意義務違反が認められるケースはほとんどないようにも思いますが、実は、そんなに単純なものではありません。

 

 経営判断の原則について判示した最高裁平成22年7月15日判決では、グループの事業再編計画の一環として行われた株式の引き受けについて、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮し決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解するべきであると判示しています。

 

 すなわち、最高裁は、あくまでも判断過程及び内容について、様々な角度から検討をすべきことを示唆しており、十分な調査や分析を行わなかった場合には、その過程または内容について著しく不合理だとして、取締役の善管注意義務違反を認めることとなります。

 

 したがって、経営判断の原則が採用されているからといって、取締役の善管注意義務の程度が下がるということはないと言えます。

 

3 具体的な視点

 経営判断の原則を検討してきましたが、結局のところ、取締役の善管注意義務違反が認められるか否かは、ケースバイケースと言わざるを得ません。

 

 例えば、しっかりとしたリサーチと分析を行い、かつ、弁護士や税理士などの専門家の意見を聞きながら、取締役が職務を執行していた場合には、基本的には善管注意義務違反は認められない可能性が高いです。他方、取締役が、知り合いが株式会社を設立するので、応援する目的で、何ら調査及び分析をしないで、出資をしてしまえば、その過程または内容が著しく不合理だとして善管注意義務違反が認められることになります。

 

 したがって、経営判断の原則を採用するとしても、取締役は、職務執行に際して、どのような調査をすべきかどのような分析を行うべきか、どのような内容とすべきか、しっかりと考える必要があると言えます。

 

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押さえておくべき!会社法上の取締役の監視義務違反の話

 会社の不祥事が起きた際に、代表取締役等の事業執行をした取締役が法的責任を追及されるのは納得がいきますが、不正行為に直接関与していない取締役も法的責任を追及されるのはどこか納得がいきませんよね。

 

これはなぜでしょうか?

 

今回は、取締役が負う監視義務の内容と監視具義務違反について、少し考えてみたいと思います。

 

1 取締役の監視義務違反とは?

 まず、会社法第362条第2項第2号では、取締役会が行う職務として、取締役の職務の執行の監督が規定されています。

 そのため、取締役会の構成員である取締役は、他の取締役を監視すべき義務を負うこととなります。

 

 かかる監視義務の内容について最高裁昭和48年5月22日判決は以下のとおり判示しています。

 「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるように職務をするものと解するべきである。」

 以上のとおり判断を示しています。

 

 最高裁の判示した内容を前提とすると、取締役は、他の取締役の職務執行について、不正行為等の表徴がある場合には、その取締役の職務執行について調査をし、不正であることが判明すれば、これを是正すべき措置を講ずるべき義務を負います。これがいわゆる監視義務の内容です。

 

 そのため、取締役は、かかる表徴があるにもかかわらず、適切な調査を行わずに、何ら是正措置を講じなければ、監視義務違反として法的責任を負うこととなります。

 

 

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2 監視義務違反の例外とは?

 もっとも、監視義務違反については、そもそも、同違反が認められるか否か、また認められるとしても、ただちに会社法第423条に基づく損害賠償責任が生じるのか否かについては、慎重に検討をしなければなりません。

 

 そもそも、大企業等では、いわゆる内部統制システムが構築運用されているため、各取締役は、自身の担当部門を持っています。すなわち、株式会社内部で、取締役はそれぞれの担当部門において、職務執行をしているため、他の部門を担当している取締役が不正行為を行っているのか否かを知るのはなかなか難しい場合が多いです。

 

 そこで、取締役は、他の取締役が、適法かつ適切に職務執行を行っていると信頼してよく、かかる信頼が破られるような、不正をしている表徴があるような場面において、監視義務が顕在化することとなります。

 

 したがって、監視義務違反の有無については、各取締役が部門ごとに職務を執行しているのか否か、また、信頼の原則を打ち破るような表徴があるのか否かがとても重要となります。

 

 さらに、監視義務違反があったとしても、株式会社が被った損害との間に因果関係があるのかが問題になることも多いです。

 

