5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

離婚するための法律上の制度 離婚したい!でも夫が応じてくれない場合の対処法

 

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 最近、離婚される方が増えていますよね。芸能人でもかつてはオシドリ夫婦と言われていたカップルの離婚も、ちらほら目につくようになりました。このような芸能人ではなくても、離婚される方は多いです。しかし、離婚をしたくても夫が離婚を承諾しないケースも多いです。そこで、今回は離婚するために、法律上どのような制度があるのか検討してみたいと思います。

 

 離婚の歴史

 かつてヨーロッパなどでは、神の前で誓いを立てた以上、離婚をすることは認められていませんでした。今でもカトリックの人は離婚をしてはいけないという戒律があります。有名な例でいえば、イギリスの国王がカトリックだと離婚できないので、プロテスタントに改宗したという説もあります。

 

 日本では、「三行半」という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、この三行半は慣習上の制度に過ぎず、公式には離婚は認められていませんでした。しかし、三行半は日本の江戸時代における離婚の方法としてよく使用されていました。つまり、夫から妻に三行半を突きつければ自動的に離婚したと扱われます。他方、妻が離婚したい場合は、縁切り寺という寺院に逃げ込めば離婚をすることができるという慣習がありました。

 

 つまり、江戸時代では、一方的な意思表示で離婚ができたわけですね。ある意味今よりもお手頃な離婚方法ですよね。

 

 現在の離婚制度

 現在の制度では、江戸時代のように勝手に一方的な意思表示を突きつけて離婚することができるというものはありません。現在の離婚制度には、主に協議離婚、調停・審判離婚、裁判離婚の三つの制度が設けられています。

 

 協議離婚

 協議離婚は一番お馴染みの方法です。すなわち、離婚届に当事者が署名押印をして、市役所等に届け出る方法です。この方法は一番簡単です。しかし、この方法は、当事者が離婚に同意しており、また、両者の間で財産分与慰謝料などに争いがない場合に用いられる方法です。そのため、当事者の一方が離婚に同意していない場合には、使用できない方法です。

 

 たまに夫が離婚に反対している場合に、勝手に夫の名前を離婚届に書いて市役所に出しにいけば良いと言う人がいますが、これは有印私文書偽造罪(刑法159条1項)という犯罪になる可能性があるので、絶対にやめましょう。

 

 また、離婚届にしぶしぶサインしてしまった場合でも、離婚したくないときは、管轄している市役所にその気持ちを相談してみて下さい。場合にもよりますが、管轄している市役所で離婚届を一定期間受理しないという扱いにしてもらえるときもあるので、ダメ元で聞いてみて下さい。

 

 調停・審判離婚

 このように当事者の一方が離婚に同意してくれない時は、裁判所に訴えを起こすことができます。しかし、直ぐに法廷で判決を求めるということはできません。

 

 というのも、法廷で判決を求める裁判手続きをしてしまうと公開の法廷で審理されることになります。つまり、だれでも傍聴できる状況下で、夫婦の生活状況を話すことになります。また、離婚というものは感情によって左右されます。

 

 

 つまり、この人と今後生活したいかしたくないかという気持ちの問題が一番だと言えます。そこで、いきなり公開の法廷での裁判手続きをするわけではなく、まずは裁判所の中にある非公開の部屋で話合いが行われることになります。

 

 その話合いで、当事者間で納得して合意をすれば、調停という処分がされて、離婚が成立することになります。他方、当事者間で合意がなされない場合には、裁判所が当事者の話を聞いて離婚を認める審判をして離婚をすることができます。しかし、この審判は当事者の合意があるわけではないので、納得のいかない当事者が異議申し立てをすると、公開の法廷で審理すべく、裁判手続きに移行することになります。

 

 裁判離婚

 では、数々の難関をクリアして見事裁判手続きまできたとします。実際に裁判手続きで離婚する件数は年間数百件程度と言われているので、かなりのレアケースと言えます。どのような場合に、裁判で離婚することができるのでしょうか。この離婚事由が書いてあるのが民法770条1項です。

 

民法770条は1号「配偶者に不貞な行為があったとき」

       2号「配偶者から悪意で遺棄されたとき」

       3号「配偶者の三年以上明らかでないとき」

       4号「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」

       5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」

と定められていますが、多くの場合は、1号又は5号に当たります。

 

 詳説すると、1号の「配偶者に不貞な行為があったとき」とは、配偶者が不倫をしていた場合です。よく見るケースですよね。5号は1号から4号までに当てはまらない事由について包括的に規定している条文です。ここで重要なのは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」という意味です。実はこの「事由」は時代の変化とともに大きく変わってきたと言えます。  

 

 一昔前だと離婚をすべきではないという考えが支配的でした、最近では離婚をすることは当事者の自由だという考えが定着してきました。離婚を認めるかどうかの根本的な考え方に、破綻主義というものがあります。

 

 つまり、夫婦生活が破綻している場合には、夫婦としての関係を維持する必要がない、あるいはできないので離婚を認めるべきだという考え方です。最近では、この考え方が強いので、「婚姻を継続し難い重大な事由」とは緩やかに解釈されています。例えば、DVは当然、性格の不一致もこの「婚姻を継続し難い重大な事由」に当てはまることになります。

 

 

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 どうすればよいか?

