5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

説明義務違反。不法行為と債務不履行の分かれ目

 

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1 債務不履行って難しい

 民法を勉強していると、よく挙がる条文として、415条があります。民法415条は、債務不履行に基づく損害賠償請求の根拠条文です。債務不履行という言葉自体、法律を勉強していなくても聞いたことがあり、なんだか馴染みやすい感じがありますよね。

 

 しかし、実際のところ、債務不履行といっても債務の内容を確定することが困難な場合や、不法行為との境目がよく分からないケースもあります。そのため、債務不履行に基づく損害賠償請求と一言でいってもよく分からない問題があります。

 

 そこで、今回はそのような問題の一つである説明義務違反について少し考えみたいと思います。

 

2 説明義務違反

 例えば、マンションを購入する際に、売買の目的物となっているマンションがどのようなマンションか説明しますよね。「そりゃ当たり前だろ!」と言う人もいると思います。

 

 そうです。「当たり前です」。

 

 つまり、売買をするときに、その物がどういう物か分からなかったら、買う人はその物を買いませんよね。他方、売主からすると、売る物を高く売りたいので、魅力的に見せたいと思いますよね。

 

 そのため、売買の目的物について売主は色々な説明をします。

 

 例えば、「このマンションは眺望がすばらしいですよね。ほら見て下さい。こんな素晴らしい眺めを毎日見れるなんて、生活が本当に豊かになります。この先10年以上、ずっと近隣に高層ビルは建ちません。なので、ずっと快適に過ごせます。」と説明します。

(まぁ、私の説明だとそんなに魅力的に見えないかもしれませんが。。。。)

 

 他方、「このマンションは防火対策がしっかりしています。なので、火災が起きても安心です」という機能面に関する説明もします。

  

 このように色々な説明がありますよね。ところが、マンションを購入して1年後に購入したマンションの前に高層ビルが建って眺望が最悪になったらどう思いますか。

 

 「話が違うよ」って思いますよね。

 

 また、防火対策がしっかりしていても、防火扉の使い方を説明されておらず、実際に火災が起きた時に、防火扉のスイッチを入れることができず、全焼してしまった場合は、どうでしょうか。

 

 これまた「話が違うよ」って思いますよね。

 

 そうです。両方とも「話が違うよ」です。

 

 しかし、これらはいずれも契約締結前の説明が問題になっています。そのため、このような説明義務違反を債務不履行として、これに基づき損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 この問題の手掛かりになるのが、最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)です。

 

 

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 3 最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)

 この問題につき、同判決は以下のような判示をしました。

 契約を締結した一方当事者が「当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない」と判示しました。

 

 その上で、契約の一方当事者が説明義務に違反して本来締結しなかった契約を締結し、損害を被った場合には、「締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるといわざるを得ない」と判示しました。

 

 一見非常に難しい事を言っているように見えますよね。しかし、そこまで難しい話ではありません。

 

 そもそも、債務不履行とは、契約によって生じた義務が履行されないことを言います。そのため、契約があって、それを前提として義務が生じます。

 

 ところが、契約をするか否かに関する情報を提供する説明の場合には、その説明義務とは、契約を前提として生じるものではありません。

 

 先の例でいえば、「この先ずっと眺望が良いです」という説明については、この先ずっと眺望が良いいからこのマンションを買うという、物を買う動機に関わる部分であって、売買契約を締結するかどうかを決める情報に過ぎません。

 

 高層マンションが近くに立ってしまいこのような説明が真実と異なり説明義務違反がある場合であっても不法行為になることはあり得ても、債務不履行になることはありません。

 

 他方、防火扉の説明についてはどうでしょうか。この場合、マンションや家を購入した際に、防火扉の使い方が説明されないと、非常に困りますよね。このような防火扉の使い方は、買った後にマンションを使う際に必要な情報であるため、売買契約に基づいて係る説明をすべき義務があることになります。

 

 そのため、係る防火扉に関する説明は、契約を前提とした義務です。ゆえに、これに違反する場合には、債務不履行になります。

 

4 どうでも良い議論では?

 一見このような議論は、すごくどうでもよい議論に思いますよね。しかし、これ意外に重要です。

 

 不法行為の場合は、新民法が施行されていない今では、時効期間が3年ですが債務不履行の場合は10年です。

 

 そのため、説明義務違反がありこれを知った時に、3年を経過してしまっている場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求しかできないので、説明義務違反が債務不履行となるのか不法行為になるのかは非常に重要な問題になります。

 

 したがって、細かい議論ですが、とても重要な問題だと言えます。

 

 

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