 例えば、ある取締役が不正な出資行為を行ったとします。

 そして、1億円が会社外へ流出してしまい出資先が倒産をしてしまったとします。

 

 この場合、他の取締役が不正な出資行為について、必要な調査等を行わなかったとして監視義務違反が問題になるとしても、監視義務違反が認められる時期には、不正な出資行為は終わっており、すでに1憶円が会社外へ流失してしまっていた場合には、監視義務違反と会社の被った損害との間に因果関係がないとして、会社法第423条責任が否定される可能性があります。

 

 もっとも、事案によって異なりますが、前記例のように社外に1億円流出してしまった場合、出資行為が違法であるならば、出資行為自体が無効となり、株式会社としては、不当利得に基づく返還請求として、出資先に1億円の返還を求めることも十分に可能です。

 

 かかる状況下にあるにもかかわらず、取締役が、調査及び是正措置を講じずに放置しているような場合には、回収可能性が下がったことを損害として捉えた上で、因果関係があると認定することもあり得るとは思います。

 

3 結局のところ

 以上のとおり、取締役の監視義務違反について検討をしてきましたが、実際のところ、同義務違反があるか否かを判断するのは難しいです。また、会社法第423条に基づき責任追及をする場面において、監視義務違反が認められるとしても、因果関係が肯定されるか否か慎重な判断をする必要があると言えます。

 

 

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知っておくおくべき!登記簿上の取締役の損害賠償責任の有無とは?

 

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 取締役に就任すると、登記簿に記載されます。逆もまたしかりで、取締役は辞任すると、抹消登記がされることとなります。

 

 ところで、取締役は、株式会社の業務執行機関として、事業を遂行することとなりますが、その過程で、取締役は、株式会社に損害を負わせれば、会社法423条に基づく損害賠償責任を負うことがあり、第三者に損害を負わせれば、会社法429条に基づく損害賠償責任を負うことがあります。

 

 では、取締役が退任後に登記を抹消していなかった場合に、取締役は、これらの損害賠償責任を負うことはあるのでしょうか?

 

 今回は、登記簿上の取締役の損害賠償責任につい検討をしようと思います。

 

1 基本的な視点

 そもそも、取締役は、株主総会の決議により選任され、就任することとなります。そして、任期満了や解任決議により取締役を辞任することとなります。

 

 すなわち、登記簿への記載されていることは、取締役の要件ではありません。

 

 したがって、取締役を退任した者が、仮に、登記簿上、取締役として記載されていても、退任後、他の取締役が株式会社の事業執行を行い、株式会社または第三者に損害が生じさせたとしても、取締役ではない以上、賠償責任を負わないのが原則です。

 

 この点、少し注意が必要なのは、会社法第908条第2項です。同条項は「故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。」と規定しています。

 

 同条項は、「不実の事項を登記した者」と規定していますが、取締役の退任登記をする申請権限を持っているのは、株式会社です。

 

 すなわち、取締役は、登記をする権限を有していないため、同条項を根拠に取締役を退任した者が、同退任を対抗できないという論理は認められません。

 

 では、どのように考えるべきでしょうか?

この点について、最判昭和62年4月16日は、以下のとおり判示しています。

 

 

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2 最判昭和62年4月16日

 まず、判例は、株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらず、なお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてしてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対して、原則、損害賠償責任を負わない旨を判示しました。

 

 もっとも、判例は「取締役を辞任した者が、登記申請者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていた等の特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法14条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。」と判示しました。

*なお、「同法14条」は現行の会社法第908条2項に対応する条項です。

 

3 最後に 

 前述のとおり、取締役の選任及び退任についての登記申請権限は、株式会社が有しているため、取締役自身が関与できる事項ではありません。

 もっとも、「辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていた等の特段の事情が存在する場合」には、取締役に対して、ある種の自己責任を問うことができると考えられます。

 

 したがって、判例の判示する内容は、概ね妥当であると言えます。

 

 今後の、判例の判示する「特段の事情」について、如何なる事情があれば認められるのかについて、ますます判例が蓄積していくと考えられます。

 

 

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直ぐに理解できる!取締役会の承認決議を欠く代表取締役の取引行為の効力とは?