 このように検討してきた結果、離婚をする方法には三種類あることがわかりました。現行法上最後の砦の裁判離婚もかなり緩やかに離婚を認めていますね。そのため、夫が離婚に同意してくれない場合でも、離婚をあきらめる必要は全くありません。むしろ離婚したいと思えば極めて高い確率で離婚をすることができます。他方、夫としては奥さんに離婚されないように日々配慮をすることが大切かもしれません。

 

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太っていると交通事故で不利?素因減額の考察

 

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 先日、友人が交通事故にあいました。友人は少し肥満体質で、持病の心臓病があるので、心配していたのですが、事故直後は軽度の怪我で済みました。しかし、時間が経って後遺症などが出てきた場合にどうするべきか心配していました。この場合、太っていたり、心臓病を持っていることは交通事故の損害賠償上どのような影響があるのでしょうか。少し、検討してみたいと思います。

 

 交通事故の損害賠償責任

 交通事故が起きた際に、加害者に損害賠償責任が生じることは多くの人がご存知だと思います。 

   この損害賠償責任とは、民法709条及び民法710条が根拠条文となっています。

 

 まず条文を見てみると、709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。また、710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条(709条)の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定しています。

 

 この条文、難しい規定ですよね。実はこの規定は、かなり解釈の対立がある条文です(損害を事実ととらえるか、法的評価を含んだ概念か、有名な差額説は、法的評価を含むという説を前提とすることになりますが)。

 

 ここでは、簡単に説明します、民法709条というのは、不法行為に基づく損害賠償責任が成立する要件を規定しています。この要件というのは、故意又は過失行為、損害、及び因果関係です。

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   交通事故の場合には、例えばスピード違反や、前方不注視がある運転行為が過失となります。

   損害とは、少し難しいのですが本来あるべき全体財産から過失行為によって損なわれた現在の財産状態との差というように考えられています。

   例えば、交通事故によって車が壊れてしまった場合などは、本来交通事故がなければ1000万円の全体財産があったとします。

 

 車が壊れて修理等が必要となり、修理に100万円かかったとします。その場合、現在の財産状態とは、900万円ということになり、本来あるべき財産状態は1000万円なので差額は100万円ということになります。

 

 しかし、これはすごく、めんどくさい計算の仕方なので、100万円の修理代がかかりました。そのため、端的に100万円の修理代が損害と考えて良いです。(厳密には、経済的全損の場合は、車両時価額を基準に車両損害は算定されますが、ここでは触れません。)

 

 次に710条は「財産以外の損害」と規定していますが、一般的には、慰謝料の規定です。慰謝料とは、精神的な損害の金銭賠償を言います。

 また、因果関係とは、過失行為と損害のと間の因果関係という意味になります。

 

 以上をまとめると、例えば、スピード違反のまま運転して(過失行為)、これによって(因果関係)歩行者がひかれてしまい怪我をして治療費が発生した場合(損害)、運転していた人は損害を賠償しなくてはいけなくなります。

 

 

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 過失割合とは

 このように損害賠償責任が成立するとして、過失割合という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。この過失割合とは何でしょうか。

 

 民法722条2項を見てみます。同条は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と規定しています。

 

 そもそも、不法行為に基づく損害賠償責任の趣旨は、生じた損害を公平に当事者に負担させる点にあります。なので、例えば、前方不注視のまま運転していて、被害者が飛び出してきたとします。

 

 被害者が飛び出したせいで交通事故が発生したともこのケースではいえますよね。この場合、加害者が被害者の生じた損害を全額賠償させるというのは不公平です。なので、運転手の過失が7割で、被害者の過失が3割という形で、調整するのが妥当ということになります。この過失割合の調整条文が722条2項です。

 

 

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 太っていた場合はどうか?

 太っている場合は、いわゆる素因というものが問題となります。素因とは、身体又は精神的な障害等をもっている場合に、損害賠償の額で考慮される要素です。

 

   例えば、本来ならば全治1か月の怪我であったのに特殊な身体的特徴がある場合などに全治3か月になってしまった場合、2か月治療期間が増えたことは被害者の要素が起因しているとして、1か月分の治療費のみを加害者が支払うべきという考え方です。

 

 しかし、結論から言うと、太っているだけでは、素因として損害賠償額が減ることはありません。というのも、判例は身体的な特徴が「疾患」という場合以外、素因として認定していません(最判平成4年6月25日民集46・4・400)。そのため、単に太っていて、治療期間が延びただけでは、損害賠償額が減額されることはありません。

 

持病がある場合はどうか?

