5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

 誤想防衛。勘違いは許されない?

 勘違いはだれにでもあることです。「俺は、できるビジネスマンだ。まぁ周りも俺のことをイケてるということは知っていると思うけど、あえて謙虚に振る舞う俺は、すごく最高」とか思っている人が、実は、上司や同僚からは「仕事もしないのに鏡ばかり見て、本当に邪魔だな。声は大きいけど何を言っているのかわからない残念なやつ」と陰口を言われているかもしれません。

 

 また、気になる職場の女の子に「今度、是非ご飯行きましょう」と言われて、「おっ!俺に気があるな!モテルって本当につらい」とか思っていたら、女の子には婚約者がいて、ただの社交辞令だったとか。

 

 ある意味本当につらいです。

 

 ですが、道を歩いていて、チンピラに絡まれていると思ったら、実は単にアンケートの協力依頼だったにもかかわらず、相手を殴ってしまった場合はどうでしょうか。相手が怪我をすれば、客観的に見れば傷害罪(刑法204条)に当たります。

 

 ですが、そのアンケートを依頼してきた人がすごく体格が大きく、筋肉モリモリでドスの聞いた声で、「あんちゃん。早くやれや。はやく」的な感じで言ってきたらどう思いますか。 

 

 怖いですよね。「早くやらない」と、「はい。少ししか入っていませんが」と私だったらお財布を渡してしまいます。

 しかし、勇敢な人は殴り返すかもしれませんね。

 

 このようなアンケートの依頼といっても、様々な状況があります。

脅されていると勘違いして、防衛行為として殴った場合には、犯罪の成立が否定されることはないのでしょうか。そこで、今回は、誤想防衛という勘違い事例について検討したいと思います。

 

 故意のお話

 刑法上規定されている犯罪には、故意犯と過失犯というものがあります。

では、故意とは、何でしょうか。

 故意とは、自分のやっていることが犯罪だと認識していることです。これを細分化すると、生の事実の認識、構成要件該当性の認識ということになります。この二つが故意の内容であることについては、争いがありません。

 具体的にいうと、「人を殴ること」を認識している。これが生の事実の認識です。そして、「人を殴ることが暴行罪あるいは怪我をすれば傷害罪に該当すること」を認識していることが、構成要件該当性の認識です。

 

 と!難しく言っているのですが、簡単にいうと、自分が今何をしていて、それが犯罪だと知っていれば、故意が原則認められることになります。

 なので、人を殴っているのに今自分が何をしているのかわからないということはほとんどないです。また、それが「暴行あるいは傷害になるな」と思わない人はなかなかいないですよね。

 そのため、原則、人を殴れば故意があることになります。

 

 違法性の意識可能性

 ですが、生きていれば殴ることについて悪いと思わないケースもあります。例えば、相手が殴りかかってきたり、ナイフで脅してきた場合です。このような侵害行為がある場合には、殴り返したとしても正当防衛(刑法36条1項)となり、犯罪が成立しないことになります。

 

 では、このような侵害行為がなかったのに、「殴られている」あるいは「脅されている」と勘違いして、殴り返した場合は、どうでしょうか。頭なの中の状態は、正当防衛の時と同様ですよね。

 

 このような場合に、殴ることが悪い事だとは思わない。すなわち、違法性の意識が欠如している場合もあります。このような違法性の意識が欠如している場合に犯罪は成立するのでしょうか。

 

 学説や判例の考え方

 多く学説や判例では、違法性の意識がない場合でも、犯罪は成立するとしています。この結論は、個人的には正しいと思います。

というのも、「ねぇねぇ」と話かけた時に、相手がおっちょこちょいでいきなり殴り掛かってきたらたまったものではありません。そのため、勘違いした人を直ちに、無罪放免とするのは一般感覚からも大きくずれます。

 なので、違法性の意識がない場合について、即座に無罪放免とするべきではありません。

 

 しかし、場合によっては犯罪を成立させることに躊躇する場面もあります。例えば、冒頭の例で、チンピラ風の強面の人が、ドスの聞いた声で、「あんちゃん。早くやれや。はやく」と言ってきた場合にはどうでしょうか。強面の人は、強要しているつもりも脅迫しているつもりも全くなくても、勘違いしちゃいますよね。このようなケースでは、殴ることが正当防衛であると思ってもやむを得ないような気がします(認定者によって個人差もありますが)。

 

 このようなやむを得ない状況、言い換えると、違法性の意識の可能性がない場合にも犯罪は成立するのでしょうか。ここでは、学説が非常に強く対立しています。

 

 一つの学説では、違法性の意識可能性は、故意の内容として必要なものであり、違法性の意識の可能性がない場合には、故意が認められず、単なる暴行であれば、犯罪は成立しないことになります。もっとも、相手が怪我をすれば、過失傷害罪(刑法209条:30万円以下の罰金又は科料になります)が成立する可能性はあります。

 

 他方、学説の中では、違法性の意識可能性は、故意の内容ではなく、責任阻却事由とする見解があります。

 責任阻却事由と難しい言葉を使っているのですが、要は、違法性の意識可能性がない場合には、そもそも、犯罪者としての責任を負う立場にないので、犯罪自体が成立しません。つまり、過失傷害罪も成立しません。

 

 以上が学説の代表的な対立ですが、判例はというとよく分らないというのが本当のところです。判例は、一貫して違法性の意識及びその可能性がないことを理由に故意は否定されないとしいていますが、正当な理由があれば、故意は認められないこともあるというようなざっくりした基準をとっています。

 そのため、ケースバイケースで故意が認定されたり、否定されたりするので、極論裁判をやってみないとわからないというのが現状です。

 

 総括

 以上のように小難しい話をしてきたのですが、結局のところ勘違いして殴り返した多くのケースでは、そもそも、勘違いした人に落ち度がある場合が多いです。そのため、暴行罪や傷害罪が基本的には成立します。

 

 もっとも、勘違いして人を殴ることと、相手をいためつけてやろうと思い殴る場合では、同列に扱うべきではないと思います。そのため、量刑判断の中で勘違いしたということは、刑を軽くする方向性に働く材料となります。