5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

政治家は、他人の名誉を傷つけても許される?議員の免責特権の話

 前回、政治家のスキャンダル報道と名誉毀損罪との関係につて、記事を書きました(政治家のスキャンダル報道は名誉毀損罪にならないってホント?)。すなわち、前回は私達が政治家批判をした場合やテレビなどのスキャンダル報道がなぜ名誉毀損罪にならないのかとうい観点で検討をしました。

 

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 今回は、逆で、政治家が一般人の名誉を侵害した場合に、法的に責任を追及されることがあるのかどうか検討します。

 

 政治家の発言

 最近でも、政治家の発言は色々と問題になっています。ある議員の秘書に対する暴言や他の議員の「巫女のくせに何だ」というような発言は記憶に新しいですが、仮に国会議員が国会で特定個人について、「あいつは不正受給をした悪党だ」や「あいつは不倫ばかりしている女好き」等の発言をした場合、名誉毀損罪として罪責を負うことや民事上の賠償責任を負うことはあるのでしょうか。

 

 議員の免責特権

 このような発言をした場合、政治的責任をとって辞任する等の可能性はあるのですが、実は法的責任を負わない可能性が高いです。

 その根拠となるのが憲法51条です。憲法51条は、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」と規定しています。

 

 この条文を簡単に説明すると、国会議員は、国民の代表として国民のために様々な法律をつくることを使命としています(実は、党派間の足の引っ張り合いを使命としているわけではないんですね)。

 

 法律をつくる作業というのはかなり大変な作業です。つい先日施行された共謀罪もその制定までにかなりの議論がなされていました(不十分あるいは強行採決とのご指摘もあると思いますが)。法律を制定するに当たっては、自由闊達な議論つまり、本音で色々話合って本当にそのような法律をつくっても良いのかを検討しなければなりません。

 

 なので、本音で話してしまったことから、後で民事刑事上の責任追及がされてしまうと、議員が萎縮してしまって本音トークができず良い法律をつくれません。

 

 そこで、何を話しても後から法的な責任を負わないので安心して議論をして良いという制度を構築する必要があったので、憲法51条が制定されることになりました。これを議員の免責特権と言います。

 

 例外はないの?

 議員の免責特権がある以上、国会議員は何を話しても、原則法的な責任を負わないことになります。しかし、例外的に責任を負うことはないのでしょうか。

 

 この点について見解を示しているのが、最判平成9年9月9日民集51・8・3850です。

 この判例は、国会議員が国会での質疑、演説、討論の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言について、国の損害賠償責任が認められるためには、「当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえて事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする」と述べています。

 

 この判例は、国の責任について述べています。なので、国会議員の個人の責任は定かでないです。しかし、国に対する損害賠償請求(国会賠償請求)と国会議員個人に対する損害賠償請求は別々に裁判所に訴えを起こすことができるのですが(詳しきは下記参照)、ほとんどの場合、国家賠償請求で勝訴できる事案ではないと、国会議員個人に対する損害賠償請求で勝訴するのは不可能に近いです。

 

 そのため、上記の判例が出した基準が国会議員個人に対する損害賠償請求ができるかどうかについても重要な役割りを果たしています。

 

 判例が想定する二つの場面

 一つ目の場面は、「職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示」した場合です。これは通常想定できないと思います。例えば、委員会や国会答弁の冒頭で、「この前私の友人の○○という人が、不倫をしました。いつかやると思っていたのですが、家庭が大変なことになってますよ。さて本題に入りますが・・・・・」というようなことを言った場合ですね。見たことも聞いたこともないし今後も起こらないと思います。

 

 二つ目は、「虚偽であることを知りながらあえて事実を摘示する」というものです。これは一見ありそうですが、多分起こりえないです。というのもこれは単にウソを真実だと信じた場合は除かれています。そのため、完全な捏造等の場合でない限り、この二つ目の場合に該当することはありません。

 

 例えば、「前事務次官は出会い系のお店に通っていた。ああゆうお店は様々な男女の交流があるから、前事務次官もわいせつ目的でお店に通っていたのではないでしょうか」という発言をしても、余裕でセーフです。

 

