5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

会社法第361条の取締役報酬の基本的な考え方

 

 

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 会社法を勉強していると、取締役の報酬は重要な問題であると思います。各種試験対策のみならず、実際の会社運営においても、取締役の報酬内容をどのように決定するかについては、各会社において、定款で定めをおいたり慣行等に従い、毎年の定時株主総会等で決定することが多いように思います。

今回は、取締役の報酬と退職慰労金について基本的な事柄を確認したいと思います。

 

1 取締役の報酬について

  会社法第361条第1項の柱書では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と規定しています。そして、各号で以下のように定めています。

第1号「報酬等のうち額が確定しているものについては、その額」

第2号「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」

第3号「報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容」

以上のように定めています。

 

  そもそも、取締役と株式会社の関係は、委任関係(会社法330条)とされています。委任契約は、民法に定めがあるとおり(民法643条以下)、原則は、無報酬となっております。そのため、会社法第361条第1項は、そのような無報酬の原則からすれば例外的な位置づけとして、取締役に報酬を支払うための条件を規定しています。ここで重要なのは、民法上の委任契約の無報酬の原則は、あくまでも、任意規定です。そのため、私的自治により委任契約であっても当事者間の合意で、報酬の支払いを決定することは当然できます。契約自由の原則により、この場合、当事者間の合意でどのような報酬内容であっても、強行法規に違反しない限り自由に決定することができるのが通常です。ところが、会社法第361条第1項は、取締役と会社との自由な合意によって報酬を決定することができるのを防止し、定款又は株主総会の決議で各号に定められた事項を決定しなければならないと定めています。

 

 それはなぜかというと、いわゆるお手盛り防止という趣旨があるからです。

 

 つまり、通常の委任契約の場合、委任者と受任者が独立しており、両者が互いに意見をぶつけ合いながら報酬についての合意に至ると思います。しかし、株式会社と取締役の関係をみると、株式会社という法人を委任者とする概念は当然にあるとしても、その法人の機関として実際に事業執行をしたり、取り決めを行うのは取締役であることが多いです(株主総会はあるものの)。そうだとすると、株式会社という委任者と取締役という受任者を概念的には整理することができたとしても、民法上の委任契約とは異なり、両者の独立性は実際のところ明確にあるとは言えません。その結果、報酬について、取締役が自分で報酬を結締する構造となり、不当に過大な報酬を決定することで、会社の財産を流出させる危険性があるということになります。その結果、会社の所有者である株主や債権者を害する結果になることが想定されます。このような事態を防止するために、会社法第361条第1項において、取締役の報酬について、定款又は株主総会の決議で、各号に定めた事項を規定することが必要とされました。

 

 

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 2 定款又は株主総会の決議で定める場合の注意点

  以上のとおり、取締役の報酬については、定款又は株主総会の決議で定めることが必要であるとされていますが、ここで注意が必要なのはただ定めれば良いというものではないということです。

 

  基本的には、第1号のとおり、額が定められている場合には、基準として明確であるため、あまり問題となることは少ないです。しかし、第2号の定めのとおり額について定めがない場合で、その算定方法を決める場合には、注意が必要です。

  各会社で、その算定方法については、独自の基準を設けていることと思いますが、その算定方法が複雑すぎたり、多様な要素を盛り込みすぎて、実質的に取締役会に一任しているのと変わらないような場合には、会社法第361条第1項に違反する可能性があります。

 

  したがって、算定方法を定める場合や既に存在する場合でも、適切な基準となっているか客観的に検討することが大切です。

 

 

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知っておきたい正当防衛が成立する場合

 

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1 はじめに

 日常生活をしていても、正当防衛という言葉を使うことはありますよね。例えば、友人からふざけて殴られたので、殴り返したり、暴言を言われたから暴言を言い返したり、そのような時に正当防衛であると言います。

 

 この正当防衛という言葉、自分の行ったことが正当であるというようなニアンスで普段使っていると思います。しかし、法律上「正当防衛」とはどのような制度なのでしょうか。

 そこで、今回は、犯罪の成否との関係で正当防衛とはどのような制度であるのか少し考えてみたいと思います。

 

2 正当防衛とは?