 持病がある場合には、「疾患」と認定されてしまうケースが多くなります。例えば、心臓病やリュウマチをもっている場合です。

 しかし、ここで注意すべきなのでは、持病をもっていて交通事故にあえばすぐに減額されるということにはなりません。

 

 つまり、例えば、心臓病を持っていたとして、怪我をした部分が足や肩だったとします。足や肩の負傷が心臓病を持っていたことで通常よりも重症になることは基本的にはないです。そのため、この場合減額されることはありません。

 

 また、リュウマチなどの持病をもっていても、それが原因で重症になったと認定されなければ、足や肩を怪我していいても減額をされることはありません。

 

 

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 要するに

 要するに、太っているだけでは、損害賠償額は減額されません。また、持病があり、これが「疾患」に当たるとしても、その持病が原因で重症になったと認定されない限りは、減額されることはありません。なので、加害者の保険会社から例えば「あなたは太っているので、賠償額を減らします」と言われても、その主張は本来認められないものなので、争った方が良いです。

 

 また、「持病があるので減額します」と言われた場合であっても、その持病が交通事故により負傷した部位と異なる場合には、素因減額が認められない可能性が高いです。

 

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借りパクしました!でも、もう時効でし ょ?ありえないです

 

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 先日、テレビのバラエティー番組でゲーム好きの芸能人がゲームについてトークする番組がありました。その中で、子供のころに借りパクしたゲームを返すというシーンがありました。しかし、借りた時から20年以上経っています。

  この場合、法律的にはゲームソフトを返還する義務があるのでしょうか。気になったので調べてみました。

 

 民法上の時効制度

 多くの人に知られていますが、日本の民法の中には時効制度というものがあります。しかし、どのような場合に時効が成立するのでしょうか?

  

 

 時効制度ってなに?

 時効制度とは、一定期間ある事実関係が存在した場合に、法的な権利変動を生じさせる制度です。小難しいことを言っていますが、簡単です。

 

  例えば、家を建てたときに土地の測量が間違っていて、隣の土地の上に家を建ててしまうことがあります。この場合、その隣の土地の所有権を持っていませんので、原則、不法に他人の土地を占有していることになります。

 

 しかし、10年あるいは20年という長い期間継続してそのような状態が続くことってよくありますよね。

 

  その期間が過ぎた後に、隣の人から家を取り壊して土地を明け渡してくれと言われたらたまったものではありません。そこで、一定の条件をクリアすれば、所有権を取得できるという制度があります。これを、法律上の言葉で、所有権の取得時効と言います(民法162条参照)。

 

 他方、お金を友人から借りたとします。ところが、友人も自分もお金の貸し借りがあったことを忘れていて10年が経過してしまったとします。その後、友人からお金を返せと言われたとしても、一定の条件をクリアすれば、お金を返す義務がなくなります。これを法律上の言葉で、債権の消滅時効と言います(民法167条参照)。

 

 このように時効制度は、一定の期間の経過によって権利の取得と消滅の場合を規定しています。そのため、時効制度とは、一定期間ある事実関係が存在した場合に、法的な権利変動を生じさせる制度ということになります。

 

 借りパクの場合はどうか?

 そもそも、借りパクとは、貸した物が返還されないまま借りた人がそのままもらってしまう場合です。そのため、借りパクによって借りた人が所有権を取得することができるか、言い換えると、所有権の取得時効が成立するかが問題となります。

 

 まず、民法162条の条文を見ています。同条1項は「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」と定めています。 

 

 また、同条2項は、「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」と規定しています。

 

 この条文も難しいことを言っているようですが、すごく簡単です。

 

 まず前提として法律上「悪意」とか「善意」とかの言葉がありますが、この意味については、「悪意」は「知っている」という意味で、「善意」は「知らずに」という意味です(法律を勉強している方は、一番下のマニアック解説を参照して頂けると幸いです)。

 

  まず民法162条1項は、悪意の場合、つまり、自分が所有権を有しないことを知っている場合の取得時効の要件を規定しています。他方、民法162条2項は、自分が所有権を有しないことを知らない場合、つまり、自分が所有権を持っていると信じている場合の取得時効の要件を規定しています。

 

  これは、法律には主観と客観によって権利保護の程度を変えるという概念が根本的にあるので、自分が所有権を持っていると思って占有している人には、早く権利を保護しようと考えて、10年という期間を設けています。他方、悪意の人の場合は、善意よりも権利保護の要請は強くないので、20年という期間を設けています(短期取得時効と長期取得時効)。

 

  では、借りパクした場合はどうでしょうか。借りパクである以上、自分が所有権を持っていないと知っている場合ですよね。なので、20年間占有すれば、そのまま所有権を所得することができるようにも思えます。

 

  しかし、現実問題それは難しいです。というのも、所得時効には「所有の意思」というものが要件で必要とされています。「所有の意思」とは自分が所有者として財物を占有する思という意味です。そして、この「所有の意思」は客観的要素からその存否が判断されます。

