5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

マクリーン事件判決の重要点と憲法の考え方

 

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 憲法を勉強していると、最初に出てくるのが、外国人の人権享有主体性のお話です。

 民法における権利能力ならば、人であれば有することになますが、憲法の場合、如何なる人権がいかなる人に享有されるのか定かではありません。

 その一つの類型として外国人の人権享有主体性の問題があります。

 

 そこで、今回は、外国人の人権享有主体性についての有名な判例であるマクリーン事件判決について、少し検討してみたいと思います。

 

1 最大判昭和53年10月4日

 まず、同判例では、外国人の入国の自由及び在留権を否定し、更新事由の判断について、法務大臣の裁量を認めた上で、以下のように判示しました。

 

 「判断の基礎とされた重要な事実に誤りがあること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができる。」

 

 行政法における行政裁量の審査基準と同様あるいは似ていますが、ここでは、外国人の在留更新をするか否かについて、法務大臣に行政裁量が認められ、上記基準で判断し、逸脱濫用がある場合に限って、違法という判断枠が採用されました。

 

 では、その判断枠で審査を行った場合、外国人が政治活動をしていた事実はどのような要素となるのでしょうか?

 この点について、前記判例は以下のように判断しました。

 

 まず、「憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対して等しく及ぶものと解すべき」と判示しました。

 

 そして、「政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。」と判示しました。

 

 すなわち、結論としては、外国人についても政治活動の自由は日本国憲法上、一定の限度で保障れると言えます。

もっとも、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当」である旨を判示し、その上で、たとえ、外国人の政治活動が憲法上保障される行為であったとしても、これを消極的事情すなわち在留を認めない一事情として考慮することは許される旨を判示しました。

 

 

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2 総括

 以上判例に照らすと、外国人の政治活動等の基本的人権が日本国憲法により保障されることがあっても、ある一定の場面では、日本人とは異なり、消極自由(マイナス事由)として捉えられる可能性があると言えます。

 

3 司法試験等の各種試験の場合

 司法試験等の各種試験を勉強していると、いわゆる三段階審査というものを聞いたことがあると思います。

 

 もっとも、基本的に裁判所は三段階審査を意識しながら、検討しているわけではありません。そのため、判例を読んでいても、判例を参考にしてどのように答案を書くべきか分からないとう人は多いと思います。

 これはあくまでも例なのですが、マクリーン事件判決であれば、外国人の人権享有主体性は保護範囲論の話だと言えます。

 

 そして、制約としては、政治活動を理由に在留拒否をすることが、政治活動の自由に対する制約となると考えられます。

 

 その上で、審査密度・審査論を考える際には、ベースとしては、法務大臣の裁量権を認めつつ、委縮効果等により制約が強度であること、問題となっている政治活動の自由が重要な人権であることから、裁量を限定し、判例よりも厳しい審査基準を定立するというような方法が考えられます(もっとも、厳格な審査基準等を使用するという意味ではありません。あくまでも裁量権の逸脱・濫用の枠を採用しつつ、逸脱濫用となる場面を広げていくイメージが個人的には良いと思います。)

 

 これは立場や好みにもよりますが、判例を読む際は、答案に引き直した時にどのように書くかを意識して読むことが大切です。

 

 

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株主総会の決議取消しの訴えにおける追加主張の可否(会社法831条)

 

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 会社法を勉強していると、主要な論点として出てくのでが、株主総会の決議取消しの訴えですよね。この決議取消の訴えは、無効・不存在確認の訴えと同様に、かなり分かりにくい分野です。

 

 今回は、株主総会の決議取消の訴えの中でも、特に難しい取消事由の追加について少し考えてみたいと思います。

 

1 株主総会の決議取消しの訴え

 まず、株主総会の決議取消しの訴えを規定した会社法第831条第1項をみてみましょう。

 

 会社法第831条第1項は、「次の各号に掲げる場合には、株主等(・・・・)は、株主総会等の決議の日の3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。」

 ① 「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。」

 ② 「株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。」

 ③ 「株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。」

 以上のとおりの概要が規定されています。

 

 

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2 取消事由の追加について

 では、株主総会の決議取消しの訴えを適切に提起した後、総会決議から3箇月の出訴期間が経過した後に、提訴した取消し事由とは異なる取消し事由を主張することはできるのでしょうか?

