5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

ボクサーの反撃!正当防衛の限界!やりすぎのラインは?

 

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 昔、ボクサーが侵害を受けてやり返したら、正当防衛は成立しないということを聞きました。確かに、ボクサーは一般の人よりも身体能力が長けているので、ボクサーが反撃することと一般人が反撃することを同列に扱ってはいけないと思います。ですが、例えば、相手が包丁などで切り付けてきた場合や、木刀を持って殴りかかってきたにもかかわらず、ボクサーだから、正当防衛は成立しないという結論になるのでしょうか。

 

 そこで、今回は、ボクサーはいかなる状況でも正当防衛が成立しないのか。正当防衛の限界ラインとともに検討したいと思います。

 

 正当防衛とは

 正当防衛は、自己又は他人に対して危害が加えられた場合に、それを排除する行為を行った場合に、例えその排除行為が、暴行罪(刑法208条)あるいは傷害罪(刑法204条)に該当するものであっても、犯罪の成立を否定する規定です。

 

 要するに、本来理由の有無を問わず、人を殴ったら暴行罪あるいは、傷害罪になるのが大原則です。それが防衛としてなされた場合には、一定の条件の下、人を殴る行為に犯罪が成立せず、適法となることがあります。これが正当防衛です。

 

 刑法36条1項に規定されています。

 刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定しています。

 これを三つの成立要件に分けると、「急迫不正の侵害」、「防衛をするため」「やむを得ずにした行為」に分けることができます。

 

 個別の要件については、「正当防衛ってそもそも何?」というブログを参照して頂ければ幸いです。

 

 今回は、「「やむを得ずにした行為」が問題になるので、この要件について検討します。

 

 

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 「やむを得ずにした行為」

 やむを得ずにした行為とは、防衛の方法として、質的量的に相当性を有することです。言い換えると、防衛行為が侵害を排除するために必要最小限度であることが必要とされています。

 

 どうして必要最小限度である必要があるのでしょうか。

 そもそも、私たちは、人を殴ったり、怪我をさせてはいけません。人を殴り怪我をさせれば、傷害罪(刑法204条)が成立し、刑罰を科させるのが原則です。

 

 それにもかかわらず、正当防衛が成立した場合は、たとえ人を殴ったとしても、違法性がなくなり、犯罪が成立しないことになります。つまり、正当防衛が成立すると、おとがめなく無罪放免です。極論を言うと、正当防衛が成立するかどうかで、人を殴ったときに、刑務所に入るか、無罪放免になるか決まることになります。

 

 そうだとすると、広く正当防衛の成立を認めてしまうと、本来犯罪になる殴打行為が適法ということになってしまい、皆無罪放免になってしまい、少し絡まれただけで、相手をボコボコニにして、最悪死亡させても、無罪放免万歳的な世の中になってしまいます。

 

 そんな世の中いやじゃないですか。少なくとも、裁判所はそのような世の中にすべきではないと考えています。

 そのため、裁判所は、正当防衛が成立する範囲を限定して、「やむを得ずにした行為」といえるためには、侵害を排除するために必要最小限度である必要があるとしています。

 

 必要最小限度って何?

 では、必要最小限度とはなんでしょうか?ここでは二つの重要な考え方があります。

 

 一つ目は、武器対等の原則です。武器対等の原則とは、侵害を受けた場合に、防衛行為は、侵害と同程度の排除手段である必要があるとの考え方です。例えば、素手で殴りかかってきた侵害者に対して、マシンガンで応戦するような場合には、正に素手対マシンガンで、武器が対等であるとは言えません。そのため、このような場合には、必要最小限度とはいえず、「やむを得ずにした行為」に当たりません。

 

 もっとも、この武器対等の原則の「武器」とはあくまでも比喩的に使っているものに過ぎません。

 

 身長・体重・年齢、そして、防衛に用いた道具の性質、用法等が総合的に考慮されることになります。そのため、素手の相手に対してナイフを用いたとしても、直ちに武器対等ではないと判断されるわけではありません。

 

 例えば、判年齢が若く体格に優れている侵害者が、老人に対して、ファイティングポーズをとって迫ってきた場合に、老人が包丁で「切られたいのか!」といって脅迫をして応戦することは、必要最小限度と言え、「やむを得ずにした行為」に当たるとした判例もあります(最判平成元年11月13日刑集43・10・823)。

 

 また、二つ目に重要なのは、より強度ではない手段がある場合には、そちらを選ぶべきだとする考え方です。例えば、チンピラに絡まれた際に、自動車に乗って逃走したところ、チンピラがボンネットに乗って、脅してきたケースで、自動車に乗った地点から500メートル先に交番があるにもかかわらず、交番の前で停車せずに、そのまま猛スピードで自動車を走行させて、急停止するなどしてチンピラを振り落す場合があります。

 

 この場合、交番の前で停車すれば警官が駆け付け侵害を排除することができたと言えます。それにもかかわらず、より強度な手段である猛スピードでの走行及び急停止を選択しています。そのため、このようなケースでは、より強度ではない手段を用いるべきであったとして、必要最小限度とはいえず、「やむを得ずにした行為」に当たらないことになります。

 

(なお、上の例は、見方を変えれば、質的過剰か量的過剰かという視点でも検討ができますが、個人的には、質的過剰あるいは量的過剰と認定する過程で、武器対等の原則、より強度でない手段の有無という考え方を使うのが良いと思います。)

 

 

 ボクサーがやり返す場合?

 では、防衛行為者がボクサーの場合はどうでしょうか。実は、ボクサーであることから直ちに、正当防衛の成立が否定されることにはなりません。

 

ボクサーであることは、先ほどの武器対等の原則、より強度でない他の手段の有無の中で考慮される事情になると思います。

 

 例えば、ボクサーは、プロライセンスを持っていれば特にそうですが、身体能力が一般人と比べてずば抜けています。そのため、一般人が素手で侵害行為をしてきた場合には、最初から有利な状態にあると言えます。ですが、一般人が素手で殴ってきた時に、配慮して、ボディーや顔面などを手加減して殴るなどの防衛行為をすれば、必要最小限度といえると思います。

 

 しかし、勢いに任せて、ワンツーを数十回にわたってやることや、ガゼルパンチやデンプシロール等の技を繰り出すのは、そもそも、侵害を排除するために必要な行為とは言えないと思います。

 

 そのため、このような場合には、必要最小限度とは言えず、「やむを得ずにした行為」には当たりません。

 

