法律を勉強していると何だか具体的なイメージが湧きにくい法律ってありますよね。その一つが会社法だと思います。
例えば、民法の場合、私人間の法律行為を規律することを目的の一つとしているため、売買、債務不履行、所有権、抵当権、不法行為、親権など普段生活をしていれば聞いたことがあるような名称がよく登場しその具体的なイメージも湧くことができます。
ところが、会社法の場合、機関や役員、新株予約権、持分会社など普段あまり聞きなれない言葉が出てきます。
また、株式、株主総会、取締役などのニュース等で聞いたことがある名称であっても、会社法上どのような概念であるか的確に捉えることが難しいものもあります。
今回は、そのような中でも財産引受けについて少し考えてみたいと思います。
1 財産引受けの話
財産引受けについては、会社法28条2号に規定されています。
会社法28条柱書きは、「株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。」と規定しています。
そして、第2号では、「株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称」と規定しています。
これが財産引受けです。
と!言っても、正直何言っているのかよく分かりませんよね。
株式会社を設立する人を発起人と言います。発起人は会社を設立するために色々な行為をします。例えば、会社の本店所在地を決めたり、設立するために登記申請をしたりと大忙しです。
ところが、発起人は会社のためにあらゆる行為ができるわけではありません。例えば、会社が設立されていない以上、事業執行をしたりすることはできませんし、営業準備行為についても行うことができるかどうか争いがあります。
財産引受けは、営業準備行為に該当しますが、定款等に記載がない場合には、無効となります。その趣旨は、会社財産の不当な流失を防ぐためだと一般的に言われています。
例えば、本来1000万円の価値しかない土地を5000万円で買ってしまうと、単純に考えて、会社は4000万円損をすることになってしまいます。このような取引自体が定款に記載されず、検査役の調査を潜脱することになってしまうと、正に会社財産の不当な流失を招来してしまうことになります。
2 判例
このように定款等に記載のない財産引受けが無効だとして追認の余地はないのでしょうか。
この点、判例(最判昭和61年9月11日)は、以下のように判示しました。
本件営業譲渡契約が、定款等に記載がない財産引受けであることを前提に、「本件営業譲渡契約は、何人との関係においても常に無効であって、設立後のY会社が追認したとしても、あるいはY会社が譲渡代金債務の一部を履行し、譲り受けた目的物について使用若しくは消費、収益、処分又は権利の行使などしたとしても、これによって有効となりうるものではないと解すべきである」と判示しました。
つまり、定款等に記載のない財産引受けは絶対的に無効ということになります。その上で、判例は、特段の事情がある場合に、信義則上無効を主張することができない場合があることを示唆しました。
3 若干の検討
この点については、色々な考え方があります。一つの考え方としては、そもそも、日本の会社の場合、発起人がその後の取締役になるケースが多いです。会社法は、検査役の選任などを法定しており、追認を認めてしまうと、面倒な検査役の選任申立てや調査が潜脱され、追認をすることが常態になってしまい、検査役制度自体が形骸化されることを考慮して、絶対的に無効が妥当であるとの考え方です。
現行法上、設立制度全体を見ると、絶対的に無効としつつ、個別事案で、信義則による無効主張を制限する方法は妥当だと思われます。