 まずは、条文から確認しましょう。正当防衛は、刑法第36条第1項に規定されています。

 同条項は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために、やむを得ずにした行為は、罰しない。」と規定しています。

 

 なんだか分かるようで分かりにくい条文ですね。具体的に考えてみましょう。

 まず、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現に存在するか、又は間近に迫っている場合を言います。違法とは、刑事的な違法ではなくてとも、民事的な違法も含めて意味します。

 

 しかし、基本的には、殴られたり、襲われたり、そのような身体生命に対する侵害行為がなされようとしているケースが多いです。

 

 また、「急迫」と規定している以上、緊急性が必要になります。そのため、昨日殴られた奴に町でばったり出くわして、恨みを晴らそうと殴ったとしても、侵害が現に存在しているわけでも、間近に迫っているわけでもないため、「急迫」性の要件を欠き、正当防衛は成立しません。

 

 次に、「自己又は他人の権利を防衛するために」とは、どのような意味でしょうか。

 これは、簡単にいうと、防衛行為としてなされる必要があるという意味です。判例は、防衛の意思が必要としており、客観的に侵害排除に向けられた行為であるとともに、防衛の意思が必要となります。

 

 防衛の意思とは、様々な定義がありますが、急迫不正の侵害を認識し、これを避けようとする単純な心理状態であれば良いと考えられます。

 

 そもそも、殴られたら怒りますよね。怒って相手を痛めつけてやろうと思うのは、むしろ自然です。防衛の意思を言葉の通り考えると、自分又は他人を守ろうとする意思しかないといけないことになってしまい、相手を痛めつけてやろうと思ったら、全ての事案で防衛の意思を否定してしまうことになり、正当防衛は成立しません。

 

 そのため、「避けようとする単純な心理状態」があれば良いと考えられます。

 

 しかし、殴ってきた相手をただただ痛めつけてやろうと思った場合には、もはや防衛の意思ではなく、攻撃意思になっているため、正当防衛は成立しません。

 

 ちなみに、積極的加害意思と攻撃意思の違いなのですが、積極的加害意思の場合は、そもそも、急迫不正の侵害を事前に予期していることが前提となります。他方、攻撃意思の場合には、急迫不正の侵害を事前に予期していないことが前提となります。

 

 最後に、「やむを得ずにした行為」の意味が問題になります。

 この「やむを得ずにした行為」とは、相当性を意味するといいますが、相当性とは何でしょうか。簡単にいうと、防衛行為をする場合には、侵害を排除するために必要最小限度である必要がということです。

 

 そもそも、人を殴ることは犯罪です。そのため、相手が殴りかかってきて、殴り返したとしても、原則的に考えれば、その殴り返す行為は犯罪になります。これを例外的に犯罪ではなくするのが正当防衛です(難しい言葉でいうと違法性阻却事由といいます)。

 

 つまり、必要最低限度ではない防衛行為は原則通り犯罪になるということです。

 例えば、素手で殴ってきた相手に対して、日本刀で切り付けて対応する場合(質的過剰)、素手で一回殴ってきた相手に対して、100回殴り返す場合(量的過剰)には、正当防衛は成立しません。

 

 

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3 正当防衛が成立しない場合は?

 正当防衛が成立しない場合には、当然犯罪が成立します。

 しかし、先程の質的過剰、量的過剰の場合には、過剰防衛(刑法第36条第2項)に当たり、たとえ犯罪が成立するとしても、場合によっては刑が減軽されたり、免除されたりすることがあります(任意的減軽)。

 

 

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詐害事業譲渡!会社法第23条の2の債務履行請求

 

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1 最近改正されましたね

  会社法の改正は頻繁に行われていますが、最近改正された条項の中でも会社法23条の2の債務履行請求は非常に重要ですよね。判例法理として詐害行為取消しで解決していた問題を立法によって明文化することになったのですが、実際に使い方を考えてみるといまいちよく分からない条文でもあります。そこで、今回は、会社法23条の2の債務履行請求について少し考えてみたいと思います。

 

2 その内容は?

