5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

自分の物を取り返したら窃盗罪になりますか?

 

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 日本で一番多い犯罪とはなんでしょうか。殺人罪でしょうか。確かに、一週間に一度は殺人があった報道がされているような感じを受けますが、殺人罪ではありません。では、傷害罪でしょうか。これも違います。

 

 実は年間で一番多い犯罪は、窃盗罪です。理由としては、窃盗罪は、守備範囲が広く、例えば、スリや万引きも窃盗罪に当たります。このようなスリや万引きは犯情にもよりますが、微罪処分という形で、一か月に一回まとめて警察から検察の方に送られて、不起訴となることも多いです。そのため、裁判までいくエリートはそこまで多くはありません。ですが、何度も万引きを繰り返していると、当然エリートになり、起訴されて実刑を下されることもありますので、軽い気持ちで万引きをするのはやめましょう。

 

 さて、これはあくまでも警察や検察の処置についてですが、自分で取り返す場合はどうでしょうか。例えば、借りパクした友人の家にあるゲームを遊びに行った時にこっそりもって帰ってしまう場合には、窃盗罪は成立するのでしょうか。この場合、実は、窃盗罪になる可能性があります。今回は、取り返しの場合の窃盗罪の成否について検討してみたいと思います。

 

 そもそも窃盗罪とは?

 そもそも、窃盗罪はとは、刑法235条に規定されている犯罪です。例のごとく条文から確認します。

 刑法235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪として、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と規定しています。

 

 この条文一見簡単そうですよね。そのまま読むと、他人の物を勝手に取ってしまったら、窃盗罪という犯罪になって、最長10年間刑務所に入るか、50万円の罰金を払うか、または両方かという形で、処罰されますよということですよね。

ちなみに、余談ですが、「又は」という意味は、AorBという意味で通常使いますが、刑法の場合、AorBあるいは、AかつBという形で、懲役も罰金も科されることがあります。これを併科と言います。

 

 さて、本題に戻りますが、窃盗罪が成立する要件は一見簡単そうです。しかし、そもそも、「他人の財物」とは何ですか。実はこれ学説上大きな争いがあります。

 

 「他人の財物」とは

 まず、「他人の財物」について検討しますが、「他人の財物」という言葉を素直に読むと、他人が所有しているものということになると思います。ですが、所有者以外にも例えば、所有者が他人に物を貸しているときや質屋に入れているときがありますよね。このような権利が設定されている場合に、窃盗団が質屋等に押し入り財物を窃取した場合に、被害者は所有者だけでしょうか。質屋も困りますよね。言い換えると質屋は質権を侵害されたことになります。借りている人であれば、賃借権を侵害されたことになります。

 

 このように権利設定がされている場合には、所有者を始めてとする様々な権利者が権利侵害を受けたことになります。この所有権を始めとするこれらの占有を正当化するための権利を本権といい、この本権を保護するために作られた規定が窃盗罪であるという考え方があります。これが本権説です。その結果、本権説に立てば、「他人の財物」とは、他人が本権を有する財物ということになります。

 

 他方、このような本権説とは異なる考え方もあります。

現代社会においては、権利者が明確でないあるいは、権利の有無が不明な場合があります。例えば、レンタルビデオ屋さんでDVDを借りたとします。この場合賃貸借契約をしていることになり、借りた人には賃借権があります。ところが、うっかり返却期間を過ぎてしまうことがあります。この場合、レンタルビデオ屋さんに延滞料を支払と思いますが、この時、賃貸借契約が存続しているのか、言い換えると賃借権があるのかどうなのか、不明ですよね。個別の契約内容にもよりますが、一見して判断することは困難です。

 

 ですが、このような状況下で例えば、友達が家に遊びに来て、見たかったDVDだと思い勝手にもって行ってしまった場合はどうでしょうか。仮に賃借権がなかった場合には、本権がなく自分自身が被害者ではないことになってしまいますが、これは一般的な感覚からズレているような気がします。

 そこで、本権の存在の有無にかかわらず、窃盗罪は、占有自体を保護することを目的としているのだと解釈する考え方があります。これが占有説と言われているものです。その結果、占有説に立てば、「他人の財物」とは、他人が占有する財物ということになります。

 

 「どちらでも同じではないか?」と思われるかもしれませんが、実は、この考え方で結論が異なることがあります。それが、冒頭に挙げた取り返しの問題です。

 

 

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 取り返したら窃盗犯ですか?

 では、借りパクされた物を取り返すケースを検討してみましょう。借りパクされた物と言っても二つの場合が考えられると思います。一つ目は、典型で1年経っても返してくれないというケースです。この場合、借りた人の借用権はすでに消滅していることが多いです。

 

この場合、本権説では借用権という本権が借りた人にないため、取り返しても窃盗罪は成立しません。

 

しかし、占有説では、借りた人が占有していることに変わりがないので、自力救済という超法規的事由がない限り、窃盗罪は成立することになります。

 

 他方、貸したけど、自分で直ぐに使いたくなり、貸した次の日に友人の家に遊びに行きこっそりもって帰ってきたケースではどうでしょうか。

 この場合、友人は借用権を有しているため、本権説に立っても取り返しは、窃盗罪に当たります。さらに、占有説に立っても、当然窃盗罪が成立することになります。

 

 つまり、以下のようになります。

期間超過> 

       本権説   占有説

  不成立     成立

 

期間内> 

  本権説   占有説

  成立     成立

 

 

まとめ

 このように取り返しの場合には、窃盗罪が成立する可能性があることがわかりました。ですが、これはあくまでも勝手に取り返した場合です。当然借りパクしている人は返還義務を負っているので、そのまま返さないことが違法です。

 また、取り返して窃盗罪が成立するとしても、犯情が極めて軽いためほとんどの場合、警察に呼ばれても厳重注意をされて、検察に送検後も不起訴になる可能性が極めて高いです。

 

 と!ここまでうんぬん・かんぬん検討してきましたが、結論は、借りた物はしっかり返すということが一番大切です。

 

 

 

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信頼関係の破壊が必要?賃料不払いでの明渡しの可否

 

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 東京で暮らしていると、マンションを借りることが多いです。ですが、うっかり口座にお金を入れ忘れていて、次の月に不動産管理会社から明け渡すように請求がくるということもあるかもしれません。しかし、そのような場合に、本当に明け渡さなくてはいけないのでしょうか。今回は、賃料の支払いを怠った場合に、賃貸借契約が解除され、マンションを明け渡さなくてはいけないのか否か検討したいと思います。

