最近近隣トラブルが増えているらしいです。
近隣トラブルで代表的なものは、騒音被害や異臭被害だそうです。
正直、近隣トラブルが一番困りますよね。賃貸マンション等の場合は、引っ越したり大家さんに頼んでその迷惑な近隣に退去して貰うように頼んだりして、問題を解決することができるかもしれません。
しかし、マイホームで一戸建てを購入したり、分譲マンションを購入したりした場合は、簡単に引っ越すことはできませんよね。
また、近隣住民もマイホームや分譲マンションを購入している場合には、退去を強制したりすることもできません。
その結果、何年にも渡って、ストレスのかかる環境で生活をしなくてはいけないことになります。
そして、怒りが頂点に達して近隣住民に対してやり返すことを考える人もいます。
例えば、近隣住民の家が焼けてしまえば、その人たちが居なくなり平穏な生活を獲得できるのではないかと考えて、近隣住民の家に放火をしてしまう人もいるかもしれません。
気持ちはわかります。
ですが、絶対にやめた方が良いです。
そこで、今回は、近隣住民の家に火をつけた場合に成立すると考えられる現住建造物放火罪について検討したいと思います。
そもそも、現住建造物等放火罪とは?
現住建造物等放火罪は刑法108条に規定されています。まずは、条文を確認してみましょう。
刑法108条は「放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物・・・を焼損した者は、死刑又は無期もしくは五年以下の懲役に処する。」と規定しています。
具体的に検討していきます。
放火
まず、「放火して」とは、その文言の通り、火をつけることです。
基本的には、媒体物に火をつけた時点で放火行為と認めることができます。
例えば、新聞紙に火をつけて、近隣の家のごみ置き場のところに放り込んだら、当然家が燃える可能性がありますよね。
そのため、新聞紙に火を付けた時点で、「放火して」に該当することとなります。
対象物件
まず、現住建造物等放火罪の対象は、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物」を言います。
住居とは、難しく言うと、人が出入りをすることができ起臥寝食の場所として使用されている建物を言います。
具体的にいうと、普段住んでいる家です。それ以上でもそれ以下でもなく、寝て起きて食べて生活する建物です。
「現に人がいる建造物」とは、住居として使用されていない倉庫や店で、放火をした時に、人が実際にいる場合の建造物を言います。
そもそも、現住建造物等放火罪は、放火罪の中で最も重い刑を定めています。これは、住居や人が現在いる建物が放火された場合に、家という経済的な財産のみならず、多数の人の身体及び生命が危険に晒されることになるからです。
そのため、住居と現在人がいる建造物に対象が限定されています。
ここで注意が必要なのは、住居等は、どの範囲まで住居と言えるかという点です。
例えば、木造建築の家屋で、門と渡り廊下がつながっているような構造をしている場合に、門に放火した場合は、住居に放火したと言えるのでしょうか。
この問題は難しいです。
一般的には、延焼可能性、物理的機能的一体性等を基準に判断することになります。
このケースでは、木材を使っているため延焼可能性が高いと言えます。さらに、門と家屋が渡り廊下で繋がっているのであれば、物理的機能的一体性も認められることが多いです。
その結果、このケースでは、門に放火した時点で、住居に放火したと言えます。
「焼損」
最後に、焼損の意義について検討します。
学説上対立がありますが、独立燃焼説というものが判例通説になっています。
つまり、火が媒体物を離れて独立燃焼作用を継続することができる状態に至っていれば、「焼損」に該当することになります。
具体的にいうと、近隣住民の家屋の壁の前にガソリンをまき、火の付いた新聞紙を置いたとします。この場合、新聞紙からガソリンに引火して火が大きくなります。そして、その火が近隣住民の家屋の壁に燃え移り、自然鎮火する可能性がなくなった時点で、火が媒体物を離れて独立燃焼作用を継続することができる状態になったと言えます。
よって、この時点で「燃焼」と認めることができます。
総括
以上が、現住建造物等放火罪の概要です。細々検討してきましたが、近隣住民に頭にきて、家を燃やしてやろうと思い立ち、家屋に火を付け半焼でもすれば、確実に現住建造物等放火罪が成立することになります。
確かに、近隣トラブルの原因を作っているその住民が家を失えば、その人は引っ越すかもしれません。
しかし、現住建造物放火罪を犯せば、「死刑又は無期もしくは五年以下の懲役に処する。
」とあるので、あの世へ引っ越すか、長期間刑務所に引っ越すことになってしまいます。
誰も得しない!
それが答えです。なので、近隣住民にどんなに頭にきても、絶対に近隣住民の家に放火をするのはやめましょう。