  まず、条文から見てみると、会社法第23条の2は以下のように規定しています。

 

 第1項「譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。」

 

 第2項「譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から二十年を経過したときも、同様とする。

 

 第3項「譲受会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。」

 

 長い条文ですね。簡単にいう、詐害的な事業譲渡がなされた場合には、従来の判例では、詐害行為取消権の行使を認めてきました。

 

 主に問題となっていた事案としては、詐害的な会社分割と事業譲渡があります。類型として、債務を免れるために、会社を設立して、新設分割の手法により資産を承継させるものや、既にある会社に対して、事業譲渡の方法により事業を承継させるものなどがあります。

 

 形式的に考えると、債務者である譲渡会社が債務を負い続ける以上不都合がないようにも思いますが、実質的に考えれば、目ぼしい資産が譲渡会社になく、債権回収が著しく困難になってしまいます。このような構図は詐害行為の場合と同様であり、改正により譲受会社に対しても、債務の履行請求が可能になりました。

 

 

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3 少し注意したいこと

 この会社法第23条の2の請求についていくつか注意が必要なことがあります。

(1)転得者が対象になっていなこと

 詐害行為取消権の場合、転得者に対しても価額賠償請求をすることができます。しかし、会社法第23条の2の場合、対象が譲受会社に限定されています。そのため、事業が譲受会社から第三者に移転した場合に、転得者に対しては、詐害行為取消権に基づき価額賠償請求をすることになります。 

 

 余談ですが、この場合、転得者に対する価額賠償の額の算定が難しい場合もあると思います。例えば、譲渡会社から譲受会社に事業譲渡されて、譲受会社が事業を成長させて事業価値を上げた場合に、価額をいくらとすべきか、また立証も難しいのではないかと思います。

 

(2)詐害性について

 詐害性については、いわゆる無資力が重要な要素となります。ここで、事業譲渡された時の対価として、譲受会社の子会社の株式等が対価として交付され、その評価額を考慮すると無資力といえないような事態も生じます。しかし、子会社の株式が譲渡制限されて、市場に出回ることがないような株式の場合には、売却することが難しく、事業からそのような株式に資産交換する場合であっても、詐害性が認定されることもあります。

 そのため、詐害性については慎重な検討をする必要があります。

 

(3)競合した場合

 会社債権者が一人ということはまずありえません。そのため、残存債権者が複数いることも多いです。この場合、Aという残存債権者が、会社法第23条の2に基づく債務履行請求を譲受会社して、譲受会社が支払いをした後、Bという残存債権者が、会社法第23条の2に基づく債務履行請求を譲受会社にした場合に、譲受会社に支払い義務が生じるか問題となります。

 

 この点については、条文上明示されていませんが、会社法第23条の2第1項で「承継した財産の価額を限度として」と規定されているので、Aに対する支払いによって、「承継した財産の価額」を満額支払ったならば、譲受会社の責任はなくなると考えるのが素直な気がします。

 

4 難しいですね

 以上、会社法第23条の2について少し考えてきましたが、難しい条文ですね。そのため、同条の適用については、個別具体的な事案で慎重に検討することが大切だと思います。

 

 

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法人格否認の法理

 

1 聞いたことがあるような名称

 会社法を勉強していて、直ぐに名称を覚えることができるものもあります。その一つが法人格否認の法理だと思います。

 

 ですが、法人格否認の法理って何でしょうか。よくよく考えてみると、意外と難しいですよね。そこで、今回は法人格否認の法理について少し考えてみたいと思います。

 

 

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2 法人格否認の法理とは?

 そもそも、法律上の「人」には、二つの存在があります。一つは、自然人としての人です。そして、もう一つは、法人です。

 

 自然人であるかどうかについては、出生したかどうか、死亡したかどうかによって決まります。つまり、生まれてから死ぬまでの間の人を自然人と言います。

 他方、法人とは何でしょうか。法人というのは、一定の目的のために法の手続に則って設立される組織体をいいます。そのため、法人の実態をもっていたとしても、法の手続に則って設立された組織体でなければ、法人とは言えず、権利能力なき社団になります(準則主義)。

 

