5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

説明義務違反。不法行為と債務不履行の分かれ目

 

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1 債務不履行って難しい

 民法を勉強していると、よく挙がる条文として、415条があります。民法415条は、債務不履行に基づく損害賠償請求の根拠条文です。債務不履行という言葉自体、法律を勉強していなくても聞いたことがあり、なんだか馴染みやすい感じがありますよね。

 

 しかし、実際のところ、債務不履行といっても債務の内容を確定することが困難な場合や、不法行為との境目がよく分からないケースもあります。そのため、債務不履行に基づく損害賠償請求と一言でいってもよく分からない問題があります。

 

 そこで、今回はそのような問題の一つである説明義務違反について少し考えみたいと思います。

 

2 説明義務違反

 例えば、マンションを購入する際に、売買の目的物となっているマンションがどのようなマンションか説明しますよね。「そりゃ当たり前だろ!」と言う人もいると思います。

 

 そうです。「当たり前です」。

 

 つまり、売買をするときに、その物がどういう物か分からなかったら、買う人はその物を買いませんよね。他方、売主からすると、売る物を高く売りたいので、魅力的に見せたいと思いますよね。

 

 そのため、売買の目的物について売主は色々な説明をします。

 

 例えば、「このマンションは眺望がすばらしいですよね。ほら見て下さい。こんな素晴らしい眺めを毎日見れるなんて、生活が本当に豊かになります。この先10年以上、ずっと近隣に高層ビルは建ちません。なので、ずっと快適に過ごせます。」と説明します。

(まぁ、私の説明だとそんなに魅力的に見えないかもしれませんが。。。。)

 

 他方、「このマンションは防火対策がしっかりしています。なので、火災が起きても安心です」という機能面に関する説明もします。

  

 このように色々な説明がありますよね。ところが、マンションを購入して1年後に購入したマンションの前に高層ビルが建って眺望が最悪になったらどう思いますか。

 

 「話が違うよ」って思いますよね。

 

 また、防火対策がしっかりしていても、防火扉の使い方を説明されておらず、実際に火災が起きた時に、防火扉のスイッチを入れることができず、全焼してしまった場合は、どうでしょうか。

 

 これまた「話が違うよ」って思いますよね。

 

 そうです。両方とも「話が違うよ」です。

 

 しかし、これらはいずれも契約締結前の説明が問題になっています。そのため、このような説明義務違反を債務不履行として、これに基づき損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 この問題の手掛かりになるのが、最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)です。

 

 

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 3 最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)

 この問題につき、同判決は以下のような判示をしました。

 契約を締結した一方当事者が「当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない」と判示しました。

 

 その上で、契約の一方当事者が説明義務に違反して本来締結しなかった契約を締結し、損害を被った場合には、「締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるといわざるを得ない」と判示しました。

 

 一見非常に難しい事を言っているように見えますよね。しかし、そこまで難しい話ではありません。

 

 そもそも、債務不履行とは、契約によって生じた義務が履行されないことを言います。そのため、契約があって、それを前提として義務が生じます。

 

 ところが、契約をするか否かに関する情報を提供する説明の場合には、その説明義務とは、契約を前提として生じるものではありません。

 

 先の例でいえば、「この先ずっと眺望が良いです」という説明については、この先ずっと眺望が良いいからこのマンションを買うという、物を買う動機に関わる部分であって、売買契約を締結するかどうかを決める情報に過ぎません。

 

 高層マンションが近くに立ってしまいこのような説明が真実と異なり説明義務違反がある場合であっても不法行為になることはあり得ても、債務不履行になることはありません。

 

 他方、防火扉の説明についてはどうでしょうか。この場合、マンションや家を購入した際に、防火扉の使い方が説明されないと、非常に困りますよね。このような防火扉の使い方は、買った後にマンションを使う際に必要な情報であるため、売買契約に基づいて係る説明をすべき義務があることになります。

 

 そのため、係る防火扉に関する説明は、契約を前提とした義務です。ゆえに、これに違反する場合には、債務不履行になります。

 

4 どうでも良い議論では?