 

 賃貸借契約とは

 そもそも、賃貸借契約は、民法601条に規定されています。民法601条では、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定しています。

 

 この条文も分かるようで分かりにくい条文ですね。ここで、一般的なイメージだと、物の貸し借りを目的とする契約は、すべて賃貸借契約になるとも思いますが、それは違います。

 

 物の貸し借りについては、民法上、使用貸借契約(民法593条)と賃貸借契約(民法601条)があります。そして、この二つの違いは、「賃料を支払うことを約す」という点にあります。

 

 すなわち、物を貸す対価として金銭等を借主が支払う場合が、賃貸借契約であり、そうではない契約が使用貸借契約となります。ここで「物を貸す対価」と言いましたが、対価とは、その物の価値に見合った金銭等を支払うことです。例えば、相場月額100万円のマンションを1万円で借りる場合には、原則、対価とは認められません。そのため、この場合には、使用貸借契約となります。

 

 つまり、賃貸借契約とは、物の貸し借りを目的とする契約で、かつ、借りることの対価として金銭等を支払うことを内容とする契約ということになります。

 

 賃貸借契約の特徴

 賃貸借契約は、対価を支払い、使用貸借契約は、対価を支払わない契約ということになります。このような対価の支払いがある契約のことを有償性を有する契約といい、対価の支払いがない契約を無償性を有する契約と言います。

 

 このような有償性・無償性という言葉自体はあまり重要ではありません。重要なことは、その内容です。すなわち、有償性を有する契約である賃貸借契約の場合には、賃貸人だけでなく、賃借人も強い権利を有することになります。具体的に言うと、マンションを借りている際などに、換気扇が老朽化して壊れた場合などには、その換気扇の修繕に必要な費用を賃貸人が負担するのが原則です(民法606条参照)。

 

 他方、無償性を有する契約である使用貸借契約の場合、貸主の方が権利保護が強化されています。というのも使用貸借では、貸主に経済的なメリットが全くないのが前提であるため、借主に強い保護を与える必要がないと考えられています。借主が、仮に保護が強い契約をしたい場合には、賃貸借契約を結ぶべきという考え方が根本にあります。

 

 その結果、具体的に言うと、先ほどの換気扇修繕のための必要費は、原則、借主が負担することになります(民法595条参照)。

 

 

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 賃料の支払いを怠った場合

 では、賃借人の権利保護が強化されているとして、実際に賃料の支払いを怠った場合には、どうなるのでしょうか。

 

 まず、賃貸借契約では、賃貸人(貸す人)は、賃借物を引き渡して使用収益をさせる債務を負います。他方、その代わりに、賃借人(借りる人)は、賃貸人に賃料を支払う債務を負います。

 これが基本的な債務の内容です。

 

 そうだとすると、賃料の支払いを怠った場合には、債務を履行していない、つまり、債務不履行になります。この場合、賃貸人から明け渡し請求をされた場合には、明け渡さなくていけないのでしょうか。

 

 実は、直ちには明渡す必要がありません。

 

 詳細に検討すると、賃料を支払わない場合、債務不履行になります。そのため、賃貸人が賃借人に対して「賃料払ってね」という催告をしたいにもかかわらず、賃借人が支払わず、支払に通常必要な期間が経過すれば、賃貸人は、解除をして契約を終了させて、明け渡しを請求できるのが、原則です(民法541条)。

 

 ですが、賃貸借契約の場合には、信頼関係破壊の原則というものがあります。この原則があるため、賃料を支払わなくても、直ちに明け渡さなくてはいけないということにはなりません。

 

 そもそも、賃貸借契約は、継続的な関係性を前提としてなされる契約です。つまり、売買契約とは異なり、賃貸人と賃借人は、長期間にわたって契約関係に拘束されます。そのため、契約当事者の間で信頼関係が形成されます。そして、契約の途中で、賃料不払いの債務不履行があったとしても、その債務不履行が信頼関係を破壊するものでなければ、契約の解除は認められず、賃貸人は賃借人に明け渡し請求をすることができないということになります。

 

 このような信頼関係破壊の原則がある以上、例えば、今月の賃料の支払いを怠ったとしても、直ちに、契約は解除できず存続するため、明け渡し請求をすることはできないということになります。

 

 まとめ

 直ちに、明け渡さなくてはいけないということにはなりません。しかし、賃料不払いが、半年、1年続けば、信頼関係は当然破壊されることになります。そのため、今月賃料を支払わなかった場合には、来月はしっかり支払う方ことが大切です。

 

 ちなみに、敷金を交付しているので、敷金から賃料を補てんしてほしいと考える人がいますが、補てんするかどうかは賃貸人の自由なので、賃借人から、補てんを請求することはできませんので、注意が必要です。

 

 

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所有権概論 物権的妨害排除請求権。物権的返還請求権など

 

 

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 日常生活していると、「それ私の物なのに勝手に使われている!」というようなことってありますよね。例えば、友人が家に遊びに来てゲームや雑誌を貸して欲しいと言ったので、貸したところ、そのままになってしまったという経験を持っている方は多いと思います。その友人に貸した物は自分の所有物です。それなのに借りパクされてそのままになってしまうと、とてもイライラしますよね。そこで、今回は、そもそも、所有権とはどのような権利か、また、どのような法的根拠に基づいて友人に貸した物を返せと要求できるのか検討してみたいと思います。

 

 そもそも所有権とは

 そもそも、所有権とは、何でしょうか。まずは、条文を見てみましょう。民法206条第1項は、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定しています。

 この条文も分かるようで分からない条文ですよね。でずが、具体的にイメージすると分りやすいです。

 

 例えば、近所の家電製品を売っているお店に行きます。最近、私はメタボが気になるので、ウォーキングマシーンを10万円で購入しました。ところが、3日経過して効果が表れないので、とりあえず、放置をしていました。その1か月後、友人がこのウォーキングマシーンを貸して欲しいと言ったので、月3000円の賃料を払うとの約束で、友人に貸しました。 

 

 すると、友人は、1か月で10キロ体重が落ち大変気に入ったので、売って欲しいと言いました。自分はメタボなままなのに友人だけ痩せて、私は少しイラッとしましたが、友人が7万円でというので、気分が良くなり、7万円で友人に売りました。

 

 これが所有権です!