 また、これは相手が包丁や木刀を持っていた場合も同様で、プロボクサーであることが重要ではなく、プロボクサーとしてどのような防衛手段をとったかということが重要になります。

 

 要するに、ゲームセンターのパンチングマシンをこの前久々にやりまた。結果は、私の場合、「100」だったのですが、素人の私のパンチ力が100だとします。ボクサーが本気で殴ったら300とか500とか1000出るかもしれません。

 

 そうだとすると、ボクサーであっても、素人の私と同じパンチ力の「100」でやり返す分には、手数が多いとか急所を狙い撃ちまっくた等の事情がないかぎり、一般人の防衛行為と同じレベルですよね。そのため、必要最小限度と言え、「やむを得ずにした行為」と言えます。

 

 正当防衛が成立しない場合

 仮に正当防衛が認められない場合には、傷害罪(刑法204条)等の犯罪自体は成立します。しかし、刑法36条2項の過剰防衛になり、任意的に刑が減軽され、免除されます。

 

 総括

 このように正当防衛が認められるかどうかの基準は、「やむを得ずにした行為」すなわち、防衛行為が必要最小限度といえるかどうかにかかっています。そのため、殴られたとしても過剰な殴り返しや、必要ではない道具の使用は極力控えることが大切です。

 

 また、ボクサーであれば、自分自身の拳の威力は理解していると思うので、裁判になっても勝てる程度のやり返しを強く意識することが大切です。

 

 例えば、「私は、プロボクサーです。自分の拳の威力は良く理解しています。したがって、侵害者の急所は極力はずし、威力が出ないように腰を深く入れたり落としたりする形では打っていません。だから、○○という形でしか、反撃をしていません」というようなことを取り調べや裁判でも主張しても、警察・検察・裁判官が「なるほど!じゃあ仕方のない範囲だね」と認めさせる行動をとることが大切です。

 間違っても「力任せに殴りました」的なことにはならないように注意することが大事です。

 

 

 

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正当防衛ってそもそも何?積極的加害意思と攻撃意思

 

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 少し前になりますが、ヤンキーが主人公の映画を見ていました。主人公のヤンキーがめちゃくちゃ強くて、仲間想いでとても素敵でした。青春っていいですね。自分の青春時代を思い返すと、帰宅部で家に直帰して、とりあえず寝て、夕方起きてご飯食べて、深夜テレビを見ながらゲームやって、そして寝て・・・・・・・・

 

 はい。

 

 その映画の中で、主人公の仲間が敵対するグループにやられてしまい主人公が敵対するグループのアジトに乗り込んでいくシーンがありました。圧巻のシーンに思わず見入ってしまいました。敵地についた主人公は、仲間のことを想い「正当防衛じゃ!」と言って、殴りかかっていきます。とてもいいシーンですね!

 

これ間違えです。

 

 「空気よめねぇぇ!」と思いますよね。ごめんなさい。

ですが映画の演出だと正解ですが、法律的にみると間違えです。そこで、今回は、なぜ間違えなのか。正当防衛がどのような場合に成立するのか検討してみたいと思います。

 

 そもそも正当防衛ってなんですか

 正当防衛は、刑法36条1項に規定されています。早速、条文を見てみましょう。

刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定しています。

 

 これも難しい言い回しを使っていますね。正当防衛としてイメージするのは、例えば、町を歩いていて、チンピラに絡まれて、殴られそうになったときに、やり返した場合というような感じではないでしょうか。

 

そのイメージが典型的な正当防衛のケースです。

 

 ですが、正当防衛が成立するかどうか微妙なケースも多いです。例えば、自分が殴られている時に頭にきて相手の顔面を殴り、相手が失神をしたのを認識した後に「コノヤロー!」と殴り続けた場合はどうでしょうか。また、先ほどの映画のように仲間がやられて頭にきて、やり返しに行った場合はどうでしょうか。この場合、成立するのではないかと考える人も多いと思います。ですが、正当防衛は成立しません。

  

 条文から正当防衛の要件をあえて抽出すると、「急迫不正の侵害」、「防衛するため」。「やむを得ずにした行為」と三つに分けられると思います(「急迫」と「不正の侵害」を分けてもいいですが、今回は三つで検討します)。

そこで、これら三つについての要件を使って、先ほどの例①②になぜ正当防衛が成立しないのか検討したいと思います。

 

 「急迫不正の侵害」

 そもそも、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現に存在するか、間近に迫っている場合を言います。ここでの違法とは、相手に殴られる場合や脅迫されるなどの犯罪行為のみならず、民事法等に違反する場合も含みます。これを難しく言うと、全法秩序に違反する状態となります。

 

 また、侵害は、現在化していなくても間近に迫っていれば良いです。例えば、チンピラに絡まれて殴られた時ではなく、胸倉をつかまれた時点で、すでに、侵害が間近に迫っています。

そのため、胸倉をつかまれれば、「急迫不正の侵害」があるということになります。

 

 

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 「防衛をするため」

 次に、「防衛をするため」とは、防衛行為であることを言います。つまり、殴りかかってきた侵害者に対にして、自分が殴り返す場合には、至極当然のように防衛行為のように見えますよね。学説上は、この客観的な行為態様のみで防衛行為だとするものもあります。

 

 ですが、殴ってきた人に対して、「こいつの息の根を止めてやろう」とか「いたぶりながら息の根を止めてやろう」とか思っていたらどう思いますか。怖いですよね。ただ怖いだけでなく、このようなことを考えている人の行為を防衛行為と言ってよいのでしょうか。

 

 そこで、判例や学説では、やり返す時に防衛の意思というものが必要だとしています。ですが、ここでの防衛の意思とは、「うちの命が危ない。何とか命だけでも守らんと(ガクガクブルブル)」的な積極的に身を守ることまで考えている必要はありません。

 

 ここでの防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識し、それを避けようとする単純な心理状態であればよいとされています。つまり、「この野郎。うちを殴ってくるな。えい!殴ってやる」的な侵害を排除して避けようと思っていれば、OKということになります。

 

 「やむを得ずにした行為」

 そして、ここが一番重要ですが、「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為が相当な限度であること、言い換えると、侵害を排除するために必要最小限であることを指すと言われています(最判昭和44年12月4日刑集23・12・1573参照)。

 ここでの「やむを得ずにした行為」は、防衛行為自体を基準に判断するのが原則です。そのため、例えば、酔っ払いが駅のホームで激カワなお姉ちゃんに絡んで、お姉ちゃんが、「やめてよ!」と払いのけて、酔っ払いが転倒して、打ちどころが悪く亡くなっても、激カワなお姉ちゃんの行為は、単に行為を見れば払いのけただけなので、相当性を有し、「やむを得ずにした行為」と言えます。