 

  借りパクは、自分でもらってしまおう、つまり、自分が所有者として財物を占有する意思を有しているようにも思えるのですが、客観的にみると借りている状態が継続しているにすぎません。そのため、友人に「君のゲームソフトもらうね」などのようなことを言わない限り、客観的事実に照らして、「所有の意思」があったと認定されることはありません。ゆえに、ほとんどの借りパクでは、所有権を時効取得できないことになります。

 

 借りパクでは所有権を取得できない!非常に残念です。このように所有権を取得できない以上、借りたものはすぐに返した方が色々なトラブルを避けられそうですね。

 

ちなみこちらが取り返し方です。

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マニアック解説

 ここからは少し専門的なことになるので興味のない方は読み飛ばして頂けると幸いです。

 法律を勉強されている方で、「悪意」と「善意」がわかるようで分からない方や何となく使っている方もいると思います。しかし、民法が上達するためにはこの「悪意」と「善意」の中身を意識することがとても大切だと思います。

 

以下で三つ例を示します。

 一つ目は、上記で検討した取得時効のケースです。ここでの「善意」は「自分が所有権を有しないことを知らずに」という権利の所在について自分を基準とした「善意」の用法例です。

 

 二つ目は、民法94条2項の「善意」です。ここでの「善意」とは、通謀虚偽表示のあったことを知らないこと、言い換えると、通謀虚偽表示の譲受人が無権利者であることを知らないでという意味になります。

これは民法上最も多い「前主が無権利者であることを知らずに」という意味の「善意」の用法例です。

 

 そして、三つ目は、抵当権の対象となる付加一体物の搬出事例で即時取得説をとった場合の「善意」です。ここでの「善意」とは、前主が無権利者であることという意味ではありません。というのもこの場面では、前主である抵当権設定者は、付加一体物の所有権を有しているので、無権利者ではありません。ここでの「善意」とは、抵当権の存在及び付加一体物であることを知らないことという意味です。

 

 このように民法上の「善意」と「悪意」には様々な用法例があります。「善意」と「悪意」がどのような意味であるのかしっかりと考えることで、論述におけるあてはめが説得力を増します。

 

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政治家は、他人の名誉を傷つけても許される?議員の免責特権の話

 

 

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 前回、政治家のスキャンダル報道と名誉毀損罪との関係につて、記事を書きました(政治家のスキャンダル報道は名誉毀損罪にならないってホント?)。すなわち、前回は私達が政治家批判をした場合やテレビなどのスキャンダル報道がなぜ名誉毀損罪にならないのかとうい観点で検討をしました。

 

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 今回は、逆で、政治家が一般人の名誉を侵害した場合に、法的に責任を追及されることがあるのかどうかを検討してみたいと思います。

 

 政治家の発言

 昔から現在至るまで、政治家の発言は色々と問題となっています。ある議員の秘書に対する暴言や他の議員の「巫女のくせに何だ」というような発言は記憶に新しいですが、仮に国会議員が国会で特定個人について、「あいつは不正受給をした悪党だ」や「あいつは不倫ばかりしている女好き」等の発言をした場合、名誉毀損罪として罪責を負うことや民事上の賠償責任を負うことはあるのでしょうか。

 

 議員の免責特権

 このような発言をした場合、政治的責任をとって辞任する等の可能性はあるのですが、実は法的責任を負わない可能性が高いです。

 その根拠となるのが憲法51条です。

   憲法51条は、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」と規定しています。

 

 この条文を簡単に説明すると、国会議員は、国民の代表として国民のために様々な法律をつくることを使命としています。

 

   法律をつくる作業というのはかなり大変な作業です。つい先日施行された共謀罪もその制定までにかなりの議論がなされていました(不十分あるいは強行採決とのご指摘もあると思いますが)。法律を制定するに当たっては、自由闊達な議論つまり、本音で色々話し合って本当にそのような法律をつくっても良いのかを検討しなければなりません。

 

 なので、本音で話してしまったことから、後で民事刑事上の責任追及がされてしまうと、議員が萎縮してしまって本音トークができず良い法律をつくれません。

 

 そこで、何を話しても後から法的な責任を負わないので安心して議論をして良いという制度を構築する必要があったので、憲法51条が制定されることになりました。これを議員の免責特権と言います。

 

 例外はないの?