 法人は、法律上の権利義務の主体として扱われることになります。そのため、法人であるか否かは、法律を適用できるか否かの一つのメルクマールになります。ゆえに、法人にのみ認められる自然人とは異なるメリットも存在します。

 

 また、自然人と法人は区別されるため、例えば、法人である株式会社が倒産した場合であっても、自然人である代表取締役が自己破産を必然的にしなくてはいけないということにはなりません。あくまでも株式会社と代表取締役は別人格であるため、直結する話ではありません。

 

 (しかし、実際のところ、中小企業で会社が倒産する場合には、代表取締役が連帯保証人になっていることが多いため、芋づる式に自己破産になるケースは多いです。)

 

 このように、法人と自然人は別ものだとしても、世の中では、責任を免れるために法人格が濫用されている場合や形骸化して中身がない場合があります。このような場合に、個別具体的な事案に限って、法人格を否認して、その背後にいる者への責任追及を可能にするのが法人格否認の法理です。

 

 つまり、簡単に言うと、法人格否認の法理とは、方便として法人格を盾にしている者のその盾を取り上げて、その者に対する責任追及を可能にしてしまうという法理です。

 

3 判例は?

 法人格否認の法律については、判例(最判昭和44年2月27日民集23巻2号511頁)は以下のように判示しています。

 

「法人格の付与は、社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法技術に基づいて行われるものなのである。従って、法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。」と判示しました。

 

 

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4 実際に裁判ではどういうことが問題になるの?

 実際の裁判などでは、例えば、原告がAという自然人に対して、借りたお金を返せと貸金返還請求訴訟を提起した場合で、Aが「借りたのは私ではなく、B会社だ。」と主張したとします。AがB会社の代表者で、実際には、Aが一人で事業執行しており、個人事業主と全く変わらないような実態だったとします。そして、訴訟が提起されて、AがB会社のめぼしい財産を全部Aに移してしまって、借りたのは資産が全くないだとB会社だと主張することがあります。このような場合に、盾になっているB会社の法人格が形骸化しているないしは濫用されているとして、B会社の法人格を否認して、AとB会社を同一のものと扱い、Aに対する請求を認めるのが法人格否認の法理です。

 

 この場合、詐害行為取消権(民法第424条)を使う方法などもありますが、ケースバイケースで妥当な方法を選択し問題解決をすることが大切です。

 

 

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議決権行使の代理人の資格制限。会社法第310条第1項の話

 

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1 株主総会の議決権行使

 会社法を勉強していて、株主総会はかなり重要なところですよね。各種資格試験などでもよく出題されますが、実際に勉強していくとよく分かるような気もするし、あまりよく分からないような気もする。そんな判然としない気持ちになることもあるかと思います。

 

 今回は、株主総会の議決権行使についての代理人の資格制限の話を少し考えてみたいと思います。これ自体は頻出の問題ですが、勘違いしやすい部分も含んでいるので、注意が必要です。

 

2 代理人による行使

 まず、会社法第310条第1項は以下のように規定しています。

「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。」と規定しています。

 

 つまり、議決権行使については、株主は原則代理人に議決権を行使させることができます。

 

 そもそも、議決権は、会社の所有者たる株主が株主総会の決議により会社経営に参加することを保障する権利であるため、株式の根幹的な権利の一つに位置付けられます。このような重要な権利である議決権の行使の機会を幅広く認める必要があるのは当然であることから、会社法第310条第1項が規定されていると考えられます。

 

 もっとも、現代においては総会屋が減ってきているので、そこまで重視すべきかについては疑問にも思えますが、代理人資格を無制限に認めてしまうと、株主総会自体の運営がままならい自体も想定されます。

 

 そこで、多く用いられる手法としては、代理人資格を株主に制限する旨の定款規定を置くことです。

 このような定款規定が、会社法第310条第1項に違反するかどうかが問題になります。

 

 この点について判例(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)は、以下のように判示しました。

 現行法上の会社法第310条第1項に相当する条文について、議決権行使の代理人資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、「定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論Yの定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができる」と判示し、結局のところ、係る定款規定は違法ではないと判示しました。

 

 

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3 注意が必要なこと

 ここで注意が必要なのはこの判例はあくまでも、定款が違法ではないと判示したにとどまるという点です。

 