 

  先ほどの例の場合

 では、先程の例について検討してみましょう。

 まず、①の例は、殴られそうになり、殴り返したところ侵害者が失神したにも関わらず、その後殴り続けたというケースですよね。

 

 このケースでは、正当防衛は成立しません。先ほど検討した通り、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現在化しているか間近に迫っている場合です。確かに、侵害者が殴りかかってきた時点では、違法な侵害が現在化しており、「急迫不正の侵害」が認められます。ですが、侵害者が失神をした時点で、少なくとも侵害者が意識を取り戻すのに数分から数十分は、かかりますよね。そのため、この時点で、侵害が終了しており、「急迫不正の侵害」が認められません。

 

 そのため、侵害者失神した後の自分の殴打行為は単なる暴行です。

(なお、誤想防衛により、故意阻却あるいは責任阻却がありえますが、今回は検討しません。)

 

 次に、②の例、すなわち、映画のシーンで敵地に乗り込んで、「正当防衛だ!」と叫ぶシーンです。これも正当防衛は成立しません。

 

 確かに、正当防衛の場合、自分だけでなく他人に危害が加えられている、あるいは加えられようとしている際でも、「急迫不正の侵害」と認められます。ですが、映画のシーンでは、敵の主人公の仲間への暴行はすでに終了していました。また、主人公は、未だ戦闘状態に入っておらず、かつ、対面して話合っている状態に過ぎませんでした。そのため、「急迫不正の侵害」は認められません。

 

 以上より、例①②につき、正当防衛は成立しないことになります。

 

 総括

 このように正当防衛が認められる範囲は、少し一般感覚とずれるところがあります。というのも、正当防衛は、本来警察が助けに入るべき事柄を自分で解決してしまう的な側面があります。そのため、本来違法な殴打行為などを例外的に、違法性を有しないとして、犯罪を成立させない規定です。

 

 したがって、本当に殴った人に犯罪を成立させなくてよいのかという視点から、慎重に成否が検討されます。これはある意味仕方がないことです。なので、気に食わない人がいても、原則、絶対に相手を殴ってはいけません。

 

 マニアックな話

 ここからはかなりマニアックなので、読み飛ばして頂けると幸いです。

 

 積極的加害意思を有する場合には、「急迫不正の侵害」該当性が否定され、攻撃意思を有する場合には、防衛の意思が否定されると、法律を勉強されている人ならご存知だと思います。

 

 ですが、積極的加害意思がある場合と攻撃意思がある場合とは、具体的にどのように

分けたらよいのでしょうか。

 

 ここは私の個人的な意見もありますが、そもそも、判例上、積極的加害意思が問題となったケースは、侵害を予期して迎撃態勢をとっていた場合ですよね。つまり、侵害を予期してその機会を利用して相手に危害を加えようとしていた場合です。そのため、積極的加害意思の判断の有無は、「急迫不正の侵害」が認定された時点あるいは、それ以前に問題となる話です。

 

 他方、攻撃意思の場合には、侵害を受けて激高し、相手をただただ痛めつけようとしている場合ですよね。この攻撃意思が生じる段階は、「急迫不正の侵害」が開始してから終了するまでです。

 

 よって、積極的加害意思と攻撃意思では、認定される時点が違うと分析するのが良いと思います。

     急侵     終了

――――――↓――――――↓

積極的加害意思   攻撃意思

 

 

 

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自分の物を取り返したら窃盗罪になりますか?

 

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 日本で一番多い犯罪とはなんでしょうか。殺人罪でしょうか。確かに、一週間に一度は殺人があった報道がされているような感じを受けますが、殺人罪ではありません。では、傷害罪でしょうか。これも違います。

 

 実は年間で一番多い犯罪は、窃盗罪です。理由としては、窃盗罪は、守備範囲が広く、例えば、スリや万引きも窃盗罪に当たります。このようなスリや万引きは犯情にもよりますが、微罪処分という形で、一か月に一回まとめて警察から検察の方に送られて、不起訴となることも多いです。そのため、裁判までいくエリートはそこまで多くはありません。ですが、何度も万引きを繰り返していると、当然エリートになり、起訴されて実刑を下されることもありますので、軽い気持ちで万引きをするのはやめましょう。

 

 さて、これはあくまでも警察や検察の処置についてですが、自分で取り返す場合はどうでしょうか。例えば、借りパクした友人の家にあるゲームを遊びに行った時にこっそりもって帰ってしまう場合には、窃盗罪は成立するのでしょうか。この場合、実は、窃盗罪になる可能性があります。今回は、取り返しの場合の窃盗罪の成否について検討してみたいと思います。

 

 そもそも窃盗罪とは?

 そもそも、窃盗罪はとは、刑法235条に規定されている犯罪です。例のごとく条文から確認します。

 刑法235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪として、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と規定しています。

 

 この条文一見簡単そうですよね。そのまま読むと、他人の物を勝手に取ってしまったら、窃盗罪という犯罪になって、最長10年間刑務所に入るか、50万円の罰金を払うか、または両方かという形で、処罰されますよということですよね。

ちなみに、余談ですが、「又は」という意味は、AorBという意味で通常使いますが、刑法の場合、AorBあるいは、AかつBという形で、懲役も罰金も科されることがあります。これを併科と言います。

 

 さて、本題に戻りますが、窃盗罪が成立する要件は一見簡単そうです。しかし、そもそも、「他人の財物」とは何ですか。実はこれ学説上大きな争いがあります。

 

 「他人の財物」とは

 まず、「他人の財物」について検討しますが、「他人の財物」という言葉を素直に読むと、他人が所有しているものということになると思います。ですが、所有者以外にも例えば、所有者が他人に物を貸しているときや質屋に入れているときがありますよね。このような権利が設定されている場合に、窃盗団が質屋等に押し入り財物を窃取した場合に、被害者は所有者だけでしょうか。質屋も困りますよね。言い換えると質屋は質権を侵害されたことになります。借りている人であれば、賃借権を侵害されたことになります。

 

 このように権利設定がされている場合には、所有者を始めてとする様々な権利者が権利侵害を受けたことになります。この所有権を始めとするこれらの占有を正当化するための権利を本権といい、この本権を保護するために作られた規定が窃盗罪であるという考え方があります。これが本権説です。その結果、本権説に立てば、「他人の財物」とは、他人が本権を有する財物ということになります。

 