 

 「どこがだよ!」と突っ込まれると思うので、順を追って分析してみましょう。

まず、ウォーキングマシーンを買った時点で、このマシーンの所有権を私は取得します。つまり、私が、ウォーキングマシーンの所有者です。そして、これを三日間使いましたが、このウォーキングマシーンを使う権利は所有者である私がもっています。これが、民法206条第1項の「使用」をする権利です。

 

 そして、その後、私は、友人に月3000円で、このウォーキングマシーンを貸しています。つまり、所有物を貸すことで利益を受けていることになります。この利益を受ける権利は、民法206条第1項の「収益」をする権利に当たりました。

 

 また、「処分」という単語を見ると、一般的に考えると、破棄することや壊すことをイメージすると思いますが、実は法律的な意味としては、このような破棄以外にも、譲渡することや抵当権等の権利設定をすることも含んでいます。

 

 そのため、私は、友人に7万円でウォーキングマシーンを譲渡(売却)していますが、これは、「処分」に当たり、民法206条第1項の「処分」する権利に基づくものです。

 

 さらに、このような使用収益処分は、所有者である私にしか原則できない行為です。そのため、所有権とは、直接物を支配し、排他的に使用収益処分する権利ということになります。

 

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 第三者が使っている場合等はどうするの?

 では、所有権の内容が、物を直接支配して、排他的に使用、収益処分することができるものだと分かった上で、第三者が使用等をしている場合には、どうすれば良いでしょうか。この問題は、三つに分けて考察するのが有益です。

 

 物権的妨害予防請求権

 まず、自分が土地を所有し、その上に家を建てて住んでいたとします。マイホームを建てて数年したところ、自分の家と隣の家を区切る壁が崩れそうになっていたとします。そして、その壁は隣の家の人の物ですが、自分の家の方に崩れそうなのに隣の家の人は放置をしていたとします。

この場合、困りますよね。特に小さい子供等がいると危なくて外で遊ばせることもためらってしまいます。

 このようなケースを分析すると、自分の所有している土地・家が危険にさらされていますよね。言い換えると、壁が崩れた場合、土地又は家が侵害される危険性が生じています。

 

 このような場合に、隣の家の人に壁を補修する等の危険を除去する措置を要求することができます。この要求の根拠を所有権に基づく物権的妨害予防請求権と言います。

 

 物権的妨害排除請求権

 では、上記の例をベースにして、今度は壁が崩れて自分の土地になだれ込んでしまった場合には、どうするべきでしょうか。この場合、崩れた壁を撤去するように隣人に要求することができます。この要求の根拠を所有権に基づく物権的妨害排除請求権と言います。

 

 物権的返還請求権

 では、最後に、第三者が物を使用している場合には、どうすればよいでしょうか。

この場合、自分が所有している物を使用することができなくなってしまいます。そして、自分の手元から離れて第三者の下にあるので、使用をする前提として、それを自分の下に戻す、つまり、占有状態を回復する必要があります。

 

 と!難しく言っているのですが、要するに、「返して!」と要求することができるかどうかの問題になります。この場合は、二つに分ける必要があります。

 

 一つ目は、自分が第三者に貸している場合です。この場合は、貸しているため、賃貸借契約や使用貸借契約を結んでいることになります。要するに第三者は、自分が所有しているものを占有使用する権利を有していることとなります。そのため、返せという請求はできないこととなります。

 

 逆に、二つ目は、勝手に第三者が使用している場合です。この場合不法占有・不法使用となるため、「返せ」と要求することは可能です。この要求の根拠を所有権に基づく物権的返還請求権と言います。

 

 以上のように所有権には、3パターンに分けて第三者に対して要求することができる性質があります。

 

 借りパクしている人には?

 ここまで読んで頂くと、借りパクしている人であっても、貸している以上、「返せ」と要求できないように思いますよね。

 実は、そうではないんです。余裕で返せと請求できます。

 

 先ほど、私は、賃貸借契約や使用貸借契約を結んでいる場合、人に返せと要求できないと言いました。しかし、これが終了している、あるいは契約に基づいて返す義務がある場合には、当然返還請求をすることは可能です。

 まず、賃貸借契約と使用貸借契約では、全く内容が異なります。

 

 つまり、賃貸借契約は、物を貸した時にその対価としてお金等を支払って貰っている場合の契約ですが、通常友人にゲームや雑誌を貸す時にお金を払って貰うということはあまりないと思います。

 

 そのため、この借りパクの多くのケースは、使用貸借契約を前提に貸していることになります。そして、借りパクの多くの場合では、使用貸借契約に基づき返還しなければならない時期を過ぎています。条文をみてみましょう。

 

 民法575条第1項では、「借主は、契約に定めた時期に、借用物を返還しなければならない。」と規定しています。つまり、ゲームを貸した時に、「1週間したら返す」的な約束をお互いでしている時は、1週間経過した時点で借りた人は、返さなくてはいけない義務があります。

 

 そして、約束をしていない場合には、民法575条第2項で「借主は、契約に定められた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還しなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる」と規定されています。

 

 つまり、期間を定めていない場合でも、ゲームを貸した場合には、クリアした時点で、あるいは、クリアしなくても通常クリアに必要な期間を経過した時点でゲームを返す義務が生じることになります。

 

 すなわち、返す日を決めていた場合、あるいは、必要な期間を経過した時点で、借りた人は返す義務を負うことになります。

 

 この場合、「返して」と要求すること可能です。そして、厳密には二つの要求方法があります。一つは、先ほどの所有権に基づく物権的返還請求としての「返して」要求です。そして、二つ目は、使用貸借契約に基づく返還請求としての「返して」要求です。

 

 どちらもせよ、「返して」と言えることに変わりはありません。

(なお、当然要件事実は変わります。)

 

 総括

 このように借りパクされている場合には、多くのケースで返す約束の日を過ぎているか、または、通常返さなくていけない期間を経過しているので、もし自分が借りパクされている場合には、元気な声で「返して」と要求するのが得策です。

 

 