 つまり、個別の事案で、株主が法人でその従業員が議決権を行使する場合、顧問弁護士が議決権を行使する場合、株主の息子が父親に代わって議決権を行使する場合等に、定款規定に従って、議決権の行使を拒むことが適法か否かについては、定款を個別具体的に検討する必要があります。

 

 すなわち、この問題は、議決権行使の代理人資格制限を内容とする定款自体の適法性の問題と、個別具体的な事案で、当該定款を適用して議決権行使を拒むことの適法性の問題と二つの問題が含まれます。

 

 その上で、議決権行使を拒むことが、会社法第310条第1項に違反する場合であれば、株主総会決議取消事由該当性をさらに検討することとなります。

 そのため、問題の所在をしっかりと整理した上で、個別具体的な事案を検討することが大切です。

 

 

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取締役会の決議が必要な重要な財産の処分。会社法第362条4項1号の話

 

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1 はじめに

 会社を勉強していくと、株式の章を超えて機関の章に入ると何だか疲れてきますよね。株主総会、取締役、監査役等々登場人物が増えることに比例して、覚えることもたくさん出てきます。

 今回は、よく試験で出題されるけれども、いまいちよく分からない取締役会の決議が必要な重要な財産の処分について少し考えてみたいと思います。

 

2 重要な財産の処分

 そもそも、会社法上、取締役会設置会社の場合、業務執行の意思決定機関を取締役会としています。その上で、取締役、特に代表取締役は、会社を代表して業務執行を行うことになります。

 

 つまり、イメージとしては、取締役会が意思決定機関で、取締役が業務執行機関ということができます。また、取締役が業務執行をする上で、細部に渡って取締役会が決定しなければならないとすると、会社の円滑な事業執行に支障が生じます。また、事前にそのような細部の事情を決めること自体、無理難題を伴う場合も多いです。そのため、取締役は事業執行をするに当たって、自らの判断で決めて行うことができます。

 

 その上で、本来業務執行としての対外的な取引行為であっても、会社に与える影響が大きい事柄については、取締役の独断に任せるべきではなく、話し合って決める必要があるため、取締役会が決めるべきであるとされる事柄が法定されています。その例が、ここで問題となる重要な財産の処分です。

 

 会社法第362条第4項柱書は、「取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。」と規定し、第1号で「重要な財産の処分及び譲受け」と規定しています。

 

 

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3 判例

 では、ここで言う「重要な財産の処分」とはどのようなものをいうのでしょうか。この点について判例(最判平成6年1月20日民集48巻1号1頁)は、以下のように判示しました。

 

 「重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取り扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。」と判示しました。

 

 この基準自体は、非常に有名ですが、実際にどのようなことを意味しているのか少し分かりにくいですよね。

 そこで、①当該財産の価額、②その会社の総資産に占める割合、③当該財産の保有目的、④処分行為の態様、⑤会社における従来の取り扱いについて少し検討しようと思います。

 

4 検討

 ①当該財産の価額とは、その名の通り財産の経済的な評価額です。会社の規模や資産状況は会社によって異なるため、この要素が決め手になることはあまり多くありません。

 

 ②その会社の総資産に占める割合いについては、①を前提として、会社の総資産においてどの程度の割合になるかが考慮要素となります。ここで重要なのは、3割、5割というような相当割合を占めていることはもちろんのこと、実務上は1パーセント程度で割合としては十分に考慮に値すると考えられています。

 

 ③当該財産の保有目的としては、会社の事業執行との関係で、どのように使用されているのかまたは今後どのように使用するつもりかを踏まえて目的を判断することが重要です。 

 例えば、製造業の会社で工場の敷地として使用されている土地と遊休地となっている土地ではおのずと保有目的に差異があります。

 

 ④処分行為の態様としては、大きくは売買か贈与かに区別することができますが、たとえ売買であっても、対価的均衡のない低廉な価格で譲渡される場合には、贈与に近いものと考えるのが適切です。

 

 ⑤会社における従来の取り扱いについては、最も勘違いをされやすい要素ですが、この従来の取り扱いは、処分財産の従来の取り扱いではありません。会社で従来財産を処分する場合にどのような取り扱いされてきたかという意味です。

