5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

正当防衛ってそもそも何?積極的加害意思と攻撃意思

 

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 少し前になりますが、ヤンキーが主人公の映画を見ていました。主人公のヤンキーがめちゃくちゃ強くて、仲間想いでとても素敵でした。青春っていいですね。自分の青春時代を思い返すと、帰宅部で家に直帰して、とりあえず寝て、夕方起きてご飯食べて、深夜テレビを見ながらゲームやって、そして寝て・・・・・・・・

 

 はい。

 

 その映画の中で、主人公の仲間が敵対するグループにやられてしまい主人公が敵対するグループのアジトに乗り込んでいくシーンがありました。圧巻のシーンに思わず見入ってしまいました。敵地についた主人公は、仲間のことを想い「正当防衛じゃ!」と言って、殴りかかっていきます。とてもいいシーンですね!

 

これ間違えです。

 

 「空気よめねぇぇ!」と思いますよね。ごめんなさい。

ですが映画の演出だと正解ですが、法律的にみると間違えです。そこで、今回は、なぜ間違えなのか。正当防衛がどのような場合に成立するのか検討してみたいと思います。

 

 そもそも正当防衛ってなんですか

 正当防衛は、刑法36条1項に規定されています。早速、条文を見てみましょう。

刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定しています。

 

 これも難しい言い回しを使っていますね。正当防衛としてイメージするのは、例えば、町を歩いていて、チンピラに絡まれて、殴られそうになったときに、やり返した場合というような感じではないでしょうか。

 

そのイメージが典型的な正当防衛のケースです。

 

 ですが、正当防衛が成立するかどうか微妙なケースも多いです。例えば、自分が殴られている時に頭にきて相手の顔面を殴り、相手が失神をしたのを認識した後に「コノヤロー!」と殴り続けた場合はどうでしょうか。また、先ほどの映画のように仲間がやられて頭にきて、やり返しに行った場合はどうでしょうか。この場合、成立するのではないかと考える人も多いと思います。ですが、正当防衛は成立しません。

  

 条文から正当防衛の要件をあえて抽出すると、「急迫不正の侵害」、「防衛するため」。「やむを得ずにした行為」と三つに分けられると思います(「急迫」と「不正の侵害」を分けてもいいですが、今回は三つで検討します)。

そこで、これら三つについての要件を使って、先ほどの例①②になぜ正当防衛が成立しないのか検討したいと思います。

 

 「急迫不正の侵害」

 そもそも、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現に存在するか、間近に迫っている場合を言います。ここでの違法とは、相手に殴られる場合や脅迫されるなどの犯罪行為のみならず、民事法等に違反する場合も含みます。これを難しく言うと、全法秩序に違反する状態となります。

 

 また、侵害は、現在化していなくても間近に迫っていれば良いです。例えば、チンピラに絡まれて殴られた時ではなく、胸倉をつかまれた時点で、すでに、侵害が間近に迫っています。

そのため、胸倉をつかまれれば、「急迫不正の侵害」があるということになります。

 

 

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 「防衛をするため」

 次に、「防衛をするため」とは、防衛行為であることを言います。つまり、殴りかかってきた侵害者に対にして、自分が殴り返す場合には、至極当然のように防衛行為のように見えますよね。学説上は、この客観的な行為態様のみで防衛行為だとするものもあります。

 

 ですが、殴ってきた人に対して、「こいつの息の根を止めてやろう」とか「いたぶりながら息の根を止めてやろう」とか思っていたらどう思いますか。怖いですよね。ただ怖いだけでなく、このようなことを考えている人の行為を防衛行為と言ってよいのでしょうか。

 

 そこで、判例や学説では、やり返す時に防衛の意思というものが必要だとしています。ですが、ここでの防衛の意思とは、「うちの命が危ない。何とか命だけでも守らんと(ガクガクブルブル)」的な積極的に身を守ることまで考えている必要はありません。

 

 ここでの防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識し、それを避けようとする単純な心理状態であればよいとされています。つまり、「この野郎。うちを殴ってくるな。えい!殴ってやる」的な侵害を排除して避けようと思っていれば、OKということになります。