 他方、このような本権説とは異なる考え方もあります。

現代社会においては、権利者が明確でないあるいは、権利の有無が不明な場合があります。例えば、レンタルビデオ屋さんでDVDを借りたとします。この場合賃貸借契約をしていることになり、借りた人には賃借権があります。ところが、うっかり返却期間を過ぎてしまうことがあります。この場合、レンタルビデオ屋さんに延滞料を支払と思いますが、この時、賃貸借契約が存続しているのか、言い換えると賃借権があるのかどうなのか、不明ですよね。個別の契約内容にもよりますが、一見して判断することは困難です。

 

 ですが、このような状況下で例えば、友達が家に遊びに来て、見たかったDVDだと思い勝手にもって行ってしまった場合はどうでしょうか。仮に賃借権がなかった場合には、本権がなく自分自身が被害者ではないことになってしまいますが、これは一般的な感覚からズレているような気がします。

 そこで、本権の存在の有無にかかわらず、窃盗罪は、占有自体を保護することを目的としているのだと解釈する考え方があります。これが占有説と言われているものです。その結果、占有説に立てば、「他人の財物」とは、他人が占有する財物ということになります。

 

 「どちらでも同じではないか?」と思われるかもしれませんが、実は、この考え方で結論が異なることがあります。それが、冒頭に挙げた取り返しの問題です。

 

 

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 取り返したら窃盗犯ですか?

 では、借りパクされた物を取り返すケースを検討してみましょう。借りパクされた物と言っても二つの場合が考えられると思います。一つ目は、典型で1年経っても返してくれないというケースです。この場合、借りた人の借用権はすでに消滅していることが多いです。

 

この場合、本権説では借用権という本権が借りた人にないため、取り返しても窃盗罪は成立しません。

 

しかし、占有説では、借りた人が占有していることに変わりがないので、自力救済という超法規的事由がない限り、窃盗罪は成立することになります。

 

 他方、貸したけど、自分で直ぐに使いたくなり、貸した次の日に友人の家に遊びに行きこっそりもって帰ってきたケースではどうでしょうか。

 この場合、友人は借用権を有しているため、本権説に立っても取り返しは、窃盗罪に当たります。さらに、占有説に立っても、当然窃盗罪が成立することになります。

 

 つまり、以下のようになります。

期間超過> 

       本権説   占有説

  不成立     成立

 

期間内> 

  本権説   占有説

  成立     成立

 

 

まとめ

 このように取り返しの場合には、窃盗罪が成立する可能性があることがわかりました。ですが、これはあくまでも勝手に取り返した場合です。当然借りパクしている人は返還義務を負っているので、そのまま返さないことが違法です。

 また、取り返して窃盗罪が成立するとしても、犯情が極めて軽いためほとんどの場合、警察に呼ばれても厳重注意をされて、検察に送検後も不起訴になる可能性が極めて高いです。

 

 と!ここまでうんぬん・かんぬん検討してきましたが、結論は、借りた物はしっかり返すということが一番大切です。

 

 

 

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信頼関係の破壊が必要?賃料不払いでの明渡しの可否

 

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 東京で暮らしていると、マンションを借りることが多いです。ですが、うっかり口座にお金を入れ忘れていて、次の月に不動産管理会社から明け渡すように請求がくるということもあるかもしれません。しかし、そのような場合に、本当に明け渡さなくてはいけないのでしょうか。今回は、賃料の支払いを怠った場合に、賃貸借契約が解除され、マンションを明け渡さなくてはいけないのか否か検討したいと思います。

 

 賃貸借契約とは

 そもそも、賃貸借契約は、民法601条に規定されています。民法601条では、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定しています。

 

 この条文も分かるようで分かりにくい条文ですね。ここで、一般的なイメージだと、物の貸し借りを目的とする契約は、すべて賃貸借契約になるとも思いますが、それは違います。

 

 物の貸し借りについては、民法上、使用貸借契約(民法593条)と賃貸借契約(民法601条)があります。そして、この二つの違いは、「賃料を支払うことを約す」という点にあります。

 

 すなわち、物を貸す対価として金銭等を借主が支払う場合が、賃貸借契約であり、そうではない契約が使用貸借契約となります。ここで「物を貸す対価」と言いましたが、対価とは、その物の価値に見合った金銭等を支払うことです。例えば、相場月額100万円のマンションを1万円で借りる場合には、原則、対価とは認められません。そのため、この場合には、使用貸借契約となります。

 

 つまり、賃貸借契約とは、物の貸し借りを目的とする契約で、かつ、借りることの対価として金銭等を支払うことを内容とする契約ということになります。

 

 賃貸借契約の特徴

 賃貸借契約は、対価を支払い、使用貸借契約は、対価を支払わない契約ということになります。このような対価の支払いがある契約のことを有償性を有する契約といい、対価の支払いがない契約を無償性を有する契約と言います。

 

 このような有償性・無償性という言葉自体はあまり重要ではありません。重要なことは、その内容です。すなわち、有償性を有する契約である賃貸借契約の場合には、賃貸人だけでなく、賃借人も強い権利を有することになります。具体的に言うと、マンションを借りている際などに、換気扇が老朽化して壊れた場合などには、その換気扇の修繕に必要な費用を賃貸人が負担するのが原則です(民法606条参照)。

 

 他方、無償性を有する契約である使用貸借契約の場合、貸主の方が権利保護が強化されています。というのも使用貸借では、貸主に経済的なメリットが全くないのが前提であるため、借主に強い保護を与える必要がないと考えられています。借主が、仮に保護が強い契約をしたい場合には、賃貸借契約を結ぶべきという考え方が根本にあります。

 

 その結果、具体的に言うと、先ほどの換気扇修繕のための必要費は、原則、借主が負担することになります(民法595条参照)。

 

 

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 賃料の支払いを怠った場合

 では、賃借人の権利保護が強化されているとして、実際に賃料の支払いを怠った場合には、どうなるのでしょうか。

 

 まず、賃貸借契約では、賃貸人(貸す人)は、賃借物を引き渡して使用収益をさせる債務を負います。他方、その代わりに、賃借人(借りる人)は、賃貸人に賃料を支払う債務を負います。

 これが基本的な債務の内容です。

 

 そうだとすると、賃料の支払いを怠った場合には、債務を履行していない、つまり、債務不履行になります。この場合、賃貸人から明け渡し請求をされた場合には、明け渡さなくていけないのでしょうか。

 

 実は、直ちには明渡す必要がありません。

 