プラスアルファー

 ここからは特につまらないので、読み飛ばして頂けるとありがたいです。

 法律を勉強する上で、物権的返還請求権と物権的妨害排除請求権の違いはかなり重要ですが、今一わからないとういう時がありますよね。結構単純で、占有自体が全面的に侵奪されている場合には、返還請求権です。それ以外の侵害現在化の場面は、妨害排除請求権です(登記の抹消などや、一部占有侵奪の場合には、妨害排除請求となります。)

 

 また、ここは凄く間違えやすいのですが、抵当物件に第三者が不法占拠している場合に、抵当権者が自己への明け渡しを請求するときに、抵当権に基づく物権的返還請求権とするのは間違えです。というのも抵当権は、非占有担保物権なので、占有権限を有しない担保物権です。それなのに、占有権があることを前提にする返還請求をすることができるとするのは矛盾していることになります。

 この場合は、抵当権に基づく物権的妨害排除請求権になります。今一度判例をご確認して頂ければ幸いです。

 要するに、根拠となる権利の性質と侵害状態の分析で、物権的請求権を決めるというイメージが良いと思います。

 

 

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不動産の二重譲渡。所有権の移転と民法上の規制

 

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 最近、不動産が高騰しているらしいです。オリンピックの影響でしょうか。自分の持っている土地の値段が跳ねたら嬉しいですよね。「しもしもで、アッシー呼んで。座銀でシースーの後はマハラジャでオールナイト」みたいな感じですかね。

 まぁ色々無理がありますが。

 

 さて本題に入ります。今回は土地の高騰を予測して、土地を買おうと思っている方もいらっしゃると思います。そこで、なぜ不動産を買ったらすぐに登記をしなくてはいけないのか。不動産の二重譲渡の観点から今一度検討してみたいと思います。

 

 契約とは何?

 まず、二重譲渡の前に、そもそも、大前提の契約とはなんでしょうか。そこから検討しましょう。

 

 契約とは、意思の合致を言います。そして、意思の合致とは、申込みと承諾が一致したことをいうのですが、正直あまりピンときませんよね。

 

 具体的に検討します。まず、不動産屋に行きます。何かおすすめの物件はありますかと尋ねます。すると、不動産屋さんが、「最近だと、豊洲あたりがいいですね。将来的に地価も高騰しますし、後は、浦安から八丁堀あたりまでの沿線は、将来開拓が見込めますので、おすすめのエリアです」的な説明があるかもしれませんが、その中で「この浦安の○○の土地を5000万円で売ってくれ」と言います。これが申込みです。そして、不動産屋さんが「いいですよ。」と言います。これが承諾です。

 

 つまり、不動産屋さんが「いいですよ」と言った時点で、申込みと承諾が一致したことになり、意思の合致が認められ、契約が成立することになります。

 

 所有権はいつ移転するの?

 では、このように契約が成立したとして、所有権はいつ移転するのでしょうか。土地の測量に行った時でしょうか?それとも登記をしたときでしょうか?それとも気が変わってマイホームを建ててマイハニーと一緒に新婚生活を始めたときでしょか?

実はどれも違います(通説を前提)。

 

 民法176条を見てみましょう。同条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています。

 

 今問題となっているのは、土地の所有権の移転時期ですよね。つまり、「物権の・・移転」が問題になっています。そして、物件の移転は、「当事者の意思表示のみによって、その効力を生じる」と書いてあることから、意思の合致があった時点で、所有権移転の効力が生じることになります。

 つまり、契約が成立した時点で、「浦安の○○の土地」は不動屋さんからあなたに所有権が移転することになります。

 これを専門用語で意思主義といいます。少し余談ですが、他の国では登記等の外部的行為が行われるまで、所有権は移転しないと考えられているところもあります(形式主義)。ですが、日本では意思主義を採用しているため、契約の成立と同時に所有権は買主に移転します。

 

 

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 不動産の二重譲渡とは?

 では、契約と同時に所有権は移転します。ですが、世の中では、不動産を買ったらとりあえず、「司法書士に依頼して登記を直ぐにしようぜ!」的な空気がありますよね。なぜですか。理由はいくつかありますが、法律的に言えば、一番は確定的に所有権を取得したいからです。

 

 具体的に検討してみましょう。先ほどの例で、不動産屋さんとあなたの間で、「浦安の○○の土地」の売買契約は成立します。そして、後日不動産屋さんに5000万円支払って、代わりにその土地の引き渡しを受けました。しかし、登記料が高いため、後日気が向いたら登記をしようと思い放置しました。

他方、あなたに「浦安の○○の土地」を引き渡した後、別のAさんという客が不動産屋さんに来たとします。Aさんはあなたが買ってすでに引き渡しを受けている「浦安の○○の土地を1億円で売ってくれ」と不動産屋さんに言いました。不動産屋さんからすれば、2倍も違う額の申込みを受けたら、「もちろん。いいですよ」とか言っちゃいますよね。

「何が『もちろん。いいですよ!』だよ」と、あなたからしたら非常にイラッと来ると思います。

 

 私だったら怒ります。彼女に浮気されたレベルでむかつきます。二人にいい顔するのはよくないですよね。本命を決めたら一人に絞るべきだと思います。二人にいい顔をするのは二人とも傷つけることになるので絶対によくないことです。

 

と!「何の話をしているんだ?」と突っ込まれるかもしれませんね。ごめんなさい。

 

 ですが、1億円提示のAさんに不動産屋さんが「もちろん。いいですよ」と言った場合に、契約は成立するのでしょうか。というのも、すでにあなたに「浦安の○○の土地」は売っているので、そもそも、売れないのではないでしょうか。

 

 実は、これ売れるんですね。色々な説明の方法はありますが、先ほど私は契約の成立により所有権は移転すると言いましたが、これは確定的に移転しているわけではありません。その反面として、未確定ながらも売主の不動産屋さんに所有権が残存していることになり、残存した所有権があることを前提に、不動産屋さんがAさん「浦安の○○の土地」を売却し、所有権の移転を行うことは可能ということになります。

 

 その結果、あなたとAさんは、「浦安の○○の土地」を未確定ながらもお互い所有していることになります。では、最終的にどちらが所有権を確定的に取得できるのでしょうか。

 

 これを規定しているのが、民法177条です。民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は・・・・・登記をしなければ、第三者に対抗することはできない」と規定しています。

 

 具体的に検討します。まず、現在問題となっているのは、あなたとAさんどちらが所有権を確定的に取得できるかですよね。これは土地という「不動産」の所有権という「物権」の獲得あるいは移転に関する事項です。そのため、「不動産に関する物権の得喪及び変更」の問題と言えます。