 

 この点について、判例はできないと判断しています(最判昭和511224日)。

 

 その理由について、同判例は、「取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効なものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであって、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消の訴えを提起することができる期間を決議の日から3カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであって、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。」と判示しています。

 

 要するに、会社の活動は、株主総会決議を前提として行われており、同決議が取り消されれば、会社の活動が支障をきたすことは明らかです。もっとも、瑕疵ある決議をそのまま残し、絶対に取り消せないとすると、株主を初めてとする会社の関係者の利益を害することは明らかです。

 

 そこで、訴訟という方法で、3カ月以内に訴えを起こす方法を、会社法は選択したと解釈することができ、同期間を過ぎて、新たに取消事由を主張することは、会社法のかかる制度設計に反するものであり認められないということになります。

 したがって、判例の判示内容はある程度適切であると言えます。

 

3 結局のところ

 しかし、講学上は、実質的に同一事由を主張することは、新たな取消し事由を主張するものではないため、認められるべきとの説が有力に主張されています。

 

 この点については、実質的に同一との判断はどのようなものかが問題となりますが、上記判例の判示内容を考慮しても、裁判上は、事実関係が同じとき、取消事由として1号該当性を主張していたものの、2号ないしは3号該当性も主張するというような場合には、実質的にみて別の事由を主張するものではないため、認められる可能性はあると思います。

 

 

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会社法第314条。株主総会における取締役等の説明義務とは?

 

 

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 昔から、株主が、株主総会において取締役等の責任を追及したり、更迭したりするために質問をすることが度々行われてきました。

 

 株主のこのような質問に対して、取締役等は、どのような説明義務を負うのでしょうか?

 

 そこで、今回は、株主総会における取締役の回答について会社法上の規定を勉強してみます。

 

1 会社法第314条について

 まず、取締役の説明責任を規定した条文として会社法第314条がありますので、この条文をみてみましょう。

 

 会社法第314条は、「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。」と規定しています。

 

 

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2 説明義務の有無程度

 以上の会社法第314条の規定に照らすと、前提として、取締役等の役員は、株主総会において、株主から説明を求められた場合にのみ、説明義務が生じます。

 

 裁判例においても、「取締役等の説明義務は株主総会において説明を求められて始めて生ずるものであることは右規定の文言から明らかであり、右規定の上からは、予め会社に質問状を提出しても、総会で質問をしない限り、取締役等がこれについて説明しなければならないものではない。」と判示したものがあります(東京高判昭和61年2月19日)。

 

 したがって、取締役等は、株主から株主総会において、説明を求められなければ説明をすべき義務がないことは明らかと言えます。

 

 では、株主から説明を求められた場合、どのような方法でどの程度説明をすべき義務があるのでしょうか?

 

 まず、会社法上、役員等の説明の方法について定めた規定がないことから、ある特定の方法を用いるべき法的義務はないと合理的に考えられます。

 

 そして、説明の程度については、上記裁判例では、「株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲で説明をすれば足りる」と判示しています。

 

3 総括

 以上の会社法第314条の規定及び裁判例を見ると、取締役等は、株主総会において、株主から質問を受けなければ説明をすべき義務がなく、また、質問があった場合でも、株主総会の目的事項については、もちろんのこと、殊更詳細な説明をすべき法的義務までは負わないと言えます。

 

 したがって、取締役等としては、株主総会前に想定問答集等を作成する場合、どの程度説明をすべき法的義務があるかをしっかりと見定めて同問答集を作成することが重要となります。

 

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民事訴訟法上の既判力。根本的な視点

 

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 民事訴訟法を勉強していると、「既判力」という言葉がでてきますが、この既判力とは何でしょうか?