 というのも、この発言は、出会い系のお店に行っていたことは各種報道等がされ本人も認めていた場合を前提としていますが、そこからありうる想定の話をしているにすぎません。全くの捏造した内容を捏造と知りながらあえて話しているわけではないので、何ら問題ないといえます。

 

 そうだとすると、国会議員が特定個人の名誉を侵害する発言をしたとしても、国及び国会議員個人が法的な責任を負うことはほとんどありえないと言えます。

 

 ですが、政治責任は当然問われるので、問題発言をすれば辞職に追い込まれてしまう場合も当然あります。

 

 将来政治家を目指している方は、やはり発言には気を付けた方が良いみたいです。

 

国賠の性質論と公務員の個人責任

 少し専門的な事なので、あまり面白くありません。そのため、興味のない方は読み飛ばしていただけるとありがたいです。

 

 上記では、国に対する損害賠償請求(国家賠償法1条)と議員個人に対する損害賠償請求(民法709条710条)が併存することを前提にしています。ここは争いがあるところだと思います。そのため、少し検討してみたいと思います。

 

 この問題については、まず国家賠償法の制定趣旨から考えることが大切だと思います。戦前は、国家無答責の原則が前提となっていました。

 

つまり、国家の活動で一般個人が損害を被っても社会的利益を図るために、甘受すべき犠牲だとして、国家は賠償責任を負わないという考えです。ところが、日本国憲法ができたことで、憲法が一番保護すべきものとして個人の尊厳というものが重んじられるようになりました。

 

 少し語弊がありますが、要するに全体主義から個人主義へ転換したわけです。そのため、違法な国家活動によって個人が損害を負ったら、一番大切な個人が傷つけられた以上、国家はしっかり賠償しましょうということが、憲法17条に明記されました。しかし、これはあくまでも「国家は責任を負うべき」ということを明確にしただけで、「公務員個人の賠償責任はありません」ということを宣言したものではありません。

 

 また、性質論については、いわゆる代位責任と自己責任の議論があります。代位責任は、国家が公務員の責任を肩代わりして被害者に責任を負うという意味です。国家賠償法1条の責任を代位責任と考えるならば、公務員個人が責任を負うべきという判断を前提としているため、理論上公務員個人の責任を認めるのに親和的だと言えます。

 

 他方、御存じの通り、民法715条(使用者責任:従業員が第三者に職務執行中に損害を加えた場合に、使用者が責任を負うべきという条文)とは異なり、国家賠償法1条を自己責任と考える見解は結構多いです。

 

 その理由はいくつかありますが、民法715条の責任の場合には、報償責任の法理が直接当てはまりますが、国家は国家活動によって国家自身が利益を受けているわけではないので、報償責任の原理が当てはまらないです。そのため、自己責任という考え方も説得力があると言えます。(もっとも、危険責任の原理を重視するならば、代位責任と解することも当然良いと思います)。

 

 ではどのように考えるのが良いのでしょうか。

 個人的には、原則、公務員個人の賠償責任は否定すべきだと思います。というのも公務員の仕事内容には様々なものがあります。中には、警察官や消防士のように常に危険が存在し、個人に対して損害が生じる可能性があることを前提とした公務もあります。また、民事上の損害賠償責任は軽過失でも責任が認められてしまうので、軽度の過失が公務員にある場合にすべて公務員個人が責任を負うとすると、公務員が自己保身のためにすべき行動は「仕事をしないこと」(萎縮効果)ということになってしまいます。なので、原則、公務員個人の賠償責任は否定すべきだと言えます。

 

 ですが、公務員個人に重大な過失がある場合や故意に違法行為を行った場合については、形式的には公務の体裁をとっていてもその実質は違法な活動だと言わざるを得ないと思います。その場合、実質的に国家のために適切な仕事をしているわけではないので、公務員個人の賠償責任を認めても良いと言えます。これは求償を規定した国家賠償法1条2項とも親和的な解釈だと思います。

 

 上記で扱った判例の想定場面は、「職務とはかかわりなく」という場面と「虚偽であることを知りながら」という場面ですよね。これは公務ではない場合と、故意の場合を想定したものなので、公務員の個人責任が認められる場面だと言えます。

 

 よって、上記で国に対する損害賠償請求と議員に対する損害賠償請求が併存することを前提に書きました。