 

 そして、同条に規定されている「第三者」とは、専門用語でいうと、当事者又は包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を言います。なんだか呪文のような言葉ですね。具体的にいうと、不動産の所有権を誰が最終的に所得するかは、民法177条によれば「登記」ですよね。つまり、「登記をしなければ、第三者に対抗することはできない」とは、登記をしないと第三者に自分が所有権を持っていると主張できないことを意味します。これを言い換えると、登記を備えれば第三者に対して自分が所有権を有していることを主張できる。すなわち、確定的に所有権を取得するということになります。

 

 そうだとすると、今回の問題で「第三者」とは、あなたもAさんも未確定ながらも所有権を有していますよね。そのため、どちらも確定的に所有権を取得する可能性があります。反対の視点でみると、あなたとAさんどちらかが登記を備えてしまうと、一方は確定的に所有権を喪失してしまうことになります。

 

 したがって、相手が登記を備えていない間は、共に所有権を主張でき、かつ、相手が登記を備える前であれば、相手が土地の所有権は「私が持っている」と主張しても、これをあなたは拒むことができます。

 そのため、あなたもAさんも、相手の登記の欠缺(ないこと)を主張する正当な利益を有する者ということになります。

 

 以上から、登記を相手が備えるまでは、相手の所有権に基づく請求を拒むことができますが、登記を相手が備えた場合には、請求を拒むことはできなくなります。

 

 総括

 登記を備えていないとどのような問題が起こるかというと、不動産屋さんから土地の引き渡しを受けました。そして、登記をしないまま数年が経ち、「浦安の○○の土地」は買ったとき5000万円の価値しか有していませんでしたが、数年経過して10倍の5億円になったとします。まさにバブルですね。しかし、その土地はAさんが買って直ぐに登記をしていたとします。先に買ったのはあなたです。しかし、Aさんの方が先に登記をしていた場合、Aさんがあなたに土地を引き渡すように請求してきた場合、これを拒むことはできません。ゆえに、5億円の土地は結果的にあなたのものにはならなくなってしまいます。

 非常に残念です。このような悲しい思いを避けるためにも、土地を買ったらすぐに登記をすることが大切です。

 

 この場合、売主にどのような請求ができるかは、また後日書こうと思います。

 

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殺人罪?それとも傷害致死罪?そして殺意とは?

 

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 暑い日が、暑い日が続きますね。暑いです。本当に暑いです。

 

 よくテレビで、「○○容疑者が傷害致死罪の容疑で逮捕されました」や「××容疑者が殺人罪の容疑で逮捕されました」という報道を目にしますが、この違いってどうやって区別するのですかね。そこで、今回は、殺人罪と傷害致死罪とはどのように区別するのか。また、殺意の認定はどのようにして行われるのか検討してみたいと思います。

 

*ちなみ、「容疑者」という言葉がありますが、「容疑者」という言葉は法律上の言葉ではありあません。法律上は「被疑者」といいます。裁判が始まった後、公訴提起といいますが、それ以降は「被告人」といいます。また、民事裁判では、訴えを起こす方の当事者を「原告」といい、訴えられる方を「被告」と言います・・・・ふと我に返ると揚げ足取りの小姑みたいですね(笑)。 

 

 殺人罪と傷害致死罪

 さて、小姑発言は置いておいて、本題に入ります。まず、殺人罪の条文は、刑法199条に規定されています。

 

 刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期もしくは五年以上の懲役に処する」と規定しています。

 

 この条文は分かりやすいですね。特にそのままの意味です。専門家風にいうと、殺す行為とは、人の自然の死期以前に人の生命を断絶する行為となります。

逆に難しくなった!と思いますよね。ですが、簡単です。人間には寿命があります。普通に生活していれば「死」の瞬間が訪れますが、それが訪れる前に、他人がその人の命を故意に奪うこと、これが人の自然の死期以前に人の生命を断絶する行為、すなわち、殺す行為です。

 

 では、傷害致死罪とは何でしょうか。傷害致死罪は、刑法205条に規定されています。

刑法205条は「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する」と規定されています。

 

 この条文も比較的わかりやすいですよね。「身体を傷害し」とは、専門家風に言うと、人の生理的機能に障害を加える行為となりますが、要するに怪我をさせる行為です。

 この怪我をさせる行為には色々なものがあります。例えば、押し倒して、相手に擦り傷を負わせても怪我をさせていることになりますよね。そのため、「身体を傷害し」に当たります。他方、包丁で心臓を刺しても、怪我をさせていることに変わりはないので、「身体を傷害し」に当たります。

 ですが、押し倒して擦り傷を負わせても通常、人は死亡しませんよね。なので、この場合、傷害罪(刑法204条)が成立するにすぎません。

 他方、心臓を包丁で刺した場合、通常、人は死亡します。つまり、「身体を傷害し」、「よって」つまり、その結果、人が死亡しているので、傷害致死罪が成立することになります(刑法205条)(法律用語で結果的加重犯と言います。)

 

 と!ここまでくると一つの疑問が浮かぶと思います。

包丁で心臓を刺している以上、殺人罪が成立するのではないかと思いますよね。

 

 実は、この場合、殺人罪になるケースと傷害致死罪になるケースの二つの可能性があります。では、どのように区別するべきでしょうか。

 

 この区別で用いるのが、認識の違いです。ここでは本来行為論で説明すべきだと思いますが、難しいので殺意という枠で説明します

(厳密には、行為者の認識態様の違いが行為の危険性を変化させるという形になりますが、正直、一般的なニュースを見るときあまり重要ではないと思うので、あえて殺意で説明します。)

 

 そもそも、殺意とは、死亡結果の認識認容をいいます。

先ほどの心臓を包丁で刺す行為の時に、「殺してやる」等と思っていた場合、被害者が死亡することを認識認容していますよね。そのため、殺意があるということになり、殺人罪が成立します。

 

 他方、心臓を包丁で刺す時に、例えば、酔っ払っていて、話しているうちに頭にきてとりあえず、近くにあった包丁で切り付けたというような場合には、「痛めつけてやろう」と思って、手に向かって切り付けたのですが、運悪く心臓に刺さってしまったという場合があります。この場合、怪我をさせる認識はありますが、相手が死亡することを認識していないです。