 議員の免責特権がある以上、国会議員は何を話しても、原則法的な責任を負わないことになります。    

   しかし、例外的に責任を負うことはないのでしょうか。

 

 この点について見解を示しているのが、最判平成9年9月9日民集51・8・3850です。

 この判例は、国会議員が国会での質疑、演説、討論の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言について、国の損害賠償責任が認められるためには、「当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえて事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする」と述べています。

 

 この判例は、国の責任について述べています。なので、国会議員の個人の責任は定かでないです。しかし、国に対する損害賠償請求(国会賠償請求)と国会議員個人に対する損害賠償請求は別々に裁判所に訴えを起こすことができるのですが(詳しきは下記参照)、ほとんどの場合、国家賠償請求で勝訴できる事案ではないと、国会議員個人に対する損害賠償請求で勝訴するのは不可能に近いです。

 

 そのため、上記の判例が出した基準が国会議員個人に対する損害賠償請求ができるかどうかについても重要な役割りを果たしています。

 

 判例が想定する二つの場面

 一つ目の場面は、「職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示」した場合です。これは通常想定できないと思います。例えば、委員会や国会答弁の冒頭で、「この前私の友人の○○という人が、不倫をしました。いつかやると思っていたのですが、家庭が大変なことになってますよ。さて本題に入りますが・・・・・」というようなことを言った場合ですね。見たことも聞いたこともないし今後も起こらないと思います。

 

 二つ目は、「虚偽であることを知りながらあえて事実を摘示する」というものです。これは一見ありそうですが、多分起こりえないです。というのもこれは単にウソを真実だと信じた場合は除かれています。そのため、完全な捏造等の場合でない限り、この二つ目の場合に該当することはありません。

 

 例えば、「前事務次官は出会い系のお店に通っていた。ああいうお店は様々な男女の交流があるから、前事務次官もわいせつ目的でお店に通っていたのではないでしょうか」という発言をしても、責任追及される可能性は低いです。

 

 というのも、この発言は、出会い系のお店に行っていたことは各種報道等がされ本人も認めていた場合を前提としていますが、そこからありうる想定の話をしているにすぎません。全くの捏造した内容を捏造と知りながらあえて話しているわけではないので、何ら問題ないといえます。

 

 そうだとすると、国会議員が特定個人の名誉を侵害する発言をしたとしても、国及び国会議員個人が法的な責任を負うことはほとんどありえないと言えます。

 

 ですが、政治責任は当然問われるので、問題発言をすれば辞職に追い込まれてしまう場合も当然あります。

 

 将来政治家を目指している方は、やはり発言には気を付けた方が良いみたいです。

 

国賠の性質論と公務員の個人責任

 少し専門的な話になります。

 上記では、国に対する損害賠償請求(国家賠償法1条)と議員個人に対する損害賠償請求(民法709条710条)が併存することを前提にしています。ここは争いがあるところだと思います。そのため、少し検討してみたいと思います。

 

 この問題については、まず国家賠償法の制定趣旨から考えることが大切だと思います。戦前は、国家無答責の原則が前提となっていました。

 

つまり、国家の活動で一般個人が損害を被っても社会的利益を図るために、甘受すべき犠牲だとして、国家は賠償責任を負わないという考えです。ところが、日本国憲法ができたことで、憲法が一番保護すべきものとして個人の尊厳というものが重んじられるようになりました。

 

   少し語弊がありますが、要するに全体主義から個人主義へ転換したわけです。そのため、違法な国家活動によって個人が損害を負ったら、一番大切な個人が傷つけられた以上、国家はしっかり賠償しましょうということが、憲法17条に明記されました。しかし、これはあくまでも「国家は責任を負うべき」ということを明確にしただけで、「公務員個人の賠償責任はありません」ということを宣言したものではありません。

 

 また、性質論については、いわゆる代位責任と自己責任の議論があります。代位責任は、国家が公務員の責任を肩代わりして被害者に責任を負うという意味です。国家賠償法1条の責任を代位責任と考えるならば、公務員個人が責任を負うべきという判断を前提としているため、理論上公務員個人の責任を認めるのに親和的だと言えます。

 

   他方、御存じの通り、民法715条(使用者責任:従業員が第三者に職務執行中に損害を加えた場合に、使用者が責任を負うべきという条文)とは異なり、国家賠償法1条を自己責任と考える見解は結構多いです。

 

 その理由はいくつかありますが、民法715条の責任の場合には、報償責任の法理が直接当てはまりますが、国家は国家活動によって国家自身が利益を受けているわけではないので、報償責任の原理が当てはまらないです。そのため、自己責任という考え方も説得力があると言えます。(もっとも、危険責任の原理を重視するならば、代位責任と解することも当然良いと思います)。

 

 ではどのように考えるのが良いのでしょうか。

 個人的には、原則、公務員個人の賠償責任は否定すべきだと思います。というのも公務員の仕事内容には様々なものがあります。中には、警察官や消防士のように常に危険が存在し、個人に対して損害が生じる可能性があることを前提とした公務もあります。また、民事上の損害賠償責任は軽過失でも責任が認められてしまうので、軽度の過失が公務員にある場合にすべて公務員個人が責任を負うとすると、公務員が自己保身のためにすべき行動は「仕事をしないこと」(萎縮効果)ということになってしまいます。なので、原則、公務員個人の賠償責任は否定すべきだと言えます。

 

 ですが、公務員個人に重大な過失がある場合や故意に違法行為を行った場合については、形式的には公務の体裁をとっていてもその実質は違法な活動だと言わざるを得ないと思います。その場合、実質的に国家のために適切な仕事をしているわけではないので、公務員個人の賠償責任を認めても良いと言えます。これは求償を規定した国家賠償法1条2項とも親和的な解釈だと思います。

 

 上記で扱った判例の想定場面は、「職務とはかかわりなく」という場面と「虚偽であることを知りながら」という場面ですよね。これは公務ではない場合と、故意の場合を想定したものなので、公務員の個人責任が認められる場面だと言えます。

 

 よって、国に対する損害賠償請求と議員に対する損害賠償請求が併存し、上記判例の基準が当てはまる事案では、議員も個人として責任を負うと考えます。

 

 

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政治家のスキャンダル報道は名誉毀損罪にならないってホント?