 詳細に検討すると、賃料を支払わない場合、債務不履行になります。そのため、賃貸人が賃借人に対して「賃料払ってね」という催告をしたいにもかかわらず、賃借人が支払わず、支払に通常必要な期間が経過すれば、賃貸人は、解除をして契約を終了させて、明け渡しを請求できるのが、原則です(民法541条)。

 

 ですが、賃貸借契約の場合には、信頼関係破壊の原則というものがあります。この原則があるため、賃料を支払わなくても、直ちに明け渡さなくてはいけないということにはなりません。

 

 そもそも、賃貸借契約は、継続的な関係性を前提としてなされる契約です。つまり、売買契約とは異なり、賃貸人と賃借人は、長期間にわたって契約関係に拘束されます。そのため、契約当事者の間で信頼関係が形成されます。そして、契約の途中で、賃料不払いの債務不履行があったとしても、その債務不履行が信頼関係を破壊するものでなければ、契約の解除は認められず、賃貸人は賃借人に明け渡し請求をすることができないということになります。

 

 このような信頼関係破壊の原則がある以上、例えば、今月の賃料の支払いを怠ったとしても、直ちに、契約は解除できず存続するため、明け渡し請求をすることはできないということになります。

 

 まとめ

 直ちに、明け渡さなくてはいけないということにはなりません。しかし、賃料不払いが、半年、1年続けば、信頼関係は当然破壊されることになります。そのため、今月賃料を支払わなかった場合には、来月はしっかり支払う方ことが大切です。

 

 ちなみに、敷金を交付しているので、敷金から賃料を補てんしてほしいと考える人がいますが、補てんするかどうかは賃貸人の自由なので、賃借人から、補てんを請求することはできませんので、注意が必要です。

 

 

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所有権概論 物権的妨害排除請求権。物権的返還請求権など

 

 

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 日常生活していると、「それ私の物なのに勝手に使われている!」というようなことってありますよね。例えば、友人が家に遊びに来てゲームや雑誌を貸して欲しいと言ったので、貸したところ、そのままになってしまったという経験を持っている方は多いと思います。その友人に貸した物は自分の所有物です。それなのに借りパクされてそのままになってしまうと、とてもイライラしますよね。そこで、今回は、そもそも、所有権とはどのような権利か、また、どのような法的根拠に基づいて友人に貸した物を返せと要求できるのか検討してみたいと思います。

 

 そもそも所有権とは

 そもそも、所有権とは、何でしょうか。まずは、条文を見てみましょう。民法206条第1項は、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定しています。

 この条文も分かるようで分からない条文ですよね。でずが、具体的にイメージすると分りやすいです。

 

 例えば、近所の家電製品を売っているお店に行きます。最近、私はメタボが気になるので、ウォーキングマシーンを10万円で購入しました。ところが、3日経過して効果が表れないので、とりあえず、放置をしていました。その1か月後、友人がこのウォーキングマシーンを貸して欲しいと言ったので、月3000円の賃料を払うとの約束で、友人に貸しました。 

 

 すると、友人は、1か月で10キロ体重が落ち大変気に入ったので、売って欲しいと言いました。自分はメタボなままなのに友人だけ痩せて、私は少しイラッとしましたが、友人が7万円でというので、気分が良くなり、7万円で友人に売りました。

 

 これが所有権です!

 

 「どこがだよ!」と突っ込まれると思うので、順を追って分析してみましょう。

まず、ウォーキングマシーンを買った時点で、このマシーンの所有権を私は取得します。つまり、私が、ウォーキングマシーンの所有者です。そして、これを三日間使いましたが、このウォーキングマシーンを使う権利は所有者である私がもっています。これが、民法206条第1項の「使用」をする権利です。

 

 そして、その後、私は、友人に月3000円で、このウォーキングマシーンを貸しています。つまり、所有物を貸すことで利益を受けていることになります。この利益を受ける権利は、民法206条第1項の「収益」をする権利に当たりました。

 

 また、「処分」という単語を見ると、一般的に考えると、破棄することや壊すことをイメージすると思いますが、実は法律的な意味としては、このような破棄以外にも、譲渡することや抵当権等の権利設定をすることも含んでいます。

 

 そのため、私は、友人に7万円でウォーキングマシーンを譲渡(売却)していますが、これは、「処分」に当たり、民法206条第1項の「処分」する権利に基づくものです。

 

 さらに、このような使用収益処分は、所有者である私にしか原則できない行為です。そのため、所有権とは、直接物を支配し、排他的に使用収益処分する権利ということになります。

 

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 第三者が使っている場合等はどうするの?

 では、所有権の内容が、物を直接支配して、排他的に使用、収益処分することができるものだと分かった上で、第三者が使用等をしている場合には、どうすれば良いでしょうか。この問題は、三つに分けて考察するのが有益です。

 

 物権的妨害予防請求権

 まず、自分が土地を所有し、その上に家を建てて住んでいたとします。マイホームを建てて数年したところ、自分の家と隣の家を区切る壁が崩れそうになっていたとします。そして、その壁は隣の家の人の物ですが、自分の家の方に崩れそうなのに隣の家の人は放置をしていたとします。

この場合、困りますよね。特に小さい子供等がいると危なくて外で遊ばせることもためらってしまいます。

 このようなケースを分析すると、自分の所有している土地・家が危険にさらされていますよね。言い換えると、壁が崩れた場合、土地又は家が侵害される危険性が生じています。

 

 このような場合に、隣の家の人に壁を補修する等の危険を除去する措置を要求することができます。この要求の根拠を所有権に基づく物権的妨害予防請求権と言います。

 

 物権的妨害排除請求権

 では、上記の例をベースにして、今度は壁が崩れて自分の土地になだれ込んでしまった場合には、どうするべきでしょうか。この場合、崩れた壁を撤去するように隣人に要求することができます。この要求の根拠を所有権に基づく物権的妨害排除請求権と言います。

 

 物権的返還請求権

 では、最後に、第三者が物を使用している場合には、どうすればよいでしょうか。

この場合、自分が所有している物を使用することができなくなってしまいます。そして、自分の手元から離れて第三者の下にあるので、使用をする前提として、それを自分の下に戻す、つまり、占有状態を回復する必要があります。

 

 と!難しく言っているのですが、要するに、「返して!」と要求することができるかどうかの問題になります。この場合は、二つに分ける必要があります。

 

 一つ目は、自分が第三者に貸している場合です。この場合は、貸しているため、賃貸借契約や使用貸借契約を結んでいることになります。要するに第三者は、自分が所有しているものを占有使用する権利を有していることとなります。そのため、返せという請求はできないこととなります。

 

 逆に、二つ目は、勝手に第三者が使用している場合です。この場合不法占有・不法使用となるため、「返せ」と要求することは可能です。この要求の根拠を所有権に基づく物権的返還請求権と言います。

 

 以上のように所有権には、3パターンに分けて第三者に対して要求することができる性質があります。

 

 借りパクしている人には?