 このような場合には、殺意はなく、傷害致死罪が成立することになります。

 

 

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 殺意

 では、殺人罪と傷害致死罪の区別につき、便宜上、殺意を基準に行うとして、殺意とはどのようにして認定すべきなのでしょうか。

 

 そもそも、殺意は死亡結果の認識認容です。つまり、これは人の心の中の事情ですよね。

 

 昔、ある女の子と付き合っていて、「あの時、あの子の気持ちがわかっていたら、今幸せな生活を二人でしていたのかもしれない」と思うことがありますが、あの子の気持ちがわからなかったから、今一人できつい羽目になっているわけですよね。まぁ、その時の彼女のしぐさや状況で察するべきだったのでしょうが、当時は気付かなかったですね。

 

 と!ものすごくどうでもいいことを聞かされたと思っていますよね。ですが、実は、殺意も一緒です。その時、言ってくれれば解ったのに!言わないから状況で察するしかないのです。

 

 つまり、これを刑事裁判に当てはめると(当てはまっているか分かりませんが(笑))

 被告人が刑事裁判で、「私は、殺すつもりでした」と自白をしていれば裁判官は、殺意があったと分かりますよね。そのため、裁判官は、言ってくれたおかげで、殺意を認定できます。ですが、被告人が自白をせず、殺意があったとは言ってくれない場合には、殺害当時の被告人の犯行状況等を見て殺意を認定するしかありません。

 これを小難しくいうと、間接事実を積み上げて立証あるいは認定する方法と言います。

 

 では、どのような間接事実があれば、殺意を認定することができるのでしょうか、代表的なものをいくつか検討します。

 

 創傷部位と凶器

 一つ目は、創傷部位と凶器です。まず、創傷部位は、身体の枢要部かどうかで異なります。そもそも、「身体の枢要部分ってなんだよ?」って話ですよね。身体の枢要部とは、手と足を除いた体の部分です。要するに、頭、顔、首、胴体です。これらの部分は攻撃させると致命傷に至る可能性が高いす。そのため、人体の枢要部への攻撃は、殺意を認定する方向に傾く事実となります。

 

また、傷の程度も重要となります。要するに、心臓を1回、浅く突き刺すのと、心臓を100回深く突き刺すのでは全く違いますよね。この場合、複数回又は深く突き刺す行為の方が、殺意を認定する方向に傾く間接事実となります。

 

 凶器については、二つの視点で考える必要があります。まずは、性質です。つまり果物ナイフと包丁だと包丁の方が、致命傷を与える危険が高いですよね。そのため、包丁を使用した場合は、殺意を認定する方向に傾く事実となります。

次に、使い方が重要になります。例えば、レンガ等は通常建物に使用する材料で凶器にはあらないものです。しかし、レンガを使って複数回人間の頭部を殴打すれば当然死亡する可能性は高いです。そのため、このような使い方をしたことは、殺意を認定する方向に傾く間接事実となります。

 

 動機

 また、殺人罪は、本来なかなか発生しない事件です。というのも、殺意をもって人を攻撃するには、それ相応の理由が通常あるからです。要するに強い恨みがある等の動機があってしかるべき犯罪です。そのため、殺意を抱くに値する動機の存在は、殺意を認定する方向性に傾く間接事実となります。

 

 救護措置をしない

 また、通常、人を殴って殺すつもりがなかった場合には、病院等に運んだりすることが多いです。そのため、救護措置をしないことは、殺意を認定する方向性に傾く間接事実にはなります。しかし、予期せぬ結果に戸惑いその場から逃走することも、十分ありえるので、救護措置をしていない事自体は、強く殺意を推定する事実とはいえないと思います。

 

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 総括

 以上の、殺人罪と傷害致死罪の違い、及び殺意の認定方式について検討してきました。ドラマ等で、警察官が被疑者の死亡解剖に立ち会ったり、凶器が何で、動機が何かみたいなことを捜査しているシーンがありますが、この捜査も殺意の立証をする上で、必要なものです。

そのため、ニュースやドラマを見るときに少し意識してみると、いつもと違った楽しさがあるかもしれません。

 

 

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その発言。本当に脅迫罪になりますか?

 

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 最近テレビや新聞などで、政治家の発言に物議が起こっています。「このハゲー」や、ミュージカル風に暴言を吐き秘書を叱っている姿は、新手のホラー映画のワンシーンみたいですね。

 

怖いです!

 

 ですが、この議員の発言自体は、脅迫罪にならない可能性が高いそうです。では、なぜこのような暴言が脅迫罪にならないのでしょうか。今回は、どのような場合に脅迫罪が成立するのか検討してみたいと思います。

 

 脅迫罪の成立要件

 そもそも、脅迫罪は、刑法222条に規定されています。まずは、条文を見てみましょう。

 

 刑法222条第1項では、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」と規定しています。

また、同条第2項では、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、同様とする」と規定しています。

 

 なるほどよく分らない条文ですね。

 

 具体的に検討してみましょう。まず、脅迫罪の相手は、自分又は「親族」だということが分かりました。

そのため、「お前の彼女を痛めつけてやる!」や「お前の友達を殴ってやる!」的な発言をしても、自分又は親族ではないため、発言者に脅迫罪は成立しません。

 

*ちなみ、親族とは、自身から見て6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(配偶者の血族で親子、孫、兄弟、甥、姪、祖父母等)を法律的には指します(民法725条参照)。 

そのため、例えば、自分の母親や、子供に危害を加える旨の発言は、脅迫罪に当たる可能性があるのは当然だとして、それだけでなく、配偶者の父親や配偶者の兄弟に対して危害を加える旨の発言は、脅迫罪に当たる可能性があります。

 

 余談ですが、自分の娘が嫁いで、嫁いだ先の親と自分が親族関係になると思っている方がいます。これは一般的な感覚だと正しいと思います。ですが、法律的にみるとそうではありません。娘の嫁ぎ先の親と、娘の親である自分自身とは親族関係は形成されません。そのため、扶養義務などは生じません。当然、相続権もありません。

 

 では、発言の相手がわかったとして、どのようなことを発言すれば脅迫罪になるのでしょうか。

 条文には、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」と書いてありますが、これを一般的に「害悪の告知」と呼びます。具体的に検討します。

 

