5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

債務不履行における医師の過失。要求される医療水準とは?

1 医療過誤発生

 医療事件は訴訟の中でも難しいと言われますが、患者からしたらそんなことはどうでもいいですよね。正直、「医師は医療のスペシャリストである以上、失敗はしないのが当たり前」というような感覚があると思います。医者の医療ミスで病気が悪化したり、病気が治るのが遅くなったりした場合、それに見合った損害賠償をして欲しいと思うのが当然の感情だと思います。

 

 しかし、医療は日々進化しています。そのような医療技術の中で、リスクがある治療を時として選ばなくてはならず、それを選択したがために、病気が悪化したとしても、損害賠償をされなくてもやむを得ない場面もあり得るかもしれません。

 

 他方、何十年も前から当たり前にある医療行為、例えば、採血などをする場合で血管を傷つけてしまい麻痺が残ったようなケースでは、損害賠償されてしかるべきだと考える方が多いと思います。

 

 では、このような医療ミスの判断はどのように行われるのでしょうか。今回は、医療ミスの判断基準を少し考えてみたいと思います。

 

 2 医療ミスの基本的な判例

 まず、治療などを受ける場合、通常病院との間で契約を締結します。この契約に基づいて、医師が負うことになる債務とは、最善を尽くす義務です。つまり、医師は、病気を治す義務ではなく、あくまでも最善を尽くす義務しか負わないのです。そのため、病気が治らなかったことだけを以て、医師の債務不履行とすることはできません。

 ではどのような場合に債務不履行となるのでしょうか。

 

 この点、最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁が判示しています。

まず、医師の過失の基準とし「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。」と述べました。

 

その上で、「専門的研究者の間でその有効性と安全性が是認された新規の治療法が普及するには一定の時間を要し、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性、医師の専門分野等によってその普及に要する時間に差異があり、その知見の普及に要する時間と実施のための技術・設備等の普及に要する時間との間にも差異がある」と述べています。

 

 そして、「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうか決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべき」であるとしています。

 

さらに続けて、すべての医療機関の医療水準を同一に考えることはできず、「新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準である」。と判示しました。

 

その上で、「当該医療機関としてはその履行補助者である医師等に右知見を獲得させておくべきであって、仮に、履行補助者である医師等が右知見を有しないかったために、右医療機関が右治療法を実施せず、又は実施可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかったために患者に損害を与える場合には、当該医療機関は、診療契約に基づく債務不履行責任を負う」と判示しました。

 

 3 医療の地方格差の容認回避

 注意が必要なのは、この判例を基準に考えると例えば、山奥の診療所と都会の最先端を扱う大学病院では求められる水準に差異が生じるといことです。この例で差異が起きるのはやむを得ないとは思います。

 

 しかし、この論理を拡大していくと、地方と都会で医療を受けた場合の医療水準の格差を容認するような方向にもなりかねません。そのため、過度に地域格差を強調すべきではなく、原則的には、医療水準は全国一律に解釈しつつ、例外的に、個別事情を取り込んでいくような運用が望ましいと思います。