 

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   まず、株式会社では、一般的に、代表取締役を選定することが多いです。

 そして、代表取締役を選定した場合には、会社法349条第4項の規定のとおり、「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」こととなります。

 

 したがって、代表取締役は、株式会社のために、取引先との契約を締結し、取引をしたり、訴訟を提起することができます。

 

 なお、代理行為と代表行為は似ていますが、若干異なるものです。代理行為の場合、代理人が本人のために、相手方と契約を締結し、その効果が本人に帰属することとなりますが、代表行為の場合は、代表者がなした行為は、本人の行為としてみなされます。したがって、代理行為と代表行為では、要件事実も異なります。

 

 少し脱線してしまいましたが、本題に戻ります。今回は、本来、取締役会の承認決議が必要であるにもかかわらず、代表取締役が、同決議を欠いて行った、取引行為の効力について少し検討してみたいと思います。

 

 

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1 判例について

 まず、そもそも、法の一般原則に照らせば、法令違反のある行為の効力は、無効となります。しかし、取締役会の承認決議が必要な場合に、これを欠くのは、あくまでも内部的な問題に過ぎず、相手方が承認決議の有無を知ることが難しいとの実情もあわせ考えれば、対外的には有効にすべき場合もあると考えられます。

 

 この点について、一定の判断を示したのが、最高裁昭和40年9月22日判決です。

 

 判例は、「株式会社の一定の業務執行に関する内部的意思決定をする権限が取締役会に属する場合には、代表取締役は、取締役会の決議に従って、株式会社を代表して右業務執行行為に関する法律行為をすることを要する。しかし、代表取締役は、株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、ただ、相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限って、無効である、と解するのが相当です。」と判示しました。

 

 すなわち、判例は、法の一般原則とは、異なり、取締役会の承認決議を経ていない場合であっても、代表取締役の取引行為は、原則有効であり、ただし、相手方が悪意または過失がある場合には、無効になるとの判断を示しました。

 

 同判例の判断枠組みは、現在も維持されています。

 

 判例の判断基準については、内部的な取締役会の承認決議を、相手方が判断をしずらいという事情を考慮すると、正当なものだと考えられます。

 

 しかし、相手方の過失評価については、個々の事案により慎重に判断をすべきと考えられます。

 

 例えば、会社法362条4項1号の「重要な財産の処分」については、法律上、取締役会の承認決議が必要であるとされています。周知のとおり、「重要な財産の処分」に該当するか否かは、個々の事案で具体的に判断する必要がありますが、金額及び会社の規模から、相手方が、重要な財産の処分に該当する可能性が高いと分かる場合もあると思います。

 

 このよう場合に、相手方が、代表取締役に対して、取締役会の承認決議を経ているか否か、確認すらしていないような事案では、過失を認めるべきだと考えられます。

 

 

 すなわち、原則、有効であるとしても、個別の事案では、効力が否定される可能性が高い事案もあります。

 

 

2 最後に

 以上のとおり、取締役の承認決議を欠く代表取締役の取引行為の効力を検討してきましたが、無効の主張をだれがすることができるのかという問題があります。

 

 この問題について、最高裁平21年4月17日判決は、無効の主張は原則として、株式会社しか行うことができない旨を判示しました。

 

そもそも、会社法362項第4項等が取締役会の承認決議を必要としているのは、代表取締役等に権力が集中し、不適切な業務執行が行われるのを未然に防ぐためであると考えられます。

 

 したがって、無効により利益を受ける会社のみに主張適格を与えるのは適切であると言えます。

 

 取締役会の承認決議を欠く代表取締役の取引行為の効力については、争う場面、取引の内容により、個別具体的な判断をせざるを得ない場合が多いです。特に、過失評価がその典型だと言えます。

 

 したがって、今後も、下級審判決も含む判例の蓄積により明確なルールが形成されていく可能性が高いです。

 

 

 

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会社法356条第1項第1号。取締役が負う競業避止義務とは?