 今回は、既判力の概要について少し考えてみたいと思います。

 

1 既判力とは?

 そもそも、既判力とは、簡単に言うと、前訴判決で確定した内容について、当事者等がこれと矛盾する主張を後訴で行うことを阻止し、また裁判所も後訴で、同判決を前提とした上で、審理判断を行わなければならないという効力です。

 

2 なぜ既判力は必要なのか?

 まず、民事訴訟法の目的は、現在の権利義務又は法律関係の有無を確定させることで、現在の法的紛争を解決することにあります。

 

 そして、当事者は、同権利義務又は法律関係の有無を裁判所に認定してもらうために、訴訟活動を遂行していき、事実審の口頭弁論終結時点までに、主張・立証活動を完結させ、裁判所は、これを前提に、判決を行うこととなります。

 

 以上の民事訴訟法の目的及び当事者の訴訟活動に照らすと、判決が出て確定した後も、後訴において、両当事者が同じ現在の権利又は法律関係について再度争うことができるとするならば、紛争がいつまでも終結せず、民事訴訟制度自体が無意味なものとなります。

 

 そこで、両当事者に適切な手続保障を与えて上で、裁判所が判決を出し、それが確定したならば、既判力という効力を認め、紛争の蒸し返しを防止することを現行の民事訴訟法は採用しました。

 

 

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3 既判力の範囲

 以上のとおり、既判力の趣旨が、紛争の蒸し返しを防止するという点にあるのであれば、現在の権利義務又は法律関係を確定させ現在の紛争を解決させる限度で、認めれば足ります。

 

 逆に言えば、過度に広範な範囲で既判力を認めてしまうと、当事者等の適切な権利行使を不当に制限することになってしまい、権利実現を不当に害することとなります。

 

 そこで、既判力については、いわゆる基準時が事実審の口頭弁論終結時点とされ、判決主文に包含されるもの、すなわち、訴訟物を基準に生じ、また、既判力に拘束される主観的範囲については、民事訴訟法第115条第1項に規定された者と規定されています。

 

4 総括

 以上のとおり、既判力については、あくまでも現在の紛争解決のためという視点が重要となり、過度に広範な範囲で及ばないように条文上ないしは解釈上制限をされています。

 

 そもそも、実体法上の権利は、終局的には訴訟を通じて実現される性質を一般的に有していますので、その実現をする機会が不当に制限されることはあってはならないことであると言えます。

 しかし、それと同時に、適切な権利実現の機会を保障し、裁判所が判断をして確定したにもかかわらず、何度も何度も争う期間を与えてしまうならば、紛争解決を目的とする裁判制度が無意味なものとなってしまいます。

 

 このような2つの観点から既判力を考えることがとても大切であり、内容の理解がすすむと思います。

 

 

 

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知っておきたい!民事訴訟法157条 時機に後れた攻撃防御方法のお話

 

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 民事訴訟法を勉強していると、具体的なイメージが湧かない条文があると思います。その1つが、民事訴訟法第157条いわゆる時機に後れた攻撃防御方法の提出です。

 そこで、今回は、民事訴訟法第157条について少し検討をしてみたいと思います。

 

1 訴訟の全体について

 まず、どのような訴訟でもそうですが、いきなり訴訟を提起することはほとんどありません。

 

 例えば、200万円貸したのに弁済期が到来したにもかかわらず、返済がない場合でも、貸した相手に、直ぐに訴訟提起することは稀です。

 

 すなわち、弁護士に委任して、内容証明を送り示談交渉を行い、それでも、任意の弁済がされない場合に、訴訟を提起するというのが通常の流れだと思います。 

 

2 民事訴訟法第157条第1項について

(1)総論

 では、訴訟が開始して以降、民事訴訟法第157条第1項はどのような場面で機能するの  でしょうか?