 ここまで読んで頂くと、借りパクしている人であっても、貸している以上、「返せ」と要求できないように思いますよね。

 実は、そうではないんです。余裕で返せと請求できます。

 

 先ほど、私は、賃貸借契約や使用貸借契約を結んでいる場合、人に返せと要求できないと言いました。しかし、これが終了している、あるいは契約に基づいて返す義務がある場合には、当然返還請求をすることは可能です。

 まず、賃貸借契約と使用貸借契約では、全く内容が異なります。

 

 つまり、賃貸借契約は、物を貸した時にその対価としてお金等を支払って貰っている場合の契約ですが、通常友人にゲームや雑誌を貸す時にお金を払って貰うということはあまりないと思います。

 

 そのため、この借りパクの多くのケースは、使用貸借契約を前提に貸していることになります。そして、借りパクの多くの場合では、使用貸借契約に基づき返還しなければならない時期を過ぎています。条文をみてみましょう。

 

 民法575条第1項では、「借主は、契約に定めた時期に、借用物を返還しなければならない。」と規定しています。つまり、ゲームを貸した時に、「1週間したら返す」的な約束をお互いでしている時は、1週間経過した時点で借りた人は、返さなくてはいけない義務があります。

 

 そして、約束をしていない場合には、民法575条第2項で「借主は、契約に定められた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還しなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる」と規定されています。

 

 つまり、期間を定めていない場合でも、ゲームを貸した場合には、クリアした時点で、あるいは、クリアしなくても通常クリアに必要な期間を経過した時点でゲームを返す義務が生じることになります。

 

 すなわち、返す日を決めていた場合、あるいは、必要な期間を経過した時点で、借りた人は返す義務を負うことになります。

 

 この場合、「返して」と要求すること可能です。そして、厳密には二つの要求方法があります。一つは、先ほどの所有権に基づく物権的返還請求としての「返して」要求です。そして、二つ目は、使用貸借契約に基づく返還請求としての「返して」要求です。

 

 どちらもせよ、「返して」と言えることに変わりはありません。

(なお、当然要件事実は変わります。)

 

 総括

 このように借りパクされている場合には、多くのケースで返す約束の日を過ぎているか、または、通常返さなくていけない期間を経過しているので、もし自分が借りパクされている場合には、元気な声で「返して」と要求するのが得策です。

 

 

プラスアルファー

 ここからは特につまらないので、読み飛ばして頂けるとありがたいです。

 法律を勉強する上で、物権的返還請求権と物権的妨害排除請求権の違いはかなり重要ですが、今一わからないとういう時がありますよね。結構単純で、占有自体が全面的に侵奪されている場合には、返還請求権です。それ以外の侵害現在化の場面は、妨害排除請求権です(登記の抹消などや、一部占有侵奪の場合には、妨害排除請求となります。)

 

 また、ここは凄く間違えやすいのですが、抵当物件に第三者が不法占拠している場合に、抵当権者が自己への明け渡しを請求するときに、抵当権に基づく物権的返還請求権とするのは間違えです。というのも抵当権は、非占有担保物権なので、占有権限を有しない担保物権です。それなのに、占有権があることを前提にする返還請求をすることができるとするのは矛盾していることになります。

 この場合は、抵当権に基づく物権的妨害排除請求権になります。今一度判例をご確認して頂ければ幸いです。

 要するに、根拠となる権利の性質と侵害状態の分析で、物権的請求権を決めるというイメージが良いと思います。

 

 

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不動産の二重譲渡。所有権の移転と民法上の規制

 

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 最近、不動産が高騰しているらしいです。オリンピックの影響でしょうか。自分の持っている土地の値段が跳ねたら嬉しいですよね。「しもしもで、アッシー呼んで。座銀でシースーの後はマハラジャでオールナイト」みたいな感じですかね。

 まぁ色々無理がありますが。

 

 さて本題に入ります。今回は土地の高騰を予測して、土地を買おうと思っている方もいらっしゃると思います。そこで、なぜ不動産を買ったらすぐに登記をしなくてはいけないのか。不動産の二重譲渡の観点から今一度検討してみたいと思います。

 

 契約とは何?

 まず、二重譲渡の前に、そもそも、大前提の契約とはなんでしょうか。そこから検討しましょう。

 

 契約とは、意思の合致を言います。そして、意思の合致とは、申込みと承諾が一致したことをいうのですが、正直あまりピンときませんよね。

 

 具体的に検討します。まず、不動産屋に行きます。何かおすすめの物件はありますかと尋ねます。すると、不動産屋さんが、「最近だと、豊洲あたりがいいですね。将来的に地価も高騰しますし、後は、浦安から八丁堀あたりまでの沿線は、将来開拓が見込めますので、おすすめのエリアです」的な説明があるかもしれませんが、その中で「この浦安の○○の土地を5000万円で売ってくれ」と言います。これが申込みです。そして、不動産屋さんが「いいですよ。」と言います。これが承諾です。

 

 つまり、不動産屋さんが「いいですよ」と言った時点で、申込みと承諾が一致したことになり、意思の合致が認められ、契約が成立することになります。

 

 所有権はいつ移転するの?

 では、このように契約が成立したとして、所有権はいつ移転するのでしょうか。土地の測量に行った時でしょうか?それとも登記をしたときでしょうか?それとも気が変わってマイホームを建ててマイハニーと一緒に新婚生活を始めたときでしょか?

実はどれも違います(通説を前提)。

 

 民法176条を見てみましょう。同条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています。

 

 今問題となっているのは、土地の所有権の移転時期ですよね。つまり、「物権の・・移転」が問題になっています。そして、物件の移転は、「当事者の意思表示のみによって、その効力を生じる」と書いてあることから、意思の合致があった時点で、所有権移転の効力が生じることになります。

 つまり、契約が成立した時点で、「浦安の○○の土地」は不動屋さんからあなたに所有権が移転することになります。

 これを専門用語で意思主義といいます。少し余談ですが、他の国では登記等の外部的行為が行われるまで、所有権は移転しないと考えられているところもあります(形式主義)。ですが、日本では意思主義を採用しているため、契約の成立と同時に所有権は買主に移転します。

 

 

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 不動産の二重譲渡とは?

