法律を勉強していると、何となく分かるけど、でも分からない部分は多いです。知っているつもり。それが一番厄介。いざ答案なんてものを書こうとすると上手くいくつもりが全く上手くいかない。なんて言うこともしばしばあります。
刑法の因果関係の話もそうです。相当因果関係折衷説をまずは暗記。ですが、友達がしたり顔で「危険の現実化が最近は主流だから」といい、他の友達は「判例の類型化が最も重要」とか言ってきます。
そもそも、危険の現実化とか判例の類型化とか、意味あるのですかね?
「答案書くときに必要だから類型化しなくてはいけいない」とか言いますが、そもそも、漫然と類型化させることに何の意味があるのでしょうか?
正直答えはありません。ですが、個人的に思う最も良い方法を今回、提示してみたいと思います。小難しいことは一切抜きで、ざっくり大枠だけ提示します。
危険の現実化
そもそも、相当因果関係折衷説というのは、ご存知の通りです。行為時点において一般人を基準に一般人が認識する事ができた事情と行為者が認識していた事情を基礎事情として、社会通念上当該結果の発生が相当か否かを基準に判断するものです。
他方、危険の現実化というのは、まず行為の危険性を確定した上で、当該危険が現実化したか否かで審査するものです。
そのままですね。注意点としては、行為の危険性というのは、行為に包含されているものをいいます。そのため、行為の危険性審査の段階では、行為後の事情は考慮されません。
つまり、人の腹部をナイフで刺した場合に、刺突行為は類型的に人を出血多量などで死亡させる危険性を有した行為だと言えます。そのため、出血多量による死亡の危険が行為の危険性として存在します。
その後、被害者が病院で暴れて傷口が開いたという事情は、行為の危険性審査ではなく、現実化したかどうかの審査で行う事となります。
ここまで、したり顔で言っているのですが、はっきり言ってこんな事を言っていても全く実益がありません。
というのも、これは「行為の危険性」と「現実化」という問いに対して問いのまま答えるのと同じ事がからです。
判例
そのため、まずは代表的な判例をもう一度見返してみましょう。
・被害者の脳梅毒型(最判昭和25年3月31日刑集4・3・469)
この判例では、被害者に脳梅毒という特殊事情があり、加害者の暴行と当該特殊事情とが相まって、結果を生じさせたとして、加害者の暴行と被害者の死亡結果との間に因果関係が認められるとされました。
・スキューバーダイビング(最判平成4年12月17日刑集46・9・683)
スキューバーダイビングの指導者が受講生を見失った後、受講生が不適切な行動をとり、死亡したという事案について、指導者が受講生を見失った行為に誘発されて、受講生が不適切な行動をとったとして、因果関係を肯定しています。
・米兵ひき逃げ事件(最判昭和42年10月24日刑集21・8・1116)
米兵が車を運転中に被害者を跳ねあげ、被害者が屋の上に横たわり、横たわった被害者を助手席の人が引きずり降ろして、被害者が死亡した事案です。この事案では、車で衝突した行為と引きずり降ろしてアスファルトに衝突させた行為といずれの行為から死亡結果が生じたか明らかではないため、車で衝突した行為と死亡結果との間の因果関係を否定しています。
・大阪南港事件(最判平成2年11月20日刑集44・8・837)
この事件はかなり有名ですよね。加害者が殴打行為をして港に放置した後、何者かが(一応)再度被害者を殴打したというケースです。このケースでは、加害者の殴打行為によりすでに死亡の危険を発生しており、その後の第三者の行為は、死期を早めただけだとされ、加害者の殴打行為と死亡結果との間の因果関係が肯定されています。
実際の分析方法
以上の判例を踏まえどのように実践に生かすのが良いのでしょうか。と言うより今挙げた判例だけでも類型化は当然できますよね。例えば、最初の判例を危険内在型、二番目を誘発型、三番目を異常事情介在型の寄与度不明、四番目を異常事情介在型寄与度判明型的な言いましでも整理は整理になっていると思います。
ですが、この整理だけしていて本当に思考経済的に宜しいかたというと、あまり宜しくありません。というのも初見で問題文を見たときにわけわからないひねりとかある時に、いちいち漫然とやっても時間がかかるし、ミスを犯しやすいです。
そのため、思考順路に沿って検討することがとても有益です。
第1段階:危険の確定
まず第1段階は、危険の確定をします。この段階では、生じた危険性の内容は、客観的に判断されます。そのため、被害者が重篤な疾患を患っていても危険性の内容を判断する上で、当然に考慮されます。
参照判例>
・被害者の脳梅毒型(最判昭和25年3月31日刑集4・3・469)
第2段階:異常性審査
危険の確定ができたら第2段階へ行きます。この段階では、生じた事情の異常性を審査します。言い換えると、加害者の行為から誘発されて生じたものかどうか、あるいは通常生じえる事情かどうかが審査の対象となります。誘発して起きた場合には、介在事情の寄与度がどんなに高い場合でも、因果関係は否定されません。
参照判例>
・スキューバーダイビング(最判平成4年12月17日刑集46・9・683)
第3段階:寄与度審査
第2段階で、誘発あるいは通常生じるものだと認定できる場合には、第2段階で因果関係が肯定できます。ですが、異常な介在事情だとされた場合には、第3段階の寄与度審査へ行きます。この段階では、加害者の行為と介在事情を比べて、寄与度の大きさを審査することになります。
参照判例>
・米兵ひき逃げ事件(最判昭和42年10月24日刑集21・8・1116)
・大阪南港事件(最判平成2年11月20日刑集44・8・837)
思考図>
第1段階危険の確定
↓
第2段階異常性審査
↓ ↓
異常 通常
↓ ↓
↓ 因果関係ある
↓
第3段階寄与度審査
加害者の行為 寄与小
因果関係なし
加害者の行為 寄与大
因果関係ある