例えば、犯罪に巻き込まれた場合等に加害者に対して損害賠償請求をしたいと考えているときに、加害者が誰だか分からないはたまた名前はわかってもそれが本名かどうか分からず、住所も知らず今どこにいるのかも分からないというケースはあります。
不法行為に基づく損害賠償請求については、民法第724条に除斥期間と消滅時効期間が規定されています。そのため、同期間を経過すれば特別法がない場合には、加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできなくなります。
これは悲しいですよね。そこで、今回は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点について少し検討してみようと思います。
1 民法第724条の規定
民法第724条は「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。
つまり、消滅時効については「損害及び加害者を知った時」から3年が経過すれば、不法行為に基づく損害償請求権は、時効により消滅することとなります。また、「不法行為の時」から20年が経過した場合も同様に除斥期間により権利消滅することとなります。
冒頭の例でいえば、加害者が誰だか分からないという時には、「加害者を知った時」には当たらず、消滅時効は進行しないため、例えば10年後に加害者が誰であるか判明したような場合には、その知った時から3年間は不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅せず、同損害賠償請求をすることができます。
もっとも、加害者が誰であるかは分かるものの、それが本名であるのか否か分からず、またどこにいるのかも分からないというケースでは、「加害者を知った時」に当たってしまうのでしょうか。
この点ついて、最判昭和48年11月16日(民集27巻10号1374頁)は以下のとおり判示しています。
2 最判昭和48年11月16日
同判決は、現行法でいうところの「加害者を知った時」について、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当」であると判示しました。そして、同判決は、「不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する損害賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき」、初めて「加害者を知った時」に当たる旨判示しています。
同判決を前提とすると、そもそも、加害者が分かっていても、それが本名であるか分からず、今どこにいるのかも分からないというようなケースでは、「加害者を知った時」に該当しない可能性が高いと思います(もっとも、公示送達の方法により訴訟係属させ、裁判上の請求をする余地があるケースもあり得るため、弁護士等の法律専門家に一度相談をすることが得策だとは思います。)。
そのため、例えば自分が犯罪に巻き込まれたような場合に、加害者が未だ捕まっていないようなケースでは、例えば被害に遭ってから3年を経過した場合であっても、加害者が逮捕された際には、損害賠償請求をすることができると考えられます。
したがって、たとえ加害者が不明であったとしても、諦めずに収集した証拠等はしっかりと保存しておき、いつでも損害賠償請求をすることができる状態を維持しておくことが大切です。