近年、籍を入れずに夫婦となっている人が増えています。また、最近では同棲のパートナーを持つ人もオープンになってきています。ですが、法律上夫婦として認められるためには、婚姻届を出さなくてはいけません。個人的には、法律上の夫婦か否かという二択ではなく、パートナーシップ制度のような、現在の内縁関係の法的保護を強化した形の制度をつくるべき時代が来ているように思います。ですが、現行法上このような制度はありません。そこで、今回は現在の内縁関係がどのような法的関係にあるのか検討してみたいと思います。
夫婦としての関係
そもそも、内縁関係とは、実社会生活において夫婦として認められる関係であるものの、婚姻届を出していない場合を言います。では、法律上の夫婦とはどのような違いがあるのでしょうか。
前提として法律上の夫婦の場合には、夫婦同居義務、相互扶助義務、財産分与、成年擬制、姻族関係等の法的効果が生じます。
夫婦同居義務とは、夫婦が同じ場所に住まなくてはいけない義務を言います(しかし、転勤の場合や別居の場合も違法ではないので、この義務自体は強い義務ではありません)。
相互扶助義務とは、夫婦は実社会生活を送るうえで必要なお金を分担しなくてはいけないという義務です。つまり、夫がお金を使い込んでパチンコや競馬ばかりしてはいけないというような義務です。
財産分与とは、離婚の際に財産を夫婦間で清算しなくてはいけないという制度です。成年擬制は、未成年の人が結婚した場合に成年になったものと扱うという制度です。例えば、未成年者が契約をする時に親の同意が必要だとされる場面が多いですが、この親の同意が不要になります。
姻族関係については、婚姻をすることによって他方の配偶者の親や兄弟等の第三親等までの人が自分の親族になります。
このような効果が婚姻によって生じるのですが、では内縁の場合はどのように考えるべきでしょうか。
基本的な考え方としては、公的関係や第三者の身分関係が変更されるような事柄については、内縁の場合には効果が生じません。
具体的に言うと、夫婦同居義務、相互扶助義務、財産分与は、公的関係やあるいは第三者の身分関係が変更されるわけではないので、内縁の場合にも効果が生じます。
他方、成年擬制は、公的に成年に達したと扱う制度であるため、内縁の場合には効果が生じません。また、姻族関係も他方配偶者の親族の身分関係を変更させるものであるため、内縁の場合には効果が生じません。
相続の問題
では、相続の場合はどのように扱われるのでしょうか。民法887条及び民法889条は相続人になる者を規定していますが、ここに内縁の妻は規定されていません。また、準用も認められていません。その結果、内縁の妻には相続権は認められていません。その背景には、法律婚の尊重と本人の死亡後の一定の親族の生活保護を図るということがあります。
法律婚の尊重は一定程度説得力があります。つまり、結婚後不倫をしてその後不倫相手と一緒に何十年も住み続けて死亡したという事案もありますが、この場合、実質的な重婚状態にあるので、どちらの配偶者に遺産を相続させるかということを決めなくてはいけなくなります。
この場合、法律婚という形式を満たした方を優先させることはやむを得ないとも思えます。というのも現在ではこのケースでは有責配偶者からの離婚請求であっても、離婚をすることができ、実質的な重婚状態を解消できます(詳しくは、私の記事の「内縁の妻と生活して20年経ちました。法律の妻と離婚できますか?(有責配偶者から離婚請求)」を参照して頂ければ幸いです。)
そのため、死亡する前に離婚をして、内縁の妻と結婚をすることもできます。確かに、何十年も経って従来の婚姻関係を解消するのは、骨が折れます。気力的にも体力的にも相当な負担がかかります。しかし、後のトラブルを避けるためには、是非行った方が良いと思います。
もう少し詳しく
では、もう少し詳しく相続の問題を検討します。相続の問題を考えるときには、二つに分けて考えることが大切です。すなわち、相続人がいない場合といる場合です。
まず、相続人がいない場合について検討します。内縁の妻は、相続人ではありません。しかし、日本の民法上の遺産の帰属は三段階に分かれています。
第1段階として、相続人がいる場合は、相続人に遺産は帰属します。
第2段階として、相続人がいない場合は、特別縁故者(民法958条)に遺産は帰属します。
第3段階として、相続人も特別縁故者もいない場合に、国に遺産は帰属します。
つまり、相続人→特別縁故者→国という順番です。
そして、内縁の妻は、特別縁故者に当たります。そのため、相続人がいない場合には、遺産が帰属します。
他方、相続人がいる場合には、遺産は相続人に帰属します。そのため、内縁の妻に遺産が帰属することはありません。
ですが、例えば、内縁の夫婦で住んでいたマンションの明け渡しを相続人から請求された場合には、権利濫用として請求が棄却されるケースもあります。しかし、権利濫用として認められるケースはあまり多くありません。そのため、例えば、マンションを借りるとき、あるいは、購入するときは、内縁の妻の名義で行った方が良いです。
不法行為
では、不法行為の場合はどうでしょうか。まず、交通事故などで夫が死亡したケースでは、相続人がいる場合、夫の有している損害異賠償請求権は内縁の妻は相続できません。もっとも、固有の慰謝料請求権を有することになります(民法709条・711条)そのため、加害者に対して損害賠償請求をすることができます。
また、内縁の夫が不倫をした場合にはどうでしょうか。この点について、内縁関係は「法律上保護される利益」(民法709条・710条)であるため、内縁の夫及び不倫相手に対して慰謝料請求をすることができます。
総括
このように内縁関係については法的保護がされる場面も多いです。ですが、その保護の内容及び範囲が不明確だと言えます。そのため、法律による制度構築をすべきだと思います。