 

 

 

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会社法356条第1項は有名な条文です。同条項には、各号において、取締役が行う場合に、株主総会の承認(取締役設置会社においては、取締役会の承認会社法365条)等が必要な取引が規定されています。

 

 具体的には、第1号が競業取引、第2号が直接取引としての利益相反取引、第3号が間接取引としての利益相反取引です。

 

 今回は、第1号に規定している競業取引についてその内容をみてみたいと思います。

 

 

1 会社法356条及び会社法365条について

 まずは、全体から確認します。会社法356条第1項柱書は、「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」と規定しています。

 

 また、会社法第365条1項では、「取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。」と規定されており、同条第2項では「取締役会設置会社においては、第356条第1項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。」と規定しています。

 

 条文だけ見ると難しいことが規定されているようですが、実は、あまり難しくありません。

 

 取締役会設置会社を前提に話しますが、取締役会設置会社の取締役が、上記の競業取引、利益相反取引等を行おうとする場合、まず、これをやる前に、取締役会で、その取引の内容等を説明して、取締役会で承認をしてもらう必要があり、終わった後には、しっかり報告をしなければならないということです。

 

 このような規制があるのは、後述する趣旨に照らせば、当然のことと言えます。

 

 では、規制対象となっている競業取引とはどのようなものでしょうか?

 

 この点について、会社法第356条第1項第1号は、「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の分類に属する取引をしようとするとき」規定しています。

 

  これがいわゆる、競業取引です。

 

 

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2 競業取引とは

  競業取引に該当するか否かについて、主に2つの点が重要となります。

 

 まず、1つ目は、「自己又は第三者のために」という要件です。

 同要件については、計算説と名義説の対立があるは有名ですが、簡潔にいうと、計算説は、自己又は第三者に利益が帰属することの意味であると解する説で、名義説は、自己又は第三者の代表者・代理人として法律行為を行うことの意味であると解する説です。

 

 競業取引については、一般的に、計算説が有力であり、他方、利益相反取引については、名義説が有力であるとされています。

 

 したがって、基本的には、計算説を前提に、取締役が、自分又は第三者に利益が帰属するような取引をする場合には、「自己又は第三者のために」という要件を満たすことになります。

 

 そして、2つ目に問題となるのが、「株式会社の事業の分類に属する取引」の意味です。

 

 同要件については、講学上様々な説が主張されており、判例も、明確な判断基準を確立しているわけではないので、個々の事案ごとで判断せざるを得ないと言えます。

 

 もっとも、通説的な見解では、「株式会社の事業の分類に属する取引」とは、株式会社が行っている事業と市場において取引先が競合することで、株式会社と取締役の間に利益衝突を生じる可能性がある取引をいい、株式会社が行っている事業とは、株式会社が実際に営んでいる事業のほか、すでに開業の準備に取り掛かっている事業及び過去に営んでいて現在一時停止している事業も含まれるとされています

 

 この点、競業取引が規制対象とされている趣旨は、取締役が自身の地位を利用して取得した情報や営業機会を利用し、本来、株式会社が得られる利益を奪い、株式会社の犠牲のもと、自己又は第三者の利益を図ることを防止する点にあります。

 

 このような趣旨から考えると、通説的見解の示すとおり、現在行っている事業のみならず、これから行う可能性が高い事業についても規制対象とするのが良いと考えられます。

 

3 大切なこと

 以上のとおり、競業取引について検討してきましたが、実際、取締役が行おうとしている事業が、競業取引に該当するのか否か、判断しずらい場合もあります。そのため、原則、悩んだ場合には、取締役会に報告し承認を得るのが良いと思います。

 

 しかし、そもそも、新規事業を柔軟に立ち上げなら、取締役をやりたいと就任時から考えているならば、会社のとの関係で、競業避止義務を免除ないしは限定する条件付きで取締役に就任するのが良いと言えます。

 

 

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