 

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 最近、国会議員の不祥事がニュースでよく取り上げられていますよね。特に、不倫や秘書への暴言暴行、議員の悪口をネットの掲示板などに書きまくっても良いのでしょうか。

 「国民に選ばれたのだから、国民が批判して何が悪い!」という考え方はそれ自体適切だと思います。

   ですが、あまりにも度を過ぎると大変なことになるかもしれません。

 

刑事上の責任

 まず、掲示板に「○○議員不倫したとか、議員である前に人としてどうなの?」と書き込みをしたとします。これは、原則、名誉毀損罪に当たります。簡単に説明すると、名誉毀損罪が成立するためには、不名誉な事実を大衆に向けて伝達した場合に成立します。そのため、この書き込みは、名誉毀損罪となります。

 

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 でも、この結論は一般的にかなり違和感があると思います。というのも、現に多くの政治家のスキャンダル報道を目にしますよね。しかし、これらは名誉毀損罪になっているというニュースはあまり見ないですよね。それは、刑法230条の2があるからです。

 

 まず、刑法230条の2第1項は「前条第一項の行為(名誉毀損罪に当たる行為)が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったあときは、これを罰しない」と規定しています。

 

 また、同条第4項は、「前条第一項の行為(名誉毀損罪に当たる行為)が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」と規定しています。

(同条の性質論については割愛します。)

 

 この条文も解りずらいですね。簡単に説明します。そもそも、憲法21条1項は、「表現の自由」を保障しています。なので、私たちは思ったことや考えたことを大衆に向けて話したり、書き込んだりすることが憲法上の権利として保障されています。しかし、「表現の自由が私にはある!」と言って、人の悪口を書きまくっても良いのでしょうか。書かれた方はたまったものではありません。つまり、書かれた人の名誉が著しく侵害されてしまいます。

 

 そこで、名誉侵害になる表現を規制する必要があります。これが、名誉毀損罪を規定した刑法230条です。

 

 ところが、名誉を侵害してでも、表現をさせるべき場合があります。具体的にいうと、犯罪のあった事実や、公務員の不祥事等は、公共性が強いですよね。つまり、特に公務員関係については、人格的に問題がある人を議員にしたくないと考える人は多いです。そのため、現職候補者問わず議員としてふさわしくない人を排除したいですよね。この排除をするためには、情報が必要です。この情報は皆が知りたい情報なので(建前)、むやみに表現を妨げられてはいけないことになります。

 

 そこで、設けられたのが刑法230条の2です。つまり、第1項があるため、公共性のある事柄で、公共の利益を図る目的をもって、それが真実だと証明されれば、名誉毀損罪は成立しない(あるいは不可罰)ということになります。

 

 そして、第4項では、公務員を対象とする表現は、公共性が強いので、真実であることの証明ができれば、名誉毀損罪は成立しないということになります。

 

 具体的にはどのレベルまでOK?

 そうだとすると、議員の悪口は書きまくって良い!ということには当然なりません。真実でないこと、つまり、ウソや捏造をした記事を書きまくると、真実性の証明ができないので、名誉毀損罪が成立します。

 

 しかし、間違って真実だと思っていた場合は、どうなるのでしょうか。この場合、確実な資料に基づいて、真実だと信じていれば故意が阻却されて、名誉毀損罪は成立しないことになります。

 

 ですが、あくまでも「確実な資料に基づいて」いたことが必要です。

 ここでの「確実な資料に基づいて」とは、裏付け取材がしっかりなされていたか、または裁判所の判決に基づいたか等が重要となります。ゆえに、レベルがかなり高いです。

 

 そうだとすると、具体的に許されるレベルとは、信頼性のある記事や公益機関の発表に基づいて記事を書く場合です。ゆえに、自分で嫌いな議員がいて、「○○議員は昔、不良だった」や「○○議員は不倫している」などの記事を捏造したり、信頼性のない記事を見て書くと、真実性の証明もできないし、「確実な資料に基づいて」いるわけでもないので、名誉毀損罪が成立します。

 

