5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

詐害事業譲渡!会社法第23条の2の債務履行請求

 

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1 最近改正されましたね

  会社法の改正は頻繁に行われていますが、最近改正された条項の中でも会社法23条の2の債務履行請求は非常に重要ですよね。判例法理として詐害行為取消しで解決していた問題を立法によって明文化することになったのですが、実際に使い方を考えてみるといまいちよく分からない条文でもあります。そこで、今回は、会社法23条の2の債務履行請求について少し考えてみたいと思います。

 

2 その内容は?

  まず、条文から見てみると、会社法第23条の2は以下のように規定しています。

 

 第1項「譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。」

 

 第2項「譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から二十年を経過したときも、同様とする。

 

 第3項「譲受会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。」

 

 長い条文ですね。簡単にいう、詐害的な事業譲渡がなされた場合には、従来の判例では、詐害行為取消権の行使を認めてきました。

 

 主に問題となっていた事案としては、詐害的な会社分割と事業譲渡があります。類型として、債務を免れるために、会社を設立して、新設分割の手法により資産を承継させるものや、既にある会社に対して、事業譲渡の方法により事業を承継させるものなどがあります。

 

 形式的に考えると、債務者である譲渡会社が債務を負い続ける以上不都合がないようにも思いますが、実質的に考えれば、目ぼしい資産が譲渡会社になく、債権回収が著しく困難になってしまいます。このような構図は詐害行為の場合と同様であり、改正により譲受会社に対しても、債務の履行請求が可能になりました。

 

 

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3 少し注意したいこと

 この会社法第23条の2の請求についていくつか注意が必要なことがあります。

(1)転得者が対象になっていなこと

 詐害行為取消権の場合、転得者に対しても価額賠償請求をすることができます。しかし、会社法第23条の2の場合、対象が譲受会社に限定されています。そのため、事業が譲受会社から第三者に移転した場合に、転得者に対しては、詐害行為取消権に基づき価額賠償請求をすることになります。 

 

 余談ですが、この場合、転得者に対する価額賠償の額の算定が難しい場合もあると思います。例えば、譲渡会社から譲受会社に事業譲渡されて、譲受会社が事業を成長させて事業価値を上げた場合に、価額をいくらとすべきか、また立証も難しいのではないかと思います。

 

(2)詐害性について

 詐害性については、いわゆる無資力が重要な要素となります。ここで、事業譲渡された時の対価として、譲受会社の子会社の株式等が対価として交付され、その評価額を考慮すると無資力といえないような事態も生じます。しかし、子会社の株式が譲渡制限されて、市場に出回ることがないような株式の場合には、売却することが難しく、事業からそのような株式に資産交換する場合であっても、詐害性が認定されることもあります。

 そのため、詐害性については慎重な検討をする必要があります。

 

(3)競合した場合

 会社債権者が一人ということはまずありえません。そのため、残存債権者が複数いることも多いです。この場合、Aという残存債権者が、会社法第23条の2に基づく債務履行請求を譲受会社して、譲受会社が支払いをした後、Bという残存債権者が、会社法第23条の2に基づく債務履行請求を譲受会社にした場合に、譲受会社に支払い義務が生じるか問題となります。

 

 この点については、条文上明示されていませんが、会社法第23条の2第1項で「承継した財産の価額を限度として」と規定されているので、Aに対する支払いによって、「承継した財産の価額」を満額支払ったならば、譲受会社の責任はなくなると考えるのが素直な気がします。

 

4 難しいですね

 以上、会社法第23条の2について少し考えてきましたが、難しい条文ですね。そのため、同条の適用については、個別具体的な事案で慎重に検討することが大切だと思います。

 

 

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