 一見このような議論は、すごくどうでもよい議論に思いますよね。しかし、これ意外に重要です。

 

 不法行為の場合は、新民法が施行されていない今では、時効期間が3年ですが債務不履行の場合は10年です。

 

 そのため、説明義務違反がありこれを知った時に、3年を経過してしまっている場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求しかできないので、説明義務違反が債務不履行となるのか不法行為になるのかは非常に重要な問題になります。

 

 したがって、細かい議論ですが、とても重要な問題だと言えます。

 

 

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フロッピーディスクの差押えの話。最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁

 

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1 捜索差押え

 刑事訴訟法を勉強すると、最初に捜査法を勉強することが多いと思います。

 この捜査法なのですが、意外に厄介で、分かるようで分からないという部分が多いですよね。

 

 例えば、強制処分該当性と任意捜査の限界が一番最初に壁になる部分でしょうか。任意捜査の限界については、必要性緊急性と人権制約を天秤にして全体的に相当な限度といえるのだろうか。というような視点が大切になりますが、個別具体的な事案についてあてはめてみると意外に上手くいかないなんて事もあるかと思います。

 

 また、捜索差押えについてもそうです。令状の効力が及ぶのか、超える場合には「必要な処分」(刑訴法第222条・第111条1項)で考えていくのだろうか。しかし、実際に個別具体的な事案であてはめてみると意外に難しいですよね。

 

 今回は、そのような難しい捜査法の中でも、フロッピーディスクの差押えについて、少し考えてみたいと思います。

 

 

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2 そもそも論

 そもそも、捜索を行うことができる場所とはどのような場所なのでしょうか。この点、刑事訴訟法は、第102条で規定しています(ちなみに、捜査機関が行う場合には、第222条1項が準用規定を置いています。そのため、捜査機関が行う場合には、第102条の「裁判所」は「検察官」や「司法警察職員」に読み替えられます。)

 

 第102条1項は、「裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる」と規定しています。

第102条2項は、「被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限り、捜索をすることができる。」と定めています。

 

 捜索は、証拠物等を発見することを目的になされる捜査であるため、証拠物が存在していそうな場所が捜索の対象になります。被告人の住居などについては類型的に証拠物の存在する蓋然性が高いため、捜索をすることが可能な場所です。ところが、被告人以外の人の住居などの場合には、類型的にみて証拠がありそうとまでは言えません。そこで、第2項で「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合」と言う形で、限定がされています。

 

 以上から、捜索をすることができる場所とは、証拠物の存在する蓋然性がある場所だと言えます。

 

 他方、差押えは、証拠物を押収する捜査です。刑訴法は第99条1項で「裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定めのある場合は、この限りでない。」と規定しています(捜査機関がなす場合は、第222条1項が準用されています。)

 

 例えば、被告人の家を対象とする捜索をしている最中にメモ書きが発見されたとします。これが令状記載の差押えるべき物に当たらない場合には、これを差し押えることはできません。そのため、差押えをするに当たっては、対象物が事件との関連性を有するか否かを判断した上でなければ、差押えることができません。

 

 以上を踏まえると、捜索差押をする場合には、証拠存在の蓋然性及び関連性を判断する必要があると分かります。

 その上で最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁を見てみましょう。

 

3 最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁

 同決定は、データの中身を見ないでフロッピーディスクを差押えることができるかにつき、以下のように判決しました。

 

「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押えることが許される」と判示しています。

 

 4 注意が必要かも

 同最決は、一見すると当然のことを判示しているようにも読めます。しかし、判断基準として「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合」を挙げていますが、これは捜索についての証拠存在の蓋然性基準を使用しており、差押えについての関連性審査はしていないようにも思います。

 

 そもそも、関連性については、その中のデータを見てみないと分からないので、差押え時点でこれを見ることができない以上、事実上、関連性審査をするのは不可能だと言えます。

 

 そのため、最決の判示は結論において妥当だと言えます。

 

 注意が必要なのは、蓋然性審査と関連性審査は視点が異なるので、試験を受ける際には峻別をしながらどちらの要件を検討しているのか意識をすることが大切です。

 

 

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土地を買ったら土壌から有害物質発見。瑕疵担保?売主の責任は?