ちょっとプラス

 以上は、議員などの公務員の場合についてです。では、芸能人の場合は、どのように考えればよいのでしょうか。実はこれ答えがありません。

 確かに、芸能人は社会的な影響力が強いです。その人がブログで紹介しただけで、商品が爆発的に売れたということは良くある話です。しかし、公共性という観点から考えるとかなり際どい気がします。というのも、公共性は公益にかかわる事柄なので、商品が売れたことと公益が図れたことは別ですよね。また、バラエティーやドラマによって、例えば、社会的問題にフォーカスがあてられることがあっても、実際にバラエティーやドラマ自体が、公益性を含んだものだと考えることは無理があると思います。

 

 なので、芸能人に関する名誉毀損記事を書くと、名誉毀損罪が成立すると考える方が自然な気がします。

 

  ここで、二つ注意すべきことがあります。一つは芸能ネタでも名誉毀損罪にならないことは当然あります。例えば、よく目にする熱愛報道は、そもそも、誰かとお付き合いしていることが不名誉ということはありえないと思います。というか、「不名誉!」ってめちゃくちゃ失礼ですよね(笑)。なので、熱愛報道自体は、そもそも、名誉毀損罪にならないことになります。記事の内容自体が外部的名誉を毀損するかどうかは注意が必要です。

 

 また、二つ目に、名誉毀損罪は親告罪です。最近ですと、芸能人の不倫ネタがよく記事に書かれていますが、「不倫」自体は不名誉な事なので、これを記事に書くと名誉毀損罪になると思います。

 ですが、名誉毀損罪は親告罪という犯罪類型です。親告罪とは、被害者等が告訴して初めて犯罪として処罰できる犯罪です。なので、芸能人の不倫ネタや過去の不祥事が報道されたとしても、芸能人本人が告訴しない限り犯罪として処罰されません。

 

 

 

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名誉毀損罪!そもそもどんな犯罪?

 

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 テレビや週刊誌で「名誉毀損」という言葉を見ますよね。

   名誉毀損は民事で言えば、民法上の不法行為になります。(民法709条・710条)

 ですが、刑法にも名誉毀損罪が規定されています(230条)。

 

   では、どのような場合に名誉毀損罪に当たるのでしょうか。

 

 そもそも名誉毀損罪って何?

 刑法は、罪を犯した者を処罰する法律です。そもそも、刑法は、社会的に見て何らかの利益を侵害する悪い行為を犯罪として規定しています。

    名誉毀損罪も当然例外ではありません。名誉毀損罪は社会的名誉という法益を侵害する行為に対して、処罰するために規定されています(通説的見解)。

 

 では、どのような場合に社会的名誉を侵害し、名誉毀損罪が成立するのでしょうか?

 

 まず、条文を見てみると、刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁固又は五十万円以下の罰金に処する」と規定しています。

 

 この条文もよく分るようで分からない条文ですよね。詳しく検討してみます。

 

  まず、「公然」とは、公衆の前が典型的に想定されています(伝播性については割愛します)。具体的には、不特定又は多数の人の前でというような意味になります。

 

  また、「事実を摘示」とは、「その事実の有無にかかわらず」という部分も合わせて考えると良いです。つまり、事実とは、ウソでも本当でも良いのですが、真実であると確定することが可能な内容の事柄というような意味です。小難しいことを言っているようですが、実はものすごく簡単です。

 

  例えば、「バカ」と言った場合、そもそも、相手が「バカ」であることを真実であると確定することはどう考えても無理ですよね。この場合、刑法231条の「事実を摘示しなくても」に当たり、侮辱罪が成立します。

 

 では、例えば、「会社の上司である○○部長が不倫をしている」などの張り紙を会社の前に張り付ける場合はどうでしょうか。この場合は、その○○部長が不倫をしたかどうかについては、真実であると確定することが可能な内容ですよね。ゆえに、この場合は、名誉毀損罪の「事実を摘示し」に当たるとことになります。ここで注意すべきなのは、この「不倫」をしているという事実は、ウソでもホントでも社会的名誉を毀損する内容の事実であることに変わりがありません。なので、本当に○○部長が不倫をしていて、正義感を出してこの張り紙を張っても当然名誉毀損罪に当たります。

 

 そして、「人の名誉を毀損した」とは、人の社会的名誉を侵害する事実を公の場で発言した場合や、掲示板に書き込みをした場合を言います。

 ここで注意すべきなのは、例えば、嫌いな人の悪口を書き込んだ場合で、その嫌いな人が見る前に消せば大丈夫かというとそれは大きな間違えです。

 

    名誉毀損罪は、現実に外部的名誉が毀損さたか否か判断することは困難であることから、抽象的危険犯であるとされています。

   そのため、名誉毀損罪は、上記の書き込みをした時点で成立します。ゆえに、後で消しても名誉毀損罪が成立することに変わりがありません。

 

 

 名誉毀損罪の注意点

 名誉棄損罪に当たるかどうか、なんとなく分かりました。

 

  また、酔っ払って人の悪口を掲示板に書き込み、次の日に冷静になって書き込みを消しても名誉毀損罪に当たることに変わりがありません。なので、軽はずみな発言や書き込みに注意しましょう。

 

 

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許せないひったくり!でも。。。そもそも何罪?