 

 「やむを得ずにした行為」

 そして、ここが一番重要ですが、「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為が相当な限度であること、言い換えると、侵害を排除するために必要最小限であることを指すと言われています(最判昭和44年12月4日刑集23・12・1573参照)。

 ここでの「やむを得ずにした行為」は、防衛行為自体を基準に判断するのが原則です。そのため、例えば、酔っ払いが駅のホームで激カワなお姉ちゃんに絡んで、お姉ちゃんが、「やめてよ!」と払いのけて、酔っ払いが転倒して、打ちどころが悪く亡くなっても、激カワなお姉ちゃんの行為は、単に行為を見れば払いのけただけなので、相当性を有し、「やむを得ずにした行為」と言えます。

 

  先ほどの例の場合

 では、先程の例について検討してみましょう。

 まず、①の例は、殴られそうになり、殴り返したところ侵害者が失神したにも関わらず、その後殴り続けたというケースですよね。

 

 このケースでは、正当防衛は成立しません。先ほど検討した通り、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現在化しているか間近に迫っている場合です。確かに、侵害者が殴りかかってきた時点では、違法な侵害が現在化しており、「急迫不正の侵害」が認められます。ですが、侵害者が失神をした時点で、少なくとも侵害者が意識を取り戻すのに数分から数十分は、かかりますよね。そのため、この時点で、侵害が終了しており、「急迫不正の侵害」が認められません。

 

 そのため、侵害者失神した後の自分の殴打行為は単なる暴行です。

(なお、誤想防衛により、故意阻却あるいは責任阻却がありえますが、今回は検討しません。)

 

 次に、②の例、すなわち、映画のシーンで敵地に乗り込んで、「正当防衛だ!」と叫ぶシーンです。これも正当防衛は成立しません。

 

 確かに、正当防衛の場合、自分だけでなく他人に危害が加えられている、あるいは加えられようとしている際でも、「急迫不正の侵害」と認められます。ですが、映画のシーンでは、敵の主人公の仲間への暴行はすでに終了していました。また、主人公は、未だ戦闘状態に入っておらず、かつ、対面して話合っている状態に過ぎませんでした。そのため、「急迫不正の侵害」は認められません。

 

 以上より、例①②につき、正当防衛は成立しないことになります。

 

 総括

 このように正当防衛が認められる範囲は、少し一般感覚とずれるところがあります。というのも、正当防衛は、本来警察が助けに入るべき事柄を自分で解決してしまう的な側面があります。そのため、本来違法な殴打行為などを例外的に、違法性を有しないとして、犯罪を成立させない規定です。

 

 したがって、本当に殴った人に犯罪を成立させなくてよいのかという視点から、慎重に成否が検討されます。これはある意味仕方がないことです。なので、気に食わない人がいても、原則、絶対に相手を殴ってはいけません。

 

 マニアックな話

 ここからはかなりマニアックなので、読み飛ばして頂けると幸いです。

 

 積極的加害意思を有する場合には、「急迫不正の侵害」該当性が否定され、攻撃意思を有する場合には、防衛の意思が否定されると、法律を勉強されている人ならご存知だと思います。

 

 ですが、積極的加害意思がある場合と攻撃意思がある場合とは、具体的にどのように

分けたらよいのでしょうか。

 

 ここは私の個人的な意見もありますが、そもそも、判例上、積極的加害意思が問題となったケースは、侵害を予期して迎撃態勢をとっていた場合ですよね。つまり、侵害を予期してその機会を利用して相手に危害を加えようとしていた場合です。そのため、積極的加害意思の判断の有無は、「急迫不正の侵害」が認定された時点あるいは、それ以前に問題となる話です。

 

 他方、攻撃意思の場合には、侵害を受けて激高し、相手をただただ痛めつけようとしている場合ですよね。この攻撃意思が生じる段階は、「急迫不正の侵害」が開始してから終了するまでです。

 

 よって、積極的加害意思と攻撃意思では、認定される時点が違うと分析するのが良いと思います。

     急侵     終了

――――――↓――――――↓

積極的加害意思   攻撃意思

 

 

 

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