例えば、お金を貸したけど返ってこない。マンションを貸したのに賃料を払ってくれない。はたまた、物を売ったのに代金を払ってくれない。そのようなトラブルに巻き込まれた経験のある人って意外に多いですよね。
そのような場合に、話をして返してくれたり、払ってくれるなら問題はありません。むしろ、それならトラブル自体発生していないって感じですよね。しかし、残念ながら、話して分かってくれる人ばかりではないのが現実です。
そのため、弁護士に依頼して、内容証明郵便等を送り、「払ってくれないと残念ながら、法的手段に出ます。」的な文言を付して、弁済を促すことが多いです。
しかし、往生際が悪く、それでも払ってくれない人もいます。この場合、仕方がないので訴訟を提起するしかありません。
このような流れで、裁判が始まることが多いと思います。
では、裁判を起こすとして、民事訴訟ではどのようなルールがあるのでしょか。今回は、最も基本的なルールである弁論主義について少し考えていきたいと思います。
1 弁論主義とは?
弁論主義とは、事実の主張及び証拠の提出を当事者の権能かつ責任とする主義を言います。これだけ聞いてもよく分からないですよね。
そもそも、民事訴訟というものは、現在の権利や法律関係の有無を判断し、当該権利の確定を目的した制度です。そして、ここでの権利や法律関係というものは、当事者の意思によって形成されてきたものであり、かつ、当該権利等が確定されると利益を受けるのも当事者です。
つまり、当事者というのは、民事訴訟の対象である権利等について、最もよく知っているので、例えば、売買契約に基づいて代金の支払いを請求する訴訟を考えてみると、「平成29年5月2日、甲さんとの間で本件土地を5000万円で売る約束をしました」。「ほら、その証拠に売買契約書があるでしょ。」とうような具合に、事実をよく知っていて、なおかつその事実を明らかにする証拠を持っているのが当事者です。裁判所は、そのような事実の主張や証拠を当事者が出さない限り知る由もありません。だから、事実の主張及び証拠提出を当事者の権能かつ責任とする主義を採用しました。名前の割に全く難しい話ではありませんね。
2 弁論主義のテーゼ
では、弁論主義の具体的な中身としては、どのような原則があるのでしょうか。ここでは、一般的に3つの原則があると言われています。これを弁論主義のテーゼと言います。
まず、弁論主義の第1テーゼは、裁判所は当事者が主張していない事実を判断の基礎にしてはいけないという原則です(主張原則)。
例えば、マンションの賃貸借契約終了に基づいてマンションの明け渡し請求をする訴訟を考えてみます。甲が「乙は賃料を1年間払っていない債務不履行がある。解除通知も送ったから、契約はこれに基づいて解除している。」と主張し、他方、乙は、「いやいや甲が受け取らなかっただけで、毎回賃料を持っていっていたよ。」とか主張しているとします。この場合裁判所がいきなり「賃貸借契約は、期間が満了しているので終了しています。」とか認定することできないわけです。凄く当たり前ですよね。これが、弁論主義の第1テーゼのイメージです。
次に、弁論主義の第2テーゼですが、これは、裁判所は、当事者間で争いのない事実は、そのまま判断の基礎にしなければならないという原則です(自白法則)。
例えば、AさんとBさんの間で売買契約に基づく代金支払い請求訴訟が係属していたとします。この場合、Aさんは「Bさんに5000万円で売ったんだ」と主張し、他方、Bさんは「いや代金額は3000万円だった」と主張して、代金額を争っていたとしても、売買契約の成立自体は両当事者の間で認めていたとします。この場合、例えば、裁判所が売買契約が成立していることをそのまま認定することになります。これが弁論主義の第2テーゼです。
最後に、弁論主義の第3テーゼですが、これは、裁判所は、判断をする際に当事者の申し出た証拠のみによらなければならないという原則です(職権証拠調べの禁止)。
例えば、甲を売主、乙を買主とする土地売買契約の成否が争われていて、売買契約書が甲から提出されていたとします。この場合に、裁判所が勝手に法務局から登記事項証明書とかをとりよせて、これを勝手に証拠として使用してはいけませんという原則です。これも内容的にはさほど難しい原則ではありませんね。
3 注意が必要なこと
裁判を起こせば裁判官が真実を見抜き、「納得のいく判決を出してくれる」と思っている人も多いです。
しかし、裁判官は公平な立場から判断をする必要があるため、弁論主義の枠外で、当事者に断りなく、勝手に証拠を集めたり、当事者が主張していない事実を勝手に「なぞは解けた。これが真実だ」などと言って、事実を認定することがそもそもできません。そのため、裁判官だからなんでも分かってくれるだろうとするのは、構造的に難しいです。自分で一生懸命やるか、弁護士に依頼して、しっかりと裁判官を説得し、自分の権利を実現する努力をすることがとても大切です。