刑事訴訟法第312条は、検察官の訴因変更権限を規定していますが、検察官が、いつまで訴因変更をすることができるか?についての規定はありません。
そこで、検察官の訴因変更に時機的限界があるかが問題となります。
今回は、この論点について少し検討してみたいと思います。
1 そもそも、訴因変更とは?
まず、刑事訴訟法第312条第1項は、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」と規定しています。
同条項は、有名論点として、訴因変更の要否と可否がありますが、今回は説明を割愛し、可能かつ必要な場合に、いつでもできるかについて焦点を絞って検討します。
この点、民事訴訟法のように時機に後れた攻撃防御方法のような条項は、刑事訴訟法にはありません。
そもそも、刑事訴訟法の目的が、真実発見(同法1条)にあることに鑑みると、訴因変更をできないことで、真実発見ができないという事態を回避するために、無制限に許されてもよいとも思います。
しかし、終盤になって訴因変更を許すとすると、被告人側から見ると、今迄の防御活動が徒労となり、訴因変更後、さらなる防御活動を強いられるという点で、被告人に過大な負担を与えることとなります。
裁判例では、以下のとおり、訴因変更の時機的限界ついて判断をしました。
2 裁判例等
福岡高判昭和51年4月5日は、弁護人の防御活動が成功したかと思われる結審間際になって、検察官が訴因変更をした事案について、同請求が争点から外されていたものを改めて立証事項として審理対象としようとするものであり、被告人の防御に実質的な不利益を生じさせ、公平を損なうおそれが顕著な場合には、裁判所は、公判手続きの停止措置にとどまらず、訴因変更の請求自体を許さないことも認められる旨を判示し、訴因変更に時機的限界があることを判示しました。
この点、講学上も、被告人が当初の訴因について一貫して防御を尽くしており、時機に後れて訴因変更が、被告人に不意打ちかつ新たな立証を要求するものであり、無罪の心証が形成された後に、訴因変更をすることは許されない等とされています。
3 注意点
以上のように訴因変更について時機的限界があるとしても、第1回公判期日から時間が経ったものが全て、時機的限界により許されないとはなりません。
例えば、被告人質問や証人尋問で新たな事実がでてきて、訴因変更が必要になったような場合には、第1回公判期日から時間が経過していても、訴因変更は許されると思います。
つまり、経過した時間が長いという事由だけではなく、具体的な訴訟進行経過に鑑みて、審判対象について審理が尽くされた段階で、かつ裁判所が無罪の心証を形成している時に、検察官が訴因変更を請求したのか?というのが重要な要素になると考えられますので、注意が必要です。