 では、契約と同時に所有権は移転します。ですが、世の中では、不動産を買ったらとりあえず、「司法書士に依頼して登記を直ぐにしようぜ!」的な空気がありますよね。なぜですか。理由はいくつかありますが、法律的に言えば、一番は確定的に所有権を取得したいからです。

 

 具体的に検討してみましょう。先ほどの例で、不動産屋さんとあなたの間で、「浦安の○○の土地」の売買契約は成立します。そして、後日不動産屋さんに5000万円支払って、代わりにその土地の引き渡しを受けました。しかし、登記料が高いため、後日気が向いたら登記をしようと思い放置しました。

他方、あなたに「浦安の○○の土地」を引き渡した後、別のAさんという客が不動産屋さんに来たとします。Aさんはあなたが買ってすでに引き渡しを受けている「浦安の○○の土地を1億円で売ってくれ」と不動産屋さんに言いました。不動産屋さんからすれば、2倍も違う額の申込みを受けたら、「もちろん。いいですよ」とか言っちゃいますよね。

「何が『もちろん。いいですよ!』だよ」と、あなたからしたら非常にイラッと来ると思います。

 

 私だったら怒ります。彼女に浮気されたレベルでむかつきます。二人にいい顔するのはよくないですよね。本命を決めたら一人に絞るべきだと思います。二人にいい顔をするのは二人とも傷つけることになるので絶対によくないことです。

 

と!「何の話をしているんだ?」と突っ込まれるかもしれませんね。ごめんなさい。

 

 ですが、1億円提示のAさんに不動産屋さんが「もちろん。いいですよ」と言った場合に、契約は成立するのでしょうか。というのも、すでにあなたに「浦安の○○の土地」は売っているので、そもそも、売れないのではないでしょうか。

 

 実は、これ売れるんですね。色々な説明の方法はありますが、先ほど私は契約の成立により所有権は移転すると言いましたが、これは確定的に移転しているわけではありません。その反面として、未確定ながらも売主の不動産屋さんに所有権が残存していることになり、残存した所有権があることを前提に、不動産屋さんがAさん「浦安の○○の土地」を売却し、所有権の移転を行うことは可能ということになります。

 

 その結果、あなたとAさんは、「浦安の○○の土地」を未確定ながらもお互い所有していることになります。では、最終的にどちらが所有権を確定的に取得できるのでしょうか。

 

 これを規定しているのが、民法177条です。民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は・・・・・登記をしなければ、第三者に対抗することはできない」と規定しています。

 

 具体的に検討します。まず、現在問題となっているのは、あなたとAさんどちらが所有権を確定的に取得できるかですよね。これは土地という「不動産」の所有権という「物権」の獲得あるいは移転に関する事項です。そのため、「不動産に関する物権の得喪及び変更」の問題と言えます。

 

 そして、同条に規定されている「第三者」とは、専門用語でいうと、当事者又は包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を言います。なんだか呪文のような言葉ですね。具体的にいうと、不動産の所有権を誰が最終的に所得するかは、民法177条によれば「登記」ですよね。つまり、「登記をしなければ、第三者に対抗することはできない」とは、登記をしないと第三者に自分が所有権を持っていると主張できないことを意味します。これを言い換えると、登記を備えれば第三者に対して自分が所有権を有していることを主張できる。すなわち、確定的に所有権を取得するということになります。

 

 そうだとすると、今回の問題で「第三者」とは、あなたもAさんも未確定ながらも所有権を有していますよね。そのため、どちらも確定的に所有権を取得する可能性があります。反対の視点でみると、あなたとAさんどちらかが登記を備えてしまうと、一方は確定的に所有権を喪失してしまうことになります。

 

 したがって、相手が登記を備えていない間は、共に所有権を主張でき、かつ、相手が登記を備える前であれば、相手が土地の所有権は「私が持っている」と主張しても、これをあなたは拒むことができます。

 そのため、あなたもAさんも、相手の登記の欠缺(ないこと)を主張する正当な利益を有する者ということになります。

 

 以上から、登記を相手が備えるまでは、相手の所有権に基づく請求を拒むことができますが、登記を相手が備えた場合には、請求を拒むことはできなくなります。

 

 総括

 登記を備えていないとどのような問題が起こるかというと、不動産屋さんから土地の引き渡しを受けました。そして、登記をしないまま数年が経ち、「浦安の○○の土地」は買ったとき5000万円の価値しか有していませんでしたが、数年経過して10倍の5億円になったとします。まさにバブルですね。しかし、その土地はAさんが買って直ぐに登記をしていたとします。先に買ったのはあなたです。しかし、Aさんの方が先に登記をしていた場合、Aさんがあなたに土地を引き渡すように請求してきた場合、これを拒むことはできません。ゆえに、5億円の土地は結果的にあなたのものにはならなくなってしまいます。

 非常に残念です。このような悲しい思いを避けるためにも、土地を買ったらすぐに登記をすることが大切です。

 

 この場合、売主にどのような請求ができるかは、また後日書こうと思います。

 

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殺人罪?それとも傷害致死罪?そして殺意とは?

 

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 暑い日が、暑い日が続きますね。暑いです。本当に暑いです。

 

 よくテレビで、「○○容疑者が傷害致死罪の容疑で逮捕されました」や「××容疑者が殺人罪の容疑で逮捕されました」という報道を目にしますが、この違いってどうやって区別するのですかね。そこで、今回は、殺人罪と傷害致死罪とはどのように区別するのか。また、殺意の認定はどのようにして行われるのか検討してみたいと思います。

 

*ちなみ、「容疑者」という言葉がありますが、「容疑者」という言葉は法律上の言葉ではありあません。法律上は「被疑者」といいます。裁判が始まった後、公訴提起といいますが、それ以降は「被告人」といいます。また、民事裁判では、訴えを起こす方の当事者を「原告」といい、訴えられる方を「被告」と言います・・・・ふと我に返ると揚げ足取りの小姑みたいですね(笑)。 

 

 殺人罪と傷害致死罪

 さて、小姑発言は置いておいて、本題に入ります。まず、殺人罪の条文は、刑法199条に規定されています。

 

 刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期もしくは五年以上の懲役に処する」と規定しています。

 

 この条文は分かりやすいですね。特にそのままの意味です。専門家風にいうと、殺す行為とは、人の自然の死期以前に人の生命を断絶する行為となります。

逆に難しくなった!と思いますよね。ですが、簡単です。人間には寿命があります。普通に生活していれば「死」の瞬間が訪れますが、それが訪れる前に、他人がその人の命を故意に奪うこと、これが人の自然の死期以前に人の生命を断絶する行為、すなわち、殺す行為です。