 

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 1 土地を買ってみたところ

 家を建てようと思って土地を買ったり、工場を建設しようと思って土地を買ったり、土地を買う目的は人それぞれだと思います。

 

 色々な目的があるにせよ、自分が買った土地から有害物質が発見されたらどう思いますか。

 

 当然嫌です。絶対に嫌です。「売主に責任を取って欲しい」それが正直なところだと思います。しかし、売買契約を締結した当時そのような有害物質の存在を売主も買主も知らなかった場合はどうでしょうか?また、そもそも、日本国内で、土壌から発見された物質が有害物質であると認識されていなかった場合は、どうでしょうか?

 

 そこで、今回は、買った土地の土壌から有害物質が発見された場合に、売主に対して、民法上どのような方法で損害賠償請求をすることができるか少し考えてみたいと思います。

 

 

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2 民法上の方法について

 このようなケースで民法上の損害賠償請求をする方法としては、主に3つあります。それは、不法行為に基づく方法(民法709条、民法710条)。債務不履行に基づく方法(民法415条)、瑕疵担保責任に基づく方法(民法570条、民法566条)です。

 

 不法行為の場合には、故意又は過失、債務不履行の場合は帰責事由(信義則上故意又は過失と同視すべき事由)が求められます。そのため、売主が売買の目的物である土地の土壌に有害物質が含まれていることを過失なく認識していなかった場合には、不法行為に基づく方法も、債務不履行に基づく方法も使用することができません。

 

 他方、瑕疵担保責任に基づく方法は、無過失責任であるとされています。そのため、売主が売買の目的物である土地の土壌に有害物質が含まれていることを過失なく認識していなかったとしても、それをもって同方法が使用できないことにはなりません。

 

 ところが、瑕疵担保に基づく方法の場合、当然ながら「瑕疵」がなくてはなりません。ここで「瑕疵」が何を指すのかについては色々な説があります。代表的な説としては、「瑕疵」とは、取引通念上当該目的物が有すべき性質を有しないこと、又は、当事者が予定した性質を有しないことを言うとしています。

 

 同説によった場合には、売買の目的物となった土地の土壌から有害物質が検出された場合には、直ちに「瑕疵」に該当しそうですよね。

ところが、そのように簡単に判断することはできません。

 

3 最判平成22年6月1日(民集64巻4号953頁)

 そもそも、取引通念や当事者が予定したという瑕疵該当性の判断は、いつの時点を基準にするのでしょうか。それを判示しているのが、最判平成22年6月1日(民集64巻4号953頁)です。

 

まず、同判決は当事者が予定した性質を判断するに当たり、「売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」とし、「本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれていることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、(原告)もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物資として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であった」と判示しました。

 

 その上で、「人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の社会観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあることは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれを超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。」と判示しました。

 

 

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 4 ではどうするべきか?

 結局のところ、買った土地から有害物質が将来発生してしまった場合、全く保護されなくなってしまうような事態になってしまうかもしれません。

 これは非常に困りますよね。そこで、このような場合には、売買契約を締結するときに、条項で例えば、「契約締結後3年以内に、両当事者の予想することができない人の健康を害する有害物質が生じた場合には、売主がその瑕疵によって発生した損害を賠償する」ニアンスの条項を契約書に盛り込んでみる交渉をするのも一つの手です。

 

 将来自分が不利にならないように色々とリスクを予想することが大切かもしれません。

 

 

 

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契約解除の基本的な考え方

 

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1 契約はしたけど

 例えば、ある人と売買契約を締結して、車等を購入したとします。しかし、契約をしたにもかかわらず、納期に車が来ないとかありますよね。また、建売の住宅を購入する契約を締結したにもかかわらず、その住宅は自分が買った後に、他の人に売られてしまい後に買った人が所有権移転登記をしてしまった場合など、頭に来ますよね。

 

 損害賠償請求ができることは当然だとしても、この場合契約を解除することができるのでしょうか。そこで、今回は、民法の解除制度の基本的な考え方について、検討してみたいと思います。

 

 

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 2 民法の解除とは?

 そもそも、解除とは契約締結後に生じた事情により契約関係を解消させることです。原則、契約を締結したらその約束は守られてしかるべきです。契約してみて「やっぱりやめた。」と言って契約当事者の一方が勝手に契約を解除することができるとすると、契約をする意味自体がありませんよね。

 

 そのため、契約を締結した後は、一定の事由が生じない限りは契約関係を解消することはできません。

 

 では、どのような事由があれば契約を解除することができるのでしょうか。

この点、代表的な条文を三つ見てみましょう。

 

 まず、履行不能を定めた民法第543条です。同条は「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。」と規定しています。

 

 この条文中「履行の全部又は一部が不能となったとき」と定めています。

 なぜそもそも履行不能の場合に解除を認めているのでしょうか?