 

 まず、条文をみてみましょう。

 

 民事訴訟法第157条第1項は、「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」と規定しています。

 

 この条文だけ見ると、どのような場面を想定しているのかイメージが湧かないですよね。

 上記条項は、具体的には、①時機に後れた、②故意又は重大な過失、③訴訟の完結が遅延することの3つの要件を定めています。

 

(2)①時機に後れた

 時機に後れたとは、実際の訴訟の進行に照らして、実際に提出された時期よりも早期の時点で提出することができ得る客観的事情の有無によって判断されます。

 簡単に言うと、もっと前に出すことができましたよね。

 というような場合です。

 

 ただし、ここで注意が必要なのは、訴訟戦略を立てた場合、第1回期日で出さずに、第3回期日あるいは第4回期日に証拠や主張を出した方が効果的な場合もあります。

 

 したがって、第1回期日に出さず、第3回期日に出した場合に、直ちに「時機に後れた」と認定されることはあまりないです。

 

(3)②故意又は重大な過失

 上記条項の故意又は重大な過失とは、一般的に訴訟の完結を遅延させることについては要求されておらず、単に提出が時機に後れて提出することについて認識しているないしは著しい注意義務違反で認識していない場合に、認定されます。

 

 つまり、上記①の要件についての認識だけあればよく、下記の③の要件について認識していなくても、②故意又は重大な過失の要件を満たすということになります。

 

(4)③訴訟の完結が遅延すること

 訴訟の完結が遅延することについては、所説ありますが、通説的な見解は、実際に攻撃防御方法が提出され、これが却下されずに審理を行った場合の訴訟の完結の時点が、却下した場合の訴訟の完結の時点よりも後である場合を意味するとされています。

 

 

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3 結局どういうこと?

 民事訴訟法第157条第1項の内容について以上のとおり検討してきましたが、実際のところ、同条項の要件を満たす場合は、さほど多くありません。

 

 例えば、裁判所が、数期日提出が遅れた程度で上記条項の要件を満たすので、却下すると認定することは非常に稀だと言えます。

 

 具体的にありうる場合としては、書証及び人証の調べが終了し、次回期日に最終準備書面を提出し、同期日で口頭弁論を終結する予定であったにもかかわらず、従前全く主張していなかった事項について、主張及び証拠を提出するような場合だと思います。

 

 したがって、弁護士に委任して訴訟を行う場合には、原告側では訴訟提起前の段階、被告側では、初回期日あるいは第2回期日までには、全ての事情を話し、それぞ裏付ける資料等を弁護士に預けておいた方が無難であると考えられます。

 

 

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諦めないで。民法第724条の消滅時効の起算点について

 

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  例えば、犯罪に巻き込まれた場合等に加害者に対して損害賠償請求をしたいと考えているときに、加害者が誰だか分からないはたまた名前はわかってもそれが本名かどうか分からず、住所も知らず今どこにいるのかも分からないというケースはあります。

 

 不法行為に基づく損害賠償請求については、民法第724条に除斥期間と消滅時効期間が規定されています。そのため、同期間を経過すれば特別法がない場合には、加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできなくなります。

 

 これは悲しいですよね。そこで、今回は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点について少し検討してみようと思います。

 

1 民法第724条の規定

 民法第724条は「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。

 

 つまり、消滅時効については「損害及び加害者を知った時」から3年が経過すれば、不法行為に基づく損害償請求権は、時効により消滅することとなります。また、「不法行為の時」から20年が経過した場合も同様に除斥期間により権利消滅することとなります。

 

 冒頭の例でいえば、加害者が誰だか分からないという時には、「加害者を知った時」には当たらず、消滅時効は進行しないため、例えば10年後に加害者が誰であるか判明したような場合には、その知った時から3年間は不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅せず、同損害賠償請求をすることができます。

 

