刑法各論で最初の方に出てくるのが、傷害罪です。
傷害罪は、一見理解しやすい犯罪ですが、よくよく勉強していくとつまずき易い犯罪でもあります。
今回は、そんな傷害罪について、暴行罪の結果的加重犯の場合と無形の手段による傷害結果の発生の場合について、それぞれ検討してみたいと思います。
1 傷害罪とは?
まず、傷害罪は刑法204条に規定されています。
同条は、「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
ここで、「傷害」とは、人の生理的機能に障害を加えることと言われています。
もっとも、少量の髪の毛を切り落とすような場合には、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に当たるとして、暴行罪(刑法208状)が成立するとしています。
すなわち、刑法208条から明らかなとおり、暴行(不法な有形力の行使)をした場合に、傷害(怪我等)をするに至らなかったときには、暴行罪が成立し、逆に、「傷害」するに至る(怪我等をさせる)ときには、傷害罪が成立します。
そのため、傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯であると説明ができます。
他方、不法な有形力を行使しない場合であっても、例えば、AがBに対して、無言電話を毎日100回、3カ月間かけ続けたことによりBが統合失調症を発症したというようなケースでは傷害罪は成立するのでしょうか?
2 無言電話等の場合
先のとおり、「傷害」とは、人の生理的機能に障害を加えることです。
そのため、手段については限定がありません。すなわち、先程の無言電話を長期間かけ続けるような無形の手段による場合でも、統合失調症を発症すれば、人の生理的機能に障害を加えたことは明らかなため、「傷害」に該当します。
したがって、このようなケースでは、傷害罪が成立することになります。
3 最後に
以上のように、傷害罪については、有形の方法と無形の方法による二つの類型があると言えます。そのたえ、手段内容を問わず、ある手段によって傷害が生じたか否かということが傷害罪の成否においては重要であると言えます。
また、無形の方法の場合で多いのは、職場や家庭、学校等でのハラスメント行為、近隣トラブル、ストーカー行為です。
この場合、耐えていて、気が付いたら、精神障害を発症していたということも多く、加害者の無形の方法、具体的には、つきまとい、待ち伏せ、拡声器による騒音等が実際にあったと立証することが難しいです。したがって、民事賠償請求のみならず、刑事起訴との関係でもしっかり録音録画等の方法で加害者の行為を証拠として保存しておくことが大切です。