 

 では、傷害致死罪とは何でしょうか。傷害致死罪は、刑法205条に規定されています。

刑法205条は「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する」と規定されています。

 

 この条文も比較的わかりやすいですよね。「身体を傷害し」とは、専門家風に言うと、人の生理的機能に障害を加える行為となりますが、要するに怪我をさせる行為です。

 この怪我をさせる行為には色々なものがあります。例えば、押し倒して、相手に擦り傷を負わせても怪我をさせていることになりますよね。そのため、「身体を傷害し」に当たります。他方、包丁で心臓を刺しても、怪我をさせていることに変わりはないので、「身体を傷害し」に当たります。

 ですが、押し倒して擦り傷を負わせても通常、人は死亡しませんよね。なので、この場合、傷害罪(刑法204条)が成立するにすぎません。

 他方、心臓を包丁で刺した場合、通常、人は死亡します。つまり、「身体を傷害し」、「よって」つまり、その結果、人が死亡しているので、傷害致死罪が成立することになります(刑法205条)(法律用語で結果的加重犯と言います。)

 

 と!ここまでくると一つの疑問が浮かぶと思います。

包丁で心臓を刺している以上、殺人罪が成立するのではないかと思いますよね。

 

 実は、この場合、殺人罪になるケースと傷害致死罪になるケースの二つの可能性があります。では、どのように区別するべきでしょうか。

 

 この区別で用いるのが、認識の違いです。ここでは本来行為論で説明すべきだと思いますが、難しいので殺意という枠で説明します

(厳密には、行為者の認識態様の違いが行為の危険性を変化させるという形になりますが、正直、一般的なニュースを見るときあまり重要ではないと思うので、あえて殺意で説明します。)

 

 そもそも、殺意とは、死亡結果の認識認容をいいます。

先ほどの心臓を包丁で刺す行為の時に、「殺してやる」等と思っていた場合、被害者が死亡することを認識認容していますよね。そのため、殺意があるということになり、殺人罪が成立します。

 

 他方、心臓を包丁で刺す時に、例えば、酔っ払っていて、話しているうちに頭にきてとりあえず、近くにあった包丁で切り付けたというような場合には、「痛めつけてやろう」と思って、手に向かって切り付けたのですが、運悪く心臓に刺さってしまったという場合があります。この場合、怪我をさせる認識はありますが、相手が死亡することを認識していないです。

 このような場合には、殺意はなく、傷害致死罪が成立することになります。

 

 

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 殺意

 では、殺人罪と傷害致死罪の区別につき、便宜上、殺意を基準に行うとして、殺意とはどのようにして認定すべきなのでしょうか。

 

 そもそも、殺意は死亡結果の認識認容です。つまり、これは人の心の中の事情ですよね。

 

 昔、ある女の子と付き合っていて、「あの時、あの子の気持ちがわかっていたら、今幸せな生活を二人でしていたのかもしれない」と思うことがありますが、あの子の気持ちがわからなかったから、今一人できつい羽目になっているわけですよね。まぁ、その時の彼女のしぐさや状況で察するべきだったのでしょうが、当時は気付かなかったですね。

 

 と!ものすごくどうでもいいことを聞かされたと思っていますよね。ですが、実は、殺意も一緒です。その時、言ってくれれば解ったのに!言わないから状況で察するしかないのです。

 

 つまり、これを刑事裁判に当てはめると(当てはまっているか分かりませんが(笑))

 被告人が刑事裁判で、「私は、殺すつもりでした」と自白をしていれば裁判官は、殺意があったと分かりますよね。そのため、裁判官は、言ってくれたおかげで、殺意を認定できます。ですが、被告人が自白をせず、殺意があったとは言ってくれない場合には、殺害当時の被告人の犯行状況等を見て殺意を認定するしかありません。

 これを小難しくいうと、間接事実を積み上げて立証あるいは認定する方法と言います。

 

 では、どのような間接事実があれば、殺意を認定することができるのでしょうか、代表的なものをいくつか検討します。

 

 創傷部位と凶器

 一つ目は、創傷部位と凶器です。まず、創傷部位は、身体の枢要部かどうかで異なります。そもそも、「身体の枢要部分ってなんだよ?」って話ですよね。身体の枢要部とは、手と足を除いた体の部分です。要するに、頭、顔、首、胴体です。これらの部分は攻撃させると致命傷に至る可能性が高いす。そのため、人体の枢要部への攻撃は、殺意を認定する方向に傾く事実となります。

 

また、傷の程度も重要となります。要するに、心臓を1回、浅く突き刺すのと、心臓を100回深く突き刺すのでは全く違いますよね。この場合、複数回又は深く突き刺す行為の方が、殺意を認定する方向に傾く間接事実となります。

 

 凶器については、二つの視点で考える必要があります。まずは、性質です。つまり果物ナイフと包丁だと包丁の方が、致命傷を与える危険が高いですよね。そのため、包丁を使用した場合は、殺意を認定する方向に傾く事実となります。

次に、使い方が重要になります。例えば、レンガ等は通常建物に使用する材料で凶器にはあらないものです。しかし、レンガを使って複数回人間の頭部を殴打すれば当然死亡する可能性は高いです。そのため、このような使い方をしたことは、殺意を認定する方向に傾く間接事実となります。

 

 動機

 また、殺人罪は、本来なかなか発生しない事件です。というのも、殺意をもって人を攻撃するには、それ相応の理由が通常あるからです。要するに強い恨みがある等の動機があってしかるべき犯罪です。そのため、殺意を抱くに値する動機の存在は、殺意を認定する方向性に傾く間接事実となります。

 

 救護措置をしない

 また、通常、人を殴って殺すつもりがなかった場合には、病院等に運んだりすることが多いです。そのため、救護措置をしないことは、殺意を認定する方向性に傾く間接事実にはなります。しかし、予期せぬ結果に戸惑いその場から逃走することも、十分ありえるので、救護措置をしていない事自体は、強く殺意を推定する事実とはいえないと思います。

 

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 総括

 以上の、殺人罪と傷害致死罪の違い、及び殺意の認定方式について検討してきました。ドラマ等で、警察官が被疑者の死亡解剖に立ち会ったり、凶器が何で、動機が何かみたいなことを捜査しているシーンがありますが、この捜査も殺意の立証をする上で、必要なものです。

そのため、ニュースやドラマを見るときに少し意識してみると、いつもと違った楽しさがあるかもしれません。

 

 

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