最近、不倫の問題が世間で話題にのぼることが多くなってきました。議員から芸能人まで不倫!不倫!不倫!
協会で神父さんの前で、永遠の愛を誓ったのに数年経てばどこかに行ってしまいます。
ですが、不倫にも内容があります。夫婦関係が破綻している時に、理想的な女性と出会い何十年もその後の人生を一緒に過ごすケースから、ちょっとした遊び心で愛人として付き合うケースなど色々あります。
どちらも、婚姻関係が形式上存続している以上、個人的には好ましい事ではないと思います。ですが、内縁の妻には相続権がなく、不倫相手に遺産を相続させるために、遺言をすることが多いです。
この場合、遺言は常に有効と言えるのでしょうか。例えば、愛人に全部の遺産を相続させるような遺言が有効だとすると、法律上の配偶者や子供は納得できるでしょうか。
今回は、このような不倫相手への遺言が公序良俗に違反し、無効となるか検討したと思います。
そもそも公序良俗違反とは?
まず、民法90条を見てみましょう。民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と規定しています。
簡単にいうと、社会的に悪い行為があります。例えば、賭け麻雀や愛人契約、暴利行為は、反社会性が強い行為です。このような行為を内容目的とする法律行為を有効としてしまいますと、みんな法律を守ろうとしなくなり、ある種のカオス状態になってしまいます。
そのため、賭け麻雀のためにお金を貸す契約、愛人となることを目的とする金銭の贈与、10日で1割の利息を付ける利息契約・消費貸借契約を無効として、みんなが法律を守り良い社会をつくるために、設けられたのが民法90条の公序良俗違反です。
不倫相手への遺言
では、不倫相手に遺産を相続させる遺言をすると公序良俗に違反することになるのでしょうか。
実は、ただちに違反することにはなりません。
というのも、冒頭で申し上げた通り、不倫にも色々なものがあります。例えば、若い時に結婚して数年で別居し、30代前半で新しいパートナーを見つけて、この前還暦を迎えましたというケースから、金持ちが愛人を作ってやりたい放題やっていたというケースもあります。
「不倫」と一言でいってもその内容は様々なものがあり、みんなが見たときに、「仕方ないよね」と言えるものから、「最低だな」と言えるものまで様々です。
そのため、不倫相手に遺産を残すために遺言をしても、これが公序良俗に違反するかはケースバイケースです。
ですが、一つの指針となるのが、最判昭和61年11月20日民集40巻7号1167頁です。
この判例では、結論からいうと、不倫相手に遺産を相続させる遺言は、公序良俗に違反せず、有効としています。
この判例の評価には色々ありますが、有効と結論付けるに至った理由はいくつかあります。
まず、別居期間です。この判例では、別居してから死亡するまでに10年程度ありました。別居期間が長いことは、夫婦関係が実質的に破綻していることを基礎づけるため、長期間になればなるほど、不倫相手への遺言が有効になる方向へ傾きます。
さらに、不倫相手との付き合いは、死亡するまでに概ね継続しており、死亡の前後で関係性が変化していないことが考慮されました。
これは、不倫相手との関係が愛人のような金銭目的の関係ではなく、恋愛関係であることを推認させます。当然、恋愛関係の方が、公序良俗に反しない方向に働きます。
さらに、当時配偶者の相続分は、3分の1でした。この判例では、遺言の内容は、法律上の妻3分の1、不倫相手3分の1、子供3分の1ずつ相続させるものであったため、法律上の妻を殊更に害するものではないとされました。
これらの要素を考慮して、遺言は、公序良俗に違反せず、有効とされました。
(現在では、子供と一緒に相続する場合は2分の1です。)
総括
以上に挙げた要素は、別居期間、不倫相手との関係、相続分の三つです。ですが、この三つが全ていい感じにそろっていないと、公序良俗に反すると言うようなことは決してないと思います。
そもそも、この問題は実質的に考えれば、法律上の妻が夫の死後生活保護を害される危険があるかどうか、不倫という反社会的行為を助成するような行為を有効にしてよいかという点にあります。
そうだとすると、別居して30年経過していて、金銭的な援助を法律上の妻に生前しておらず、法律上の妻が独立して生計を維持している場合であれば、相続人である妻の生活保護を考慮すべき必要性はないと思います。
また、別居してから30年経過している場合には、不倫が反社会的行為といえるかも微妙ですよね。
そのため、このようなケースでは、遺産を不倫相手である内縁の妻にすべて残すというような遺言をしても、公序良俗に反さず、有効になると考えても良いのではないでしょうか。
現在、遺言の内容をどのようにすべきか考えている人は、別居期間、不倫相手(内縁の妻)との関係、相続分(相続人の生活保護の程度)を具体的に検討してみることが大切です。