 「生命」に対する害悪の告知とは、いわゆる殺害予告です。また、「身体」に対する害悪の告知とは、「ぶん殴るぞ!」的な暴行をする旨の内容です。

 

「自由」に対する害悪の告知とは「今から君を監禁しちゃうよ」的な発言です。「名誉」に対する害悪の告知とは、「お前が不倫していることをばらすぞ」的な形で、不名誉な事実を公開する旨の発言が当たります。また、「財産」に対する害悪の告知とは、「お前の持っている車に放火するぞ」などの発言が当たります。

 

 なお、脅迫罪は、これらの発言をした時点で成立する犯罪です。難しい言葉でいうと、抽象的危険犯です。しかし、このような名称はぶっちゃけどうでもいいので覚えなくて全然大丈夫です。

それよりも、重要なのは、このような脅迫罪に当たる発言をした上で、人に何らかの行為をするように命じた場合には、強要罪が成立します(刑法223条)。そして、お金を要求すれば、恐喝罪(刑法249条)。程度がひどい場合には、強盗罪(刑法236条)に当たります。

 

 つまり、脅迫罪に当たる発言をして何らかのプラスアルファーの行動を起こすと、重い犯罪が成立します。つまり、刑法では、基本的な犯罪類型を設定しておいて、他に反社会的な行動があれば重い犯罪として規定しています。

 

そのため、犯罪を考えるときには、基本的な犯罪は何か、その上で、どのような反社会的な行動があるときにどのような重い犯罪が成立するのかを考えることがとても有益になると思います。

 

 本線に戻ります。では、「害悪の告知」とはいかなるものであってもよいのでしょうか。この点については、少し微妙なケースもあります。そもそも、脅迫罪は、個人の意思決定の自由が害されることを抑止するための犯罪規定です。

 

そのため、一般人の意思決定に影響が与えられない場合、すなわち、一般人が発言を受けても畏怖しないものであれば、殊更罰する必要がないことになります。そのため、害悪の告知と言えるためには、一般人が畏怖を覚える程度の内容であることが必要になります。

 また、「君を殴る」「君を蹴る」というような直接的な表現をしなくても、はっきり意味がわかる場合には、一般人が畏怖を覚える程度であるため、脅迫罪が成立します。

 

 と!抽象的な話をしても仕方がないので、具体的に検討します。

 

 まず、広島高松江支判昭和25年7月3日高刑3・2・247では「人民政府ができた暁には人民裁判によって断頭台上で裁かれる」という発言が、脅迫罪に当たらないとされました。

「人民政府」?よく意味が分かりませんが、今はやりの忖度をすると、日本が中国みたいになったらという意味でしょうか?日本が中国みたいな国家体制になったら、君はギロチンで処刑されちゃうぞ。とう意味の発言ですかね。これを言われても、「畏怖」は覚えないですよね。なので、「害悪の告知」に当たらず、脅迫罪は成立しないことになります。

 

 逆に、最判昭和35年3月18日刑集14・4・416では、村の中で対立抗争している2つの派閥があり、その一方の中心人物の家に、火事が発生していない時点で、「出火御見舞申上げます。火の元に御用心」という手紙を送った行為に、脅迫罪が成立するとしました。

 火事が起こっていない時点で、「出火御見舞」とか怖いですね。つまり、この発言は対立抗争中であることを前提とすると、「君の家に火をつけますよ」という意味がはっきり分かるので、畏怖を覚えます。そのため、「害悪の告知」となり、脅迫罪が成立することになります。

 

 

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 具体的な検討

 以上を踏まえて、ミュージカル女優の、あいやミュージカル議員の発言が、脅迫罪に当たるか検討します。

 まず、「ハゲー」という発言は、言われた男性は傷つきますよね。すごく悲しいです。ですが、この内容は、危害を加えるような内容ではないので、「害悪の告知」に当たりません。

 また、「お前の~~娘が~~車に~~」とても下品なミュージカルなので、意味を変えずに、要約します。「あなたの娘が、車に跳ねられて死亡してしまった場合に、跳ねた運転手がそのようなつもりはなかったですと発言した場合、それを言われてあなたはその運転手を許せますか」という内容でした。うん!最近のプリクラレベルで美的加工ができました。まぁ、元がひどいのでこれ限界がありますが。

 

 では、この発言はどうでしょうか。この発言は、原則脅迫罪に当たらないです。というのも、この発言は、秘書が議員に叱責されている最中に「そんなつもりはなかったんです」と弁明して、その弁明が気に食わないということを指摘するために、例として、第三者が秘書の娘を跳ねたときに、そんなつもりはありませんでしたと言われて許せますか。許せないですよね。ということを話しているにすぎません。

 

 議員が娘を跳ね飛ばすぞという意味が含まれていないので、「害悪の告知」に当たらず、脅迫罪は成立しません。

 

 もっとも、「私も車持ってるんだよ。あなたの娘は○○学校に通ってて、下校は××の道を通るよね。私明日の下校時間帯、暇だから車で言ってみようかな」的な発言を仮に付け加えたら、めちゃくちゃ怖いですよね。なぜ怖いかというと、先の発言を合わせて全体で読むと、「あなたの娘を跳ねるぞ」という意味になるからです。あくまでも仮定の話ですが、この場合は、脅迫罪が成立することになります。

 

 総括

 以上のように脅迫罪に当たるかどうか、結構微妙―なケースが多いです。なので、常日ごろお話をするときは、私自身発言に気を付けたいと思います。

 

 

 

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隣人トラブル!殴られなくても傷害罪(刑法204条)

 

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 数か月前ですが、テレビで隣人トラブルの報道がされているのを見ました。その報道の中には、ご近所の人が夜も明けぬ早朝に家の前に来て、「呪ってやる」「お前!覚えてろよ」などの暴言を大きな声で叫ぶという映像がありました。怖いですね。それが毎日ですよ毎日!

 

小心者の私ならガクガクブルブル、てんやわんやの一大事ですよ!

 

 「どうゆう状態だよ!」と突っ込まれるのが一番怖いのですが、それは脇に置いておいて、さて本題に入ります。今回は、隣人が雨の日も風の日も雪の日も足しげく通い暴言を毎日毎日浴びせてきた場合に、傷害罪(刑法204条)が成立するのか検討してみたいと思います。

 

 傷害罪と暴行罪の関係

 まず、傷害罪と暴行罪の条文を確認してみましょう。

 傷害罪は、刑法204条に規定されています。同条は「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と規定しています。

 他方、暴行罪は、刑法208条に規定されています。同条は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と規定しています。

 

 んんんん~この条文も分かりそうで、よく分らない条文ですね!