 

 それは、契約目的を達成できないからです。

 

 当たり前の話ですが、例えば、建売の売買契約を締結する時に買主は建物及び土地の所有権を手に入れること、売主は代金をもらうことを目的として、契約を締結します。ところが、建物が売主の過失で損壊し引き渡すことができなかったり、売主が他の人に売って登記を備え、確定的に所有権を取得できなくなったときは、もはや契約の目的を達成することができません。

 

 そのため、契約を維持する意味がないため、契約関係を解消させることを認める。これが解除制度の根本的な発想です。

 

 すごく自明のことなのですが、以下の条文に沿って考えると、非常にこれ自体が重要なことだと分かります。

 

 例えば、履行遅滞を定めた民法第541条は「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約を解除することができる。」と定めています。

 

 弁済期に債務の履行がない以上、直ぐに解除できるような気もしますが、条文はそうなっていません。つまり、履行遅滞の場合は、債務の履行が遅れているだけであって、債務の履行自体は事実上できるのが前提です。そうだとすると、弁済期に債務の履行がなくても、履行される可能性は未だ消えていないため、未履行であることのみでは契約の解除は認めません。

 

 もっとも、「払って下さい」とか「持って来て下さい」と催告をして相当期間経過したにもかかわらず、相手方が払ったり、持参しなかったりした場合には、今後債務が履行されることはないだろうということが明らかになります。

 

 そのため、催告後相当期間経過により、履行不能とし契約目的は達成されないと判断します。

 

 ゆえに、このような相当期間経過後には、契約の解除をすることができるということになります。

 

*補足

 ちなみに、相当期間経過後、解除権行使前に債務の履行があった場合には、解除することができないという見解が有力ですが、今の説明からすると当然の見解だと思います。つまり、解除権行使前に債務の履行があれば契約目的を達成することができ、契約関係を解消させる必要がないからです。

 

 以上を踏まえて、民法第566条第1項前段を見てみましょう。

同条項前段は、「売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達すことができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。」と規定しています。

 

 担保責任の場合、一種の不都合な状況が生じたとしても、その不都合な状況には程度の差があり、契約目的の達成との関係で見た時に、必ずしも契約目的が達成できない場面ばかりではありません。そのため、同条項前段は「そのために契約をした目的を達することができないとき」という要件を置いたのだと言えます。

 

 また、付随的義務違反の場合に原則解除が認められないとする考え方が有力ですが、これも付随的義務の場合には、原則契約目的を達成できない場面ではないことが根本にあります。逆に言うと、契約目的を達成できない場合であれば、解除の理念に従い、付随的義務違反の場合でも、解除が認められることとなります。

 

3 考えすぎないことがコツ

 以上のように解除制度について少し考えてきましたが、意外にその理念はシンプルです。そのため、あまり考えすぎないのがコツです。

 

 

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瑕疵担保。損害賠償請求権の消滅時効

 

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1 大切な物なのに

 家を買ったり、車を買ったり、高額な買い物をすることって人生でありますよね。買う前から色々な物を見て、見積もりを取り、お値段と品質を踏まえつつ、いくつか検討をしながら選ぶ。そのような買う前のプロセスも意外に楽しいですよね。

 

 しかし、いざ買ってみて何年か経った時に、買った時には気付かなかった不具合が見つかることもあります。

 このような場合に、余計な修理代とかがかかったら非常に頭にきますよね。ところが、売主もそのような不具合があったことに気付かなかった!なんてこともあり得ます。

 

 そこで、今回は、買った物に気付きにくい不具合があった場合に、売主に損害賠償請求をすることができるか。また、そのような損害賠償請求はどのくらいの期間まですることができるのか検討してみたいと思います。

 

 

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2 瑕疵担保の話

 まず、このような気付きにくい不具合のことを「隠れた瑕疵」と言います。この隠れた瑕疵については、民法上、以下の条文が規定されています。

 

