刑事訴訟法の公判手続きって難しいですよね。刑事訴訟手続き自体あまり馴染みがなく、どのようなものであるかイメージが湧きにくいかと思います。
そこで、今回は、公判手続きの中でも最初に出てくる、訴因の特定について少し検討してみたいと思います。
1 訴因とは?
まず、訴因とは何でしょうか?
訴因とは、刑事訴訟における審判対象となる具体的な犯罪事実を言います。
そもそも、刑事訴訟手続きは、ある特定の人物が罪を犯したか否かを判断する手続きです。そのため、特定の人物がどのような犯罪を行ったのかを起訴状に記載し、これにつき裁判所が判断をするため、訴因は、上記の定義となります。
また、上記の理由から、訴因は、裁判所に対して、審判対象を示すという機能があります。他方、訴因が設定されると、被告人からすれば、自分が犯したとされる罪の内容が明確となり、これに対して防御をすれば良いということになるため、第2次的に被告人の防御対象を示すという機能もあります。
2 刑事訴訟法256条3項の訴因の特定とは?
まず、刑事訴訟256条3項は、以下のとおり規定しています。
「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」
上記条文は、訴因の明示及び特定について定めたものです。
この点、上述した訴因の機能からすれば、公訴事実に訴因を明示して、できる限り日時、場所及び方法等で特定しないさいといのは、当然の帰結であると言えます。
3 「できる限り」の意味とは?
裁判例等では、具体的な捜査状況等を考慮し、「できる限り」特定されていればよく、ある程度幅広、日時、場所及び方法を公訴事実に記載することも認められています(最判昭和56年4月25日等参照)。
では、刑事訴訟法256条3項違反する場合とはどのような場合でしょうか?
この問題については、2つの視点から分析することが大切です。
すなわち、そもそも、訴因として、「明示」されているのか?という視点と、明示されているとして特定ができているのか?という視点です。
例えば、●●公園でAが死体で発見されたとします。その後、捜査上浮上したBが犯人であると捜査機関が判断し、Bを殺人罪の被告人として起訴したとします。
この場合、「Bが、何らかの器具を使用して、Aを殴打し、死亡さた」と公訴事実に記載していた場合、2つの問題があります。
すなわち、上記公訴事実の内容だけだと、傷害致死罪であるのか殺人罪であるのか判別できません。すなわち、「殺意があった」事実についての訴因の明示がないこととなります。
したがって、この観点からは、訴因の明示がないという理由により刑事訴訟法256条3項に違反することになります。
また、上記公訴事実は、「日時、場所」について記載していませんし、方法についても、「何らかの器具を使用して、Aを殴打し」としか記載されていません。
この記載部分については、「日時、場所及び方法」ができる限り特定されていないと判断され、刑事訴訟法256条3項に違反する可能性があります。
もっとも、あくまでも日時、場所及び方法は、具体的な捜査状況を考慮し、できる限り特定されていれば良いので、前記記載が直ちに、刑事訴訟法256条3項に違反するとまでは言えませんが、通常、日時については例えば、「令和●年12月1日から同月15日までの間に」等、幅を設けた上で記載され、かつ場所につても「東京都●区から区において」においてと、これも幅を設けた上で記載されることが多いです。
したがって、誇張していうならば、記載があればできる限り特定しているとされ、刑事訴訟法256条3項に違反しないと判断される可能性が高いです(もっとも、覚せい剤自己使用罪等が公訴事実となっており、1回の使用のみが起訴されているものの、使用を複数回行っていた場合には、別途考慮が必要となります。)
4 最後に
訴因は、公判手続きの一番最初に勉強する部分ですが、あまりイメージが湧かず、理解をするのが大変だと思います。
そのような場合は、判例の事案等を読んでみると学習が進むと思います。