5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

その発言。本当に脅迫罪になりますか?

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 最近テレビや新聞などで、政治家の発言に物議が起こっています。「このハゲー」や、ミュージカル風に暴言を吐き秘書を叱っている姿は、新手のホラー映画のワンシーンみたいですね。

 

怖いです!

 

 ですが、この議員の発言自体は、脅迫罪にならない可能性が高いそうです。では、なぜこのような暴言が脅迫罪にならないのでしょうか。今回は、どのような場合に脅迫罪が成立するのか検討してみたいと思います。

 

 脅迫罪の成立要件

 そもそも、脅迫罪は、刑法222条に規定されています。まずは、条文を見てみましょう。

 

 刑法222条第1項では、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」と規定しています。

また、同条第2項では、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、同様とする」と規定しています。

 

 なるほどよく分らない条文ですね。

 

 具体的に検討してみましょう。まず、脅迫罪の相手は、自分又は「親族」だということが分かりました。

そのため、「お前の彼女を痛めつけてやる!」や「お前の友達を殴ってやる!」的な発言をしても、自分又は親族ではないため、発言者に脅迫罪は成立しません。

 

*ちなみ、親族とは、自身から見て6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(配偶者の血族で親子、孫、兄弟、甥、姪、祖父母等)を法律的には指します(民法725条参照)。 

そのため、例えば、自分の母親や、子供に危害を加える旨の発言は、脅迫罪に当たる可能性があるのは当然だとして、それだけでなく、配偶者の父親や配偶者の兄弟に対して危害を加える旨の発言は、脅迫罪に当たる可能性があります。

 

 余談ですが、自分の娘が嫁いで、嫁いだ先の親と自分が親族関係になると思っている方がいます。これは一般的な感覚だと正しいと思います。ですが、法律的にみるとそうではありません。娘の嫁ぎ先の親と、娘の親である自分自身とは親族関係は形成されません。そのため、扶養義務などは生じません。当然、相続権もありません。

 

 では、発言の相手がわかったとして、どのようなことを発言すれば脅迫罪になるのでしょうか。

 条文には、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」と書いてありますが、これを一般的に「害悪の告知」と呼びます。具体的に検討します。

 

 「生命」に対する害悪の告知とは、いわゆる殺害予告です。また、「身体」に対する害悪の告知とは、「ぶん殴るぞ!」的な暴行をする旨の内容です。

 

「自由」に対する害悪の告知とは「今から君を監禁しちゃうよ」的な発言です。「名誉」に対する害悪の告知とは、「お前が不倫していることをばらすぞ」的な形で、不名誉な事実を公開する旨の発言が当たります。また、「財産」に対する害悪の告知とは、「お前の持っている車に放火するぞ」などの発言が当たります。

 

 なお、脅迫罪は、これらの発言をした時点で成立する犯罪です。難しい言葉でいうと、抽象的危険犯です。しかし、このような名称はぶっちゃけどうでもいいので覚えなくて全然大丈夫です。

それよりも、重要なのは、このような脅迫罪に当たる発言をした上で、人に何らかの行為をするように命じた場合には、強要罪が成立します(刑法223条)。そして、お金を要求すれば、恐喝罪(刑法249条)。程度がひどい場合には、強盗罪(刑法236条)に当たります。

 

 つまり、脅迫罪に当たる発言をして何らかのプラスアルファーの行動を起こすと、重い犯罪が成立します。つまり、刑法では、基本的な犯罪類型を設定しておいて、他に反社会的な行動があれば重い犯罪として規定しています。

 

そのため、犯罪を考えるときには、基本的な犯罪は何か、その上で、どのような反社会的な行動があるときにどのような重い犯罪が成立するのかを考えることがとても有益になると思います。

 

 本線に戻ります。では、「害悪の告知」とはいかなるものであってもよいのでしょうか。この点については、少し微妙なケースもあります。そもそも、脅迫罪は、個人の意思決定の自由が害されることを抑止するための犯罪規定です。

 

そのため、一般人の意思決定に影響が与えられない場合、すなわち、一般人が発言を受けても畏怖しないものであれば、殊更罰する必要がないことになります。そのため、害悪の告知と言えるためには、一般人が畏怖を覚える程度の内容であることが必要になります。

 また、「君を殴る」「君を蹴る」というような直接的な表現をしなくても、はっきり意味がわかる場合には、一般人が畏怖を覚える程度であるため、脅迫罪が成立します。

 

 と!抽象的な話をしても仕方がないので、具体的に検討します。

 

 まず、広島高松江支判昭和25年7月3日高刑3・2・247では「人民政府ができた暁には人民裁判によって断頭台上で裁かれる」という発言が、脅迫罪に当たらないとされました。

「人民政府」?よく意味が分かりませんが、今はやりの忖度をすると、日本が中国みたいになったらという意味でしょうか?日本が中国みたいな国家体制になったら、君はギロチンで処刑されちゃうぞ。とう意味の発言ですかね。これを言われても、「畏怖」は覚えないですよね。なので、「害悪の告知」に当たらず、脅迫罪は成立しないことになります。

 

 逆に、最判昭和35年3月18日刑集14・4・416では、村の中で対立抗争している2つの派閥があり、その一方の中心人物の家に、火事が発生していない時点で、「出火御見舞申上げます。火の元に御用心」という手紙を送った行為に、脅迫罪が成立するとしました。

 火事が起こっていない時点で、「出火御見舞」とか怖いですね。つまり、この発言は対立抗争中であることを前提とすると、「君の家に火をつけますよ」という意味がはっきり分かるので、畏怖を覚えます。そのため、「害悪の告知」となり、脅迫罪が成立することになります。

 

 具体的な検討

 以上を踏まえて、ミュージカル女優の、あいやミュージカル議員の発言が、脅迫罪に当たるか検討します。

 まず、「ハゲー」という発言は、言われた男性は傷つきますよね。すごく悲しいです。ですが、この内容は、危害を加えるような内容ではないので、「害悪の告知」に当たりません。

 また、「お前の~~娘が~~車に~~」とても下品なミュージカルなので、意味を変えずに、要約します。「あなたの娘が、車に跳ねられて死亡してしまった場合に、跳ねた運転手がそのようなつもりはなかったですと発言した場合、それを言われてあなたはその運転手を許せますか」という内容でした。うん!最近のプリクラレベルで美的加工ができました。まぁ、元がひどいのでこれ限界がありますが。

 

 では、この発言はどうでしょうか。この発言は、原則脅迫罪に当たらないです。というのも、この発言は、秘書が議員に叱責されている最中に「そんなつもりはなかったんです」と弁明して、その弁明が気に食わないということを指摘するために、例として、第三者が秘書の娘を跳ねたときに、そんなつもりはありませんでしたと言われて許せますか。許せないですよね。ということを話しているにすぎません。

 

 議員が娘を跳ね飛ばすぞという意味が含まれていないので、「害悪の告知」に当たらず、脅迫罪は成立しません。

 

 もっとも、「私も車持ってるんだよ。あなたの娘は○○学校に通ってて、下校は××の道を通るよね。私明日の下校時間帯、暇だから車で言ってみようかな」的な発言を仮に付け加えたら、めちゃくちゃ怖いですよね。なぜ怖いかというと、先の発言を合わせて全体で読むと、「あなたの娘を跳ねるぞ」という意味になるからです。あくまでも仮定の話ですが、この場合は、脅迫罪が成立することになります。

 

 総括

 以上のように脅迫罪に当たるかどうか、結構微妙―なケースが多いです。なので、常日ごろお話をするときは、私自身発言に気を付けたいと思います。