 もっとも、加害者が誰であるかは分かるものの、それが本名であるのか否か分からず、またどこにいるのかも分からないというケースでは、「加害者を知った時」に当たってしまうのでしょうか。

 

 この点ついて、最判昭和48年11月16日(民集27巻10号1374頁)は以下のとおり判示しています。

 

 

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2 最判昭和48年11月16日

 同判決は、現行法でいうところの「加害者を知った時」について、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当」であると判示しました。そして、同判決は、「不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する損害賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき」、初めて「加害者を知った時」に当たる旨判示しています。

 

 同判決を前提とすると、そもそも、加害者が分かっていても、それが本名であるか分からず、今どこにいるのかも分からないというようなケースでは、「加害者を知った時」に該当しない可能性が高いと思います(もっとも、公示送達の方法により訴訟係属させ、裁判上の請求をする余地があるケースもあり得るため、弁護士等の法律専門家に一度相談をすることが得策だとは思います。)。

 

 そのため、例えば自分が犯罪に巻き込まれたような場合に、加害者が未だ捕まっていないようなケースでは、例えば被害に遭ってから3年を経過した場合であっても、加害者が逮捕された際には、損害賠償請求をすることができると考えられます。

 

 したがって、たとえ加害者が不明であったとしても、諦めずに収集した証拠等はしっかりと保存しておき、いつでも損害賠償請求をすることができる状態を維持しておくことが大切です。

 

 

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民法第715条第3項。知っておきたい求償権の話

 

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  民法第715条は不法行為分野の中でとても有名な条文ですよね。色々な論点があって比較的勉強がしやすい分野だと思います。今回は、民法第715条第3項の使用者の被用者に対する求償権について少し検討してみたいと思います。

 

1 民法第715条について

 民法第715条は、使用者責任を規定した条文ですよね。その趣旨は、いわゆる報償責任にあるとされています。すなわち、他者を使用することで利益を受けている者は、被用者が生じさせた損害についても賠償の責任をとるべきであるという考え方が根本にあります。

 

 民法第715条第1項本文では「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。ちなみに但し書きについては、一般的に極めて例外的な場合でなければ、その要件を充足しないとされています。

 

 もっとも、あくまでもこれは使用者が被害者に対して損害賠償責任を負うことを規定したものにすぎません。すなわち、直接的に不法行為を行ったのは被用者であり、被用者の被害者に対する損害賠償責任を免除するものではありません。その結果、被用者は民法第709条等に基づく損害賠償責任を負い、使用者は民法第715条第1項本文に基づき損害賠償責任を負い、使用者と被用者は連帯して被害者に対して損害賠償債務を負うこととなると考えられます(いわゆる不真正連帯債務)。

 

 そうだとすると、民法第715条第3項が「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定するのは、当然のことを規定しているとも思えます。

 

 もっとも、使用者と被用者との関係が少し特殊であることも考える必要があります。つまり、被用者は使用者から指示を受けて事業を執行する際に不法行為を行っています。例えば、交通事故を起こした等のケースが典型だと思いますが、交通事故を起こすに至った経緯として、加重労働を強いられていたり、使用者が安全に対する措置を全く行っていなかったというような場合もあり得ます。このような場合に、使用者が被用者に対して完全な求償を行えるとするのは、少し道理に合わないように思います。この点、最高裁昭和51年7月8日判決(民集30巻7号689頁)は、使用者から被用者に対する求償権を制限できる場合があることを判示しています。

 

 

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2 最高裁昭和51年7月8日判決

 同判決は、使用者の被用者に対する求償について「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」と判示しています。

 

 上記判決の例示する要素はとても広汎なものとなっています。そのため、使用者が被用者に対して求償することができる場合があったとしてもその額については、一定程度制限されることが予想されます。したがって、使用者の立場からすれば、上記判決の例示する要素について日頃から配慮し、適切な職場環境を構築することが大切になると言えます。

 

 

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