 例えば、1000万円以上の財産を譲渡する場合には、取締役会の承認決議が必要だという慣行が内部に存在するなどです。

 基本的には、①から④までを検討してきて、⑤で当該慣行があり、従来から1000万円以上の財産を譲渡する場合には、取締役会の承認決議が必要だとされてきたのだから、今回1500万円の土地を売却することは、「重要な財産の処分」に当たる。というような検討になります。

 

5 結局のところ

 個別要素ごとに色々と考えてきましたが、結局のところは、総合考慮ということになります。しかし、総合考慮をする上で、各要素がどのような意味を持っているのかしっかりと押さえておくことが大切です。

 

 

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会社法28条2号。財産引受けの話

 

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  法律を勉強していると何だか具体的なイメージが湧きにくい法律ってありますよね。その一つが会社法だと思います。

 

 例えば、民法の場合、私人間の法律行為を規律することを目的の一つとしているため、売買、債務不履行、所有権、抵当権、不法行為、親権など普段生活をしていれば聞いたことがあるような名称がよく登場しその具体的なイメージも湧くことができます。

 ところが、会社法の場合、機関や役員、新株予約権、持分会社など普段あまり聞きなれない言葉が出てきます。

 

 また、株式、株主総会、取締役などのニュース等で聞いたことがある名称であっても、会社法上どのような概念であるか的確に捉えることが難しいものもあります。

 今回は、そのような中でも財産引受けについて少し考えてみたいと思います。

 

 

1   財産引受けの話

 財産引受けについては、会社法28条2号に規定されています。

 会社法28条柱書きは、「株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。」と規定しています。

 

 そして、第2号では、「株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称」と規定しています。

 これが財産引受けです。

 

 と!言っても、正直何言っているのかよく分かりませんよね。

 

 株式会社を設立する人を発起人と言います。発起人は会社を設立するために色々な行為をします。例えば、会社の本店所在地を決めたり、設立するために登記申請をしたりと大忙しです。

 

 ところが、発起人は会社のためにあらゆる行為ができるわけではありません。例えば、会社が設立されていない以上、事業執行をしたりすることはできませんし、営業準備行為についても行うことができるかどうか争いがあります。

 財産引受けは、営業準備行為に該当しますが、定款等に記載がない場合には、無効となります。その趣旨は、会社財産の不当な流失を防ぐためだと一般的に言われています。

 

 例えば、本来1000万円の価値しかない土地を5000万円で買ってしまうと、単純に考えて、会社は4000万円損をすることになってしまいます。このような取引自体が定款に記載されず、検査役の調査を潜脱することになってしまうと、正に会社財産の不当な流失を招来してしまうことになります。

 

 

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2  判例

 このように定款等に記載のない財産引受けが無効だとして追認の余地はないのでしょうか。

 

 この点、判例(最判昭和61年9月11日)は、以下のように判示しました。

本件営業譲渡契約が、定款等に記載がない財産引受けであることを前提に、「本件営業譲渡契約は、何人との関係においても常に無効であって、設立後のY会社が追認したとしても、あるいはY会社が譲渡代金債務の一部を履行し、譲り受けた目的物について使用若しくは消費、収益、処分又は権利の行使などしたとしても、これによって有効となりうるものではないと解すべきである」と判示しました。

 

 つまり、定款等に記載のない財産引受けは絶対的に無効ということになります。その上で、判例は、特段の事情がある場合に、信義則上無効を主張することができない場合があることを示唆しました。

 

3   若干の検討

 この点については、色々な考え方があります。一つの考え方としては、そもそも、日本の会社の場合、発起人がその後の取締役になるケースが多いです。会社法は、検査役の選任などを法定しており、追認を認めてしまうと、面倒な検査役の選任申立てや調査が潜脱され、追認をすることが常態になってしまい、検査役制度自体が形骸化されることを考慮して、絶対的に無効が妥当であるとの考え方です。

 

 現行法上、設立制度全体を見ると、絶対的に無効としつつ、個別事案で、信義則による無効主張を制限する方法は妥当だと思われます。

 

 

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