 

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  ひったくり事件のニュースを見かけることがあるのですが、そもそもひったくりって何罪になるのでしょうか?

   実は、ひったくりには二つの犯罪があります。

 

 そもそもひったくりとは

 ひったくりとは、他者が保持している財物をかすめとる社会事象を言います。

   例えば、おばちゃんが道路を歩いているときに、後ろからバイクで接近してハンドバッグをかすめとる場合などが、いわゆるひったくりと言われているものです。

 

 犯罪の種類

 ひったくりは大きく分けると、窃盗罪に該当する場合と強盗罪に該当する場合があります。

 

 まず条文を見てみます。

   窃盗罪については、刑法235条に規定されています。同条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定しています。

 

 他方、強盗罪は、刑法236条に規定しています。同条1項では、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する」と規定しています。

 

 二つ並べてみても何をいっているのかよく分らないですよね。

 

   簡単に説明します。窃盗罪と強盗罪は、他人が占有している財物を奪って自分の物にする。つまり、物取りの犯罪であることは共通しています。

 

   その上で、窃盗罪については、物をとる方法は、基本的には制限はありません。

   例えば、空き巣も窃盗罪ですし、万引きも窃盗罪になるように色々な物取りが窃盗罪になることをイメージすればわかると思います。

 

(なお、ウソ等を付いて財物を取る方法は詐欺罪に当たるので、ウソ等を付く方法は窃盗罪の行為からは除かれています。)

 

 では、強盗罪はどのような犯罪でしょうか。強盗罪の場合手段が条文にも書かれていますが、「暴行又は脅迫」と限定されています。つまり、強盗罪の場合「暴行又は脅迫」という手段を使って財物を奪取しないと成立しないことになります。

 

 その上で、さらに注意が必要なのは、強盗罪は罪が重いです。有期懲役の上限は原則20年とされています。そのため、上記強盗罪の「5年以上の有期懲役」とは、5年から20年の間とい意味になり、判決で決められた年数刑務所に入ることになります。具体的には5年間や10年間刑務所に入ることになります。(ちなみに執行猶予は3年以下の懲役の判決をするときにしか付けられないので、強盗罪の場合、原則、執行猶予がつけられません。つまり、ほぼ確実に刑務所に入ることになります。)

 

 一時の出来心で刑務所に確実に入るとか人生を棒に振ることになってしまいますよね。そのため、強盗罪の「暴行又は脅迫」とは、軽微なものは除かれています。というのも、ちょっと後ろから押して相手を転倒させて財物奪ったら「強盗だ!」とすると、窃盗罪の3割ぐらいは強盗になってしまいますよね。そして、少なくとも5年は確実に刑務所に入って下さいとすると、やったこととの責任のバランスが釣り合わないので、軽微な「暴行又は脅迫」は除かれています。この基準について専門的にいうと、相手方の反抗を抑圧する程度の「暴行又は脅迫」が強盗の手段として必要だということになります。

 

 

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 ひったくりの場合

 以上から、窃盗罪と強盗罪の違いは、手段として相手方の反抗を抑圧する程度の「暴行又は脅迫」が用いられたか否かで区別することがわかりました。では、ひったくりの場合は、窃盗罪?それとも強盗罪?どちらに当たるのでしょうか。

 

 これはかなり難しい問題なのですが、原則は、窃盗罪ということになます。先ほどの例で考えればわかると思いますが、おばちゃんが道路を歩いていて後ろからバイクで接近してハンドバッグを奪う場合、かすめ取ってそのまま逃げられることが多いと思います。この場合、おばちゃんは「泥棒!誰か捕まえて!」などと大声で叫ぶかもしれませんが、おばちゃんは反抗を抑圧されていないですよね。

 

 なので、相手方の反抗を抑圧する程度の「暴行又は脅迫」は行われておらず、強盗罪ではなく窃盗罪ということになります。

 

 では、おばちゃんが「何するのよ!私のバッグに触らないで!」などと言いながらバッグを離さず、そのまま引きずられた場合はどうでしょうか。この場合、おばちゃんがバッグをがっちり握っている状態ですよね。これは、言い換えると反抗をしている状態と言えます。この反抗状態を排除するために、バイクでおばちゃんを引きずっていることになるので、相手方の反抗を抑圧する程度の「暴行又は脅迫」をしていることになります。ゆえに、強盗罪が成立します。

 

 このようにひったくりは、原則窃盗罪になります。窃盗罪の懲役10年以下なので、もしかしたら懲役2年等の判決が出れば、執行猶予がつくかもしれません。しかし、被害者が反抗をしてそれを勢いで排除しようとすると、強盗罪になり少なくとも5年は刑務所に入ることになります。なので、ひったくりは自分の人生を狂わせるので絶対にやらない方がいい犯罪です。

 

 

 

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