 

 具体的に検討してみましょう。

 まず、「傷害」とは、通説によれば、人の生理的機能に障害を加えることと解されています。つまり、人の顔面を殴って怪我を負わせた場合や、飲み物に毒を入れて下痢の症状を生じさせた場合が、「傷害」ということになります。

 そして、暴行とは、不法な有形力の行使と解されています。具体的には、人を後ろから押したり、殴ったりする行為です。

 

 これを前提として条文を素直に読むと、まず、暴行罪については、「暴行」を加えたが、傷害結果が生じなかった時となります。つまり、殴る蹴るなどの行為をしたにもかかわらず、その暴行が相手に当たらず、怪我をしなかった場合等に、暴行罪が成立することになります。

 

 では、傷害罪はどうでしょうか。つまり、暴行という不法な有形力の行使の場合に限って、怪我等の結果が生じた場合にだけ成立するのでしょうか。

 

 実はそうではないんです。

刑法204条は、「人の身体を傷害した」と規定していますよね。つまり、怪我等の結果が生じた場合に成立する犯罪であり、手段については有形無形を問わず、成立する犯罪です

 

 つまり、その手段は蹴ったり殴ったりする行為はもちろんそれ以外の行為であってもよいわけです。要するに、病院にいって診断書が出たとします。診断書に載っている病気の原因が、Aとうい人物の行動のみならず、発言であっても、傷害罪は成立するということになります。

 

 

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 具体的な検討

 では、先ほどの隣人トラブルに即して検討してみましょう。先ほどの隣人トラブルでは、隣人が家の前に来て大声で、暴言を吐いていますよね。これが一日であればまだしも、毎日毎日続けば、やられた方はどうなりますか。私だったら、ノイローゼになったり、うつ病状態になると思います。このような精神的な病気も、人の生理的機能に障害を加えることになるため、「傷害」結果となります。

 ゆえに、隣人が毎日毎日このような暴言を吐き続けて、その結果、精神的な病気を被害者が発症すれば、傷害罪(刑法204条)が成立します。

 

 発病前に警察はしっかり対応してくれるの?

 では、このような精神的病気を発病した場合には、傷害罪が成立するとして、それ以前の段階でも、当然苦しいわけですよね。というか、苦しくなかったら病気になりません。なので、発病前の段階で、警察に対処して貰いたいです。

 しかし、警察は単に暴言を吐いている段階では、動かないことが多いです。それはなぜでしょうか。

 

例えば、暴言の内容が、殺害予告や危害を加える旨であれば、これは「害悪の告知」として、刑法222条の脅迫罪が成立します。つまり、その発言をした時点でその隣人は犯罪者ということになります。そのため、警察はすぐに逮捕及び検挙することが可能です。

なので、隣人の暴言の内容が危害を加える内容であれば、直ちに警察に行って下さい。そうすれば、直ぐに警察は対応してくれると思います

 

 では、そのような内容ではなく、「呪ってやる!」や「お前!覚えてろよ」という暴言の場合にはどうでしょうか。この場合、明確に「あなたに危害を加えます」という意味にはならず、「害悪の告知」とは認定しずらいです。もっとも、例えば、包丁などを持って家の前で「お前!覚えてろよ」等と発言すれば、当然殺害予告的なニアンスを含んでいるので、「害悪の告知」に当たりますが、そのような切迫したケースはあまりないと思います。

 

 また、「呪ってやる」等の発言は、不法な有形力を行使しているわけでもないので、暴行罪も成立しません。

 

 そのため、この段階では条例違反に当たる可能性はあっても、暴行罪、脅迫罪には当たりません。そのため、警察は直ちに逮捕などの強硬措置にでることができません。

 

 ここで、条例違反があるのだから逮捕できるのではないかという意見もあると思います。確かに、条例違反でも逮捕できる場合はあります。詳しくは、逮捕要件についてちょっと長くなってしまうので、ここでは軽くだけ触れさせて頂きます。そもそも、逮捕とは、被疑者の身柄拘束をする捜査方法です。そして、逮捕をする目的は、公訴提起(刑事裁判をする訴え)をする前提として、被疑者が逃走したり、住居不明等で、法廷に呼べなくなることを回避することにあります。

 

条例違反の場合、原則、地方自治法14条に規定されている通り、最高刑が懲役2年です。そして、執行猶予を付すことができるのが3年以下の刑を言い渡す時です。つまり、条例違反の場合、実刑になり刑務所に入りことになるケースはほとんどありません。言い換えると、条例違反で検挙しても、かなり軽い刑しか科すことができず、さらに、執行猶予が十中八九付されます。そのため、隣人が逃走を図ることは通常想定できません。そして、隣人の名前と住所もはっきり警察はわかっています。そのため、逮捕の必要性は認められず、逮捕できないということになります。

 

 その結果、単に隣人が暴言を吐いている段階では、警察が動いてくれない可能性が高いです。ですが、その後、例えば、病気を発症すれば傷害罪が成立しますし、危害を加える内容を言っていれば、脅迫罪が成立します。そして、隣人が暴言を吐いている段階で、今後それらの犯罪が成立する可能性が高いです。そのため、一度警察に行き相談をすること自体は、後で犯罪が成立した時点で有利に事をすすめる上で、とても重要です。

 

 総括

 色々脱線してしまい申し訳ありません。まとめると、まず、隣人が暴言を言っている段階で、警察に相談をしても、暴言内容にもよりますが、直ぐに逮捕という形にはならないことがあります。しかし、相談をすれば、巡回の回数を増やしてくれたり、事が起きた時に直ぐに対応してくれるので、相談をすることが大切です。

 

 また、隣人が暴言を言っていたことが原因で、ノイローゼやうつ病などを発症したら、傷害罪が成立します。そのため、診断書をもって直ぐに、警察に行きましょう(もちろん、民事であれば、慰謝料請求も当然できます)。

 

 隣人トラブルはとても苦しいです。引っ越すことは難しいし、毎日続く場合は、精神的な苦痛は著しいです。ですが、解決の糸口は必ずあるので、諦めずに段階ごとにしっかりとした対応をとっていきましょう。

 

 

 

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