 民法第570条は「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。」と規定しています。

 

 そして、民法第566条1項は「売買の目的物が地上権・・・である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。」と規定しています。

 

 また、民法第566条第3項では、「前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。」と規定しています。

 

 このように条文だけ並べてもよく分からないですよね。

 

 隠れた瑕疵という以上、買主がその瑕疵を知らず、かつ、通常の注意義務を払っても気づかない不具合である必要があります。このような瑕疵があった場合には、色々な説明がありますが、簡単に言うと、契約した時に不具合はありませんという前提で売主が売っているのにそれに不具合があるってことは、売主は不具合があるものを売って不具合のない物だと仮定した場合の代金をもらっていることになります。

 

 そうだとすると、売主には、その利得分だけ買主に返還させた方がよいのではないか。そのような発想があり、売主の過失の有無を問わず、買主が売主に対して損害賠償請求できることを認めました。これが瑕疵担保制度です。

 

 また、瑕疵つまり不具合は軽微な程度から重度の程度のものまであります。つまり、瑕疵があったからといって直ちに買ったものが使えないことばかりではありません。そこで、解除については契約をした目的を達成できないときに限って、認められています。

 

 3 消滅時効の話

 では、瑕疵担保の制度が何となく分かった上で、大切なのは物を購入して自分の手許に来てから、5年後に瑕疵が判明した場合は、損害賠償請求できるのでしょうか。

 

 先ほどの民法第566条第3項の規定で「買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。」と規定されているため、20年経って初めて知った場合でも、知ってから1年以内に限っては損害賠償請求することができるのでしょうか。

 

 逆に、1年経過後に知った場合には、当然に損害賠償請求ができなくなるのでしょうか。よくわかりません。

 

 この点について、最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁は瑕疵担保に基づく損害賠償請求権は「民法167条1項にいう『債権』に当たることは明らかである。」と判示し、「瑕疵担保による損害賠償請求権は消滅時効の適用があり、この消滅時効は、買主が売主に目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。」と判示しました。

 

 つまり、売主が買主に目的物を引渡してからは、10年間以内に瑕疵を知れば、損害賠償請求をすることが可能ということが明らかになりました。

 

 4 諦めないことが大切

 物を買って何年か経過してしまうと、不具合が見つかっても、「もうだいぶ時間が経過してしまったから泣き寝入りするしかないのかな」と思う方もいると思います。しかし、あきらめる必要はありません。たとえ4年後に気付いたとしても、損害賠償請求をすることが可能です。前向きな気持ちで対処することが得策です。

 

 

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不法行為の損害と生存の可能性

 

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1 晴天の霹靂

 例えば、家族や大切な人が余命宣告をされたら、どのように思うでしょうか。正直想像もできないくらい悲しいですよね。それ自体を受け入るのに時間がかかりますが、それでも今生きているその人との時間を大切にしたい。非常に複雑な気持ちになりますよね。

 

 そのような中で、毎日お見舞いに行って、大切な人を勇気付けたり、それでも治療で苦しむその人の姿を見ていると辛くて、いたたまれない気持ちになるかもしれません。

 しかし、そのような入院中に医師の過失で、大切な人が死亡してしまったらどう思うでしょうか?

 

 余命が宣告され、近い将来に確実に亡くなることが予想されている場合でも、それでも納得できないですよね。

 そこで、今回は、余命宣告や不治の病で将来亡くなることが予想される状況下で、医師の過失により無くなってしまった場合に、不法行為が成立するか検討してみたいと思います。

 

 2 最判平成12年9月22日民集54巻7号2574頁

 この点について、最判平成12年9月22日民臭54巻7号2574頁は以下のように判示しました。

 

 まず、病気で亡くなった患者の治療をした医師の医療行為が、過失で、当時の医療水準にあったものではなかった場合に「右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されているときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。」と判示しています。

 

 当該最判は、適切な医療行為を行ったならば、死亡した時点で患者が生きている相当程度の可能性があれば良いとしているので、当該立証ができたならば、不法行為が成立することになります。

 

 そのため、患者の遺族は、患者が取得した不法行為に基づく損害賠償請求権を相続により承継し、医師あるいは病院に対して、損害賠償請求をすることができます。

* 補足

 なお、通常、病院との間で診療契約を結ぶことも多いので、不法行為ではなく債務不履行に基づいて損害賠償請求をする構成もあり得ます。

 

 

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 3 でもこれって当たり前では?

