5分で読める法律の豆知識

テレビや新聞などで政治から芸能スキャンダルまで幅広いニュースを見ます。しかし、法律のことについて詳しく書かれたものはあまりみません。なので自分で勉強してみました。個人的に面白いと思ったものだけ書くのであまり網羅性はありません。なので暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。

債権譲渡。債権の二重譲渡の話

 

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1 民法の二重譲渡

 民法を勉強していると、二重譲渡という言葉が出てきますよね。その代表的なものとしては不動産の二重譲渡が挙げられます。不動産の二重譲渡の場合には、民法177条が対抗要件を定めているため、登記を先に備えた者が不動産の所有権を確定的に取得し、第三者に対して自身が所有者であることを主張することができます。

 

 では、債権の二重譲渡の場合はどうでしょうか。今回は、民法でも分かりにくい債権の二重譲渡の問題について考えてみたいと思います。

 

2 そもそも債権とは?

 まず、そもそも債権とは、ある人がある人に対して作為や不作為を請求することができる権利を言います。

 

 例えば、売買契約を念頭に置くと非常に分かりやすいですが、コンビニでおにぎりを買う売買契約を締結した場合に、私はコンビニに対しておにぎりを渡すように請求する権利を取得することになります。他方、コンビニは私に対してお金を支払うように請求する権利を取得します。

 

 このように回りくどい言い方をするまでもなく、当たり前のように思うかもしれませんが、これがかなり重要です。

 

 債権は原則、対世効を有しません。つまり、私はAというコンビでおにぎりを買ったならAというコンビニにおにぎりを渡すように請求するしかありません。そのため、BやCというコンビニ請求はできません。またAというコンビニも私の親や子供、友人などにお金を支払うように請求することができません。

 

 しかし、コンビニがお金を支払うように請求する権利を第三者に譲渡した場合には、その第三者が、私にお金を支払うように請求することができ、コンビニは債権を譲渡した後は、私にお金を請求することはできません。これが、債権譲渡です。

 

3 債権の二重譲渡の場合

 では、債権の二重譲渡の場合にはどのように考えるのが良いのでしょうか。

 

 この点について、民法467条が規定しています。

 まず、同条項第1項は「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」と規定しています。

 また、同条項第2項は「前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。」と規定しています。

 

 第1項は債務者対抗要件について規定しており、第2項は第三者対抗要件について規定しています。

 

 ここで、重要なのは、民法177条の対抗要件の場合には、公示機能が明確にあります。つまり、だれでも法務局に行けば登記がされているかどうかを確かめることができます。

 

 そのため、登記が二重にされるという問題は生じません。しかし、債権の二重譲渡の場合には、債務者に対して確定日付のある証書で通知等をすることで第三者対抗要件になるとすると、対抗要件が二重になされる状況が生じます。

 

 この場合に、確定日付のある証書の通知が二つある場合に、どちらが優位するのか、言い換えると、適正な対抗要件が競合する場合に、どちらが優位するのかという問題が生じます。

 

 この点ついて、最判昭和49年3月7日(民集28巻2号174頁)が判示しています。

 

 

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4 最判昭和49年3月7日(民集28巻2号174頁)

 まず、同判決は、民法467条1項の趣旨について「債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に対して債務の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権がすでに譲渡されていたとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することによるものである。」とし、

 

「民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無について認識を通じ、右債務者によってそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものというべきである。」と判示しました。

 

 さらに、同判決は、「同条2項が、右通知又は承諾が第三者に対する対抗要件たり得るためには、確定日附ある証書をもってすることを必要としている趣旨は、債務者が第三者に対し債権譲渡のないことを表示したため、第三者がこれに信頼してその債権を譲り受けたのちに譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通謀して譲渡の通知又はその承諾のあった日時を遡らしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解するべき」と判示しました。

 

 その結果、債権が二重譲渡された場合には、「確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時の前後によって決すべきであり、また、確定日附は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。」と判示しました。

 

 

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5 結局どういう事?

 簡潔にいうと、債権譲渡の場合、登記のような公示制度はないものの、債権を譲り受ける人は、通常、債務者に債権の存否などを確認してから、譲り受けるかどうか決めます。そのため、債務者が債権の存否や権利者を把握していれば、適切な債権譲渡が可能になるはずだという発想があります。

 

 また、確定日付の日時自体は、債務者と債権者が共謀して、ごまかすことが可能なため、同日付を基準にすることはできません。

 

 そこで、債務者に到達した時点を基準にすべきだと判示したと言えます。

 

 この問題はかなり簡単な話ですよね。ところが、結構頭の中がごちゃごちゃになる問題でもあります。例えば、確定日付のない通知が先に債務者のところに到達し、確定日付のある通知がその後債務者に到達した場合に、確定日付のない通知が優先すると勘違いしている人がたまにいますが、それは間違えです。

 

 そもそも、この債権の二重譲渡の対抗要件の問題は、確定日付のある証書という適正な第三者対抗要件が競合していることが前提になります。そのため、確定日付のない証書が先に到達したとしても、競合関係は成立しません。その結果、この場合は、確定日付のある証書での通知が常に優先します。

 

 ここは間違えないように注意することが大切です。

 

 

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民法416条2項における予見時期と程度とは?

 

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 1 民法は勉強するのが大変

 民法って量が多いですよね。民法って1000条以上も条文あって、「こんなに覚えるとか無理でしょ」と愚痴をこぼしたくなりますが、頑張るしかありません。

 

 そのような民法ですが、結構忘れがちな問題があります。その一つが、民法416条2項の予見時期と程度の問題です。今回は、この予見時期と程度について少し考えてみたいと思います。

 

2 民法416条

 民法416条は、債務不履行に基づく損害賠償請求の損害の範囲について規定しています。そこで、まずは条文を確認しましょう。

 

 同条第1項は「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」と規定しています。

 

 また同条第2項は「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」と規定しています。

 

 通説は、同条項は相当因果関係を規定したものだとしています。その上で、同条第2項が規定する「予見し、又は予見することができたとき」とは、いつの時点をいうのか議論されています。

 

 この問題については、契約締結時だとする考え方と債務不履行時であるとする見解がありますが、判例は債務不履行時であるとしています。

 

 

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3 予見の時期

 大審院判決大正7年8月27日(民録24輯1658頁)は、「特別事情ノ予見ハ債務ノ履行期迄ニ履行期後ノ事情ヲ前知スルノ義ニシテ予見ノ時期ハ債務ノ履行期迄ナリト解スルヲ正当トス」と判示しました。

 だいぶ古い判決ですが、今でも債務不履行時を予見の時期とする実務運営がされています。

 

 というのも、契約には色々な種類があります。例えば、コンビニでおにぎりを買う売買契約のように単発で終了する契約もあれば、企業間取引で継続的な供給を行う契約もあります。

 

 特に継続的な取引を行う契約類型の場合だと、契約締結時から何年にもわたって債務の履行がされます。

 

 そうだとすると、数年前には予見できなかった損害であっても、債務不履行時に予見することが可能な場合も多いです。それにもかかわらず、契約時を予見時期であるとすると、容易に知り得た損害をそのままみすみす賠償範囲から除外することになり、契約当事者間の公平性が著しく害されます。

 

 ゆえに、債務不履行時を予見時期とする見解は妥当であると言えます。

 

 4 予見の程度について

 では、どの程度の予見ができたと言える必要があるのでしょうか。この点については、あまり本などに書いてありませんが、そもそも、根本的な部分に、予見できたのに債務の履行を行わなかったことで損害が発生したならば、債務者に責任を取らせてしかるべきだという発想があります。

 

 逆にいうならば、予見を緩やかに解しすぎると、なんでもかんでも発生した損害について債務者に賠償責任を負わせることになり、過大な負担を債務者に負わせることになってしまいます。

 

 そのため、予見の程度についてはある程度厳格に考える必要があります。

 

 例えば、飲み屋で部品の卸先の担当者とばったり会い、「今度うちの会社で、大口の○○百貨店と取引するかもしれない。まだ交渉中で本決まりしていないけど、今後とも一つ宜しく。」というようなことを言われていたとして、その次の日に、部品を卸さずに、卸先が○○百貨店に商品を供給できなかったとしても、未だ交渉中で本決まりしていない段階だったならば、○○百貨店に商品を供給できなかったことで相手の企業が被った損害を予見できたと言えるかは、かなり微妙なラインになると思います。

 

 つまり、少なくとも、債務不履行によってある程度確実性をもって損害が認められるような状況及びその予見が必要になると考えられます。

(もっとも、契約交渉段階に入っていて通常の場合は、本決まりになるような取引慣行等があるならば、認めても良いと思いますが、仮に、部品が供給されていたとして、本当に百貨店で商品を提供できたのか、途中で交渉が決裂する可能性がなかったのかということも重要になります。)

 

 5 細かいですが重要なことです

 このように予見時期と程度は非常に細かい話ですが、実際のところ、数千円程度だったらあまり気にしなくとも、場合によっては、数億単位で賠償範囲が異なってしまいます。

 そのため、特別損害が認められるようにある程度予防法務の段階で、工夫をしておくことが大切です。

 

 

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説明義務違反。不法行為と債務不履行の分かれ目

 

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1 債務不履行って難しい

 民法を勉強していると、よく挙がる条文として、415条があります。民法415条は、債務不履行に基づく損害賠償請求の根拠条文です。債務不履行という言葉自体、法律を勉強していなくても聞いたことがあり、なんだか馴染みやすい感じがありますよね。

 

 しかし、実際のところ、債務不履行といっても債務の内容を確定することが困難な場合や、不法行為との境目がよく分からないケースもあります。そのため、債務不履行に基づく損害賠償請求と一言でいってもよく分からない問題があります。

 

 そこで、今回はそのような問題の一つである説明義務違反について少し考えみたいと思います。

 

2 説明義務違反

 例えば、マンションを購入する際に、売買の目的物となっているマンションがどのようなマンションか説明しますよね。「そりゃ当たり前だろ!」と言う人もいると思います。

 

 そうです。「当たり前です」。

 

 つまり、売買をするときに、その物がどういう物か分からなかったら、買う人はその物を買いませんよね。他方、売主からすると、売る物を高く売りたいので、魅力的に見せたいと思いますよね。

 

 そのため、売買の目的物について売主は色々な説明をします。

 

 例えば、「このマンションは眺望がすばらしいですよね。ほら見て下さい。こんな素晴らしい眺めを毎日見れるなんて、生活が本当に豊かになります。この先10年以上、ずっと近隣に高層ビルは建ちません。なので、ずっと快適に過ごせます。」と説明します。

(まぁ、私の説明だとそんなに魅力的に見えないかもしれませんが。。。。)

 

 他方、「このマンションは防火対策がしっかりしています。なので、火災が起きても安心です」という機能面に関する説明もします。

  

 このように色々な説明がありますよね。ところが、マンションを購入して1年後に購入したマンションの前に高層ビルが建って眺望が最悪になったらどう思いますか。

 

 「話が違うよ」って思いますよね。

 

 また、防火対策がしっかりしていても、防火扉の使い方を説明されておらず、実際に火災が起きた時に、防火扉のスイッチを入れることができず、全焼してしまった場合は、どうでしょうか。

 

 これまた「話が違うよ」って思いますよね。

 

 そうです。両方とも「話が違うよ」です。

 

 しかし、これらはいずれも契約締結前の説明が問題になっています。そのため、このような説明義務違反を債務不履行として、これに基づき損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 この問題の手掛かりになるのが、最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)です。

 

 

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 3 最判平成23年4月22日(民集65巻3号1405頁)

 この問題につき、同判決は以下のような判示をしました。

 契約を締結した一方当事者が「当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない」と判示しました。

 

 その上で、契約の一方当事者が説明義務に違反して本来締結しなかった契約を締結し、損害を被った場合には、「締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるといわざるを得ない」と判示しました。

 

 一見非常に難しい事を言っているように見えますよね。しかし、そこまで難しい話ではありません。

 

 そもそも、債務不履行とは、契約によって生じた義務が履行されないことを言います。そのため、契約があって、それを前提として義務が生じます。

 

 ところが、契約をするか否かに関する情報を提供する説明の場合には、その説明義務とは、契約を前提として生じるものではありません。

 

 先の例でいえば、「この先ずっと眺望が良いです」という説明については、この先ずっと眺望が良いいからこのマンションを買うという、物を買う動機に関わる部分であって、売買契約を締結するかどうかを決める情報に過ぎません。

 

 高層マンションが近くに立ってしまいこのような説明が真実と異なり説明義務違反がある場合であっても不法行為になることはあり得ても、債務不履行になることはありません。

 

 他方、防火扉の説明についてはどうでしょうか。この場合、マンションや家を購入した際に、防火扉の使い方が説明されないと、非常に困りますよね。このような防火扉の使い方は、買った後にマンションを使う際に必要な情報であるため、売買契約に基づいて係る説明をすべき義務があることになります。

 

 そのため、係る防火扉に関する説明は、契約を前提とした義務です。ゆえに、これに違反する場合には、債務不履行になります。

 

4 どうでも良い議論では?

 一見このような議論は、すごくどうでもよい議論に思いますよね。しかし、これ意外に重要です。

 

 不法行為の場合は、新民法が施行されていない今では、時効期間が3年ですが債務不履行の場合は10年です。

 

 そのため、説明義務違反がありこれを知った時に、3年を経過してしまっている場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求しかできないので、説明義務違反が債務不履行となるのか不法行為になるのかは非常に重要な問題になります。

 

 したがって、細かい議論ですが、とても重要な問題だと言えます。

 

 

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フロッピーディスクの差押えの話。最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁

 

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1 捜索差押え

 刑事訴訟法を勉強すると、最初に捜査法を勉強することが多いと思います。

 この捜査法なのですが、意外に厄介で、分かるようで分からないという部分が多いですよね。

 

 例えば、強制処分該当性と任意捜査の限界が一番最初に壁になる部分でしょうか。任意捜査の限界については、必要性緊急性と人権制約を天秤にして全体的に相当な限度といえるのだろうか。というような視点が大切になりますが、個別具体的な事案についてあてはめてみると意外に上手くいかないなんて事もあるかと思います。

 

 また、捜索差押えについてもそうです。令状の効力が及ぶのか、超える場合には「必要な処分」(刑訴法第222条・第111条1項)で考えていくのだろうか。しかし、実際に個別具体的な事案であてはめてみると意外に難しいですよね。

 

 今回は、そのような難しい捜査法の中でも、フロッピーディスクの差押えについて、少し考えてみたいと思います。

 

 

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2 そもそも論

 そもそも、捜索を行うことができる場所とはどのような場所なのでしょうか。この点、刑事訴訟法は、第102条で規定しています(ちなみに、捜査機関が行う場合には、第222条1項が準用規定を置いています。そのため、捜査機関が行う場合には、第102条の「裁判所」は「検察官」や「司法警察職員」に読み替えられます。)

 

 第102条1項は、「裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる」と規定しています。

第102条2項は、「被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限り、捜索をすることができる。」と定めています。

 

 捜索は、証拠物等を発見することを目的になされる捜査であるため、証拠物が存在していそうな場所が捜索の対象になります。被告人の住居などについては類型的に証拠物の存在する蓋然性が高いため、捜索をすることが可能な場所です。ところが、被告人以外の人の住居などの場合には、類型的にみて証拠がありそうとまでは言えません。そこで、第2項で「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合」と言う形で、限定がされています。

 

 以上から、捜索をすることができる場所とは、証拠物の存在する蓋然性がある場所だと言えます。

 

 他方、差押えは、証拠物を押収する捜査です。刑訴法は第99条1項で「裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定めのある場合は、この限りでない。」と規定しています(捜査機関がなす場合は、第222条1項が準用されています。)

 

 例えば、被告人の家を対象とする捜索をしている最中にメモ書きが発見されたとします。これが令状記載の差押えるべき物に当たらない場合には、これを差し押えることはできません。そのため、差押えをするに当たっては、対象物が事件との関連性を有するか否かを判断した上でなければ、差押えることができません。

 

 以上を踏まえると、捜索差押をする場合には、証拠存在の蓋然性及び関連性を判断する必要があると分かります。

 その上で最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁を見てみましょう。

 

3 最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁

 同決定は、データの中身を見ないでフロッピーディスクを差押えることができるかにつき、以下のように判決しました。

 

「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押えることが許される」と判示しています。

 

 4 注意が必要かも

 同最決は、一見すると当然のことを判示しているようにも読めます。しかし、判断基準として「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合」を挙げていますが、これは捜索についての証拠存在の蓋然性基準を使用しており、差押えについての関連性審査はしていないようにも思います。

 

 そもそも、関連性については、その中のデータを見てみないと分からないので、差押え時点でこれを見ることができない以上、事実上、関連性審査をするのは不可能だと言えます。

 

 そのため、最決の判示は結論において妥当だと言えます。

 

 注意が必要なのは、蓋然性審査と関連性審査は視点が異なるので、試験を受ける際には峻別をしながらどちらの要件を検討しているのか意識をすることが大切です。

 

 

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土地を買ったら土壌から有害物質発見。瑕疵担保?売主の責任は?

 

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 1 土地を買ってみたところ

 家を建てようと思って土地を買ったり、工場を建設しようと思って土地を買ったり、土地を買う目的は人それぞれだと思います。

 

 色々な目的があるにせよ、自分が買った土地から有害物質が発見されたらどう思いますか。

 

 当然嫌です。絶対に嫌です。「売主に責任を取って欲しい」それが正直なところだと思います。しかし、売買契約を締結した当時そのような有害物質の存在を売主も買主も知らなかった場合はどうでしょうか?また、そもそも、日本国内で、土壌から発見された物質が有害物質であると認識されていなかった場合は、どうでしょうか?

 

 そこで、今回は、買った土地の土壌から有害物質が発見された場合に、売主に対して、民法上どのような方法で損害賠償請求をすることができるか少し考えてみたいと思います。

 

 

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2 民法上の方法について

 このようなケースで民法上の損害賠償請求をする方法としては、主に3つあります。それは、不法行為に基づく方法(民法709条、民法710条)。債務不履行に基づく方法(民法415条)、瑕疵担保責任に基づく方法(民法570条、民法566条)です。

 

 不法行為の場合には、故意又は過失、債務不履行の場合は帰責事由(信義則上故意又は過失と同視すべき事由)が求められます。そのため、売主が売買の目的物である土地の土壌に有害物質が含まれていることを過失なく認識していなかった場合