 同判決は、新しい因果関係の認定ないしは立証方法を示した画期的な判決であるとも思えます。しかし、そもそも、人はいつか必ず死にます。この命題は現状絶対的なものです。

 

 人の死がある程度予見できたとしても、そのことについて格別な差異はありません。

子供が不運にも突発的な交通事故で亡くなってしまった場合でも、非常に当たり前ですが、交通事故がなければ、死亡の時点でその子が生きていた可能性が高いです。

 

 他方、90歳の末期がんの人で余命半年の宣告を受けた場合に、その人が医師の過失で1週間後に亡くなったとしても、当然医師の過失行為がなければ、1週間後の時点で生きていた可能性は高いです。

 

 人は死ぬという絶対的な命題の下、人が生命を維持する法益を持っていることは変わりません。そうだとするよ、交通事故の子供と末期がんの90歳の人で、違いがあるとすることは違和感があります。そうだとすると、最判は、ある意味、当然のことを判示したとも読めると思います。

 

 

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債務不履行における医師の過失。要求される医療水準とは?

 

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1 医療過誤発生

 医療事件は訴訟の中でも難しいと言われますが、患者からしたらそんなことはどうでもいいですよね。正直、「医師は医療のスペシャリストである以上、失敗はしないのが当たり前」というような感覚があると思います。医者の医療ミスで病気が悪化したり、病気が治るのが遅くなったりした場合、それに見合った損害賠償をして欲しいと思うのが当然の感情だと思います。

 

 しかし、医療は日々進化しています。そのような医療技術の中で、リスクがある治療を時として選ばなくてはならず、それを選択したがために、病気が悪化したとしても、損害賠償をされなくてもやむを得ない場面もあり得るかもしれません。

 

 他方、何十年も前から当たり前にある医療行為、例えば、採血などをする場合で血管を傷つけてしまい麻痺が残ったようなケースでは、損害賠償されてしかるべきだと考える方が多いと思います。

 

 では、このような医療ミスの判断はどのように行われるのでしょうか。今回は、医療ミスの判断基準を少し考えてみたいと思います。

 

 

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 2 医療ミスの基本的な判例

 まず、治療などを受ける場合、通常病院との間で契約を締結します。この契約に基づいて、医師が負うことになる債務とは、最善を尽くす義務です。つまり、医師は、病気を治す義務ではなく、あくまでも最善を尽くす義務しか負わないのです。そのため、病気が治らなかったことだけを以て、医師の債務不履行とすることはできません。

 ではどのような場合に債務不履行となるのでしょうか。

 

 この点、最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁が判示しています。

まず、医師の過失の基準とし「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。」と述べました。

 

その上で、「専門的研究者の間でその有効性と安全性が是認された新規の治療法が普及するには一定の時間を要し、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性、医師の専門分野等によってその普及に要する時間に差異があり、その知見の普及に要する時間と実施のための技術・設備等の普及に要する時間との間にも差異がある」と述べています。

 

 そして、「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうか決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべき」であるとしています。

 

さらに続けて、すべての医療機関の医療水準を同一に考えることはできず、「新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準である」。と判示しました。

 

その上で、「当該医療機関としてはその履行補助者である医師等に右知見を獲得させておくべきであって、仮に、履行補助者である医師等が右知見を有しないかったために、右医療機関が右治療法を実施せず、又は実施可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかったために患者に損害を与える場合には、当該医療機関は、診療契約に基づく債務不履行責任を負う」と判示しました。

 

 3 医療の地方格差の容認回避

 注意が必要なのは、この判例を基準に考えると例えば、山奥の診療所と都会の最先端を扱う大学病院では求められる水準に差異が生じるといことです。この例で差異が起きるのはやむを得ないとは思います。

 

 しかし、この論理を拡大していくと、地方と都会で医療を受けた場合の医療水準の格差を容認するような方向にもなりかねません。そのため、過度に地域格差を強調すべきではなく、原則的には、医療水準は全国一律に解釈しつつ、例外的に、個別事情を取り込んでいくような運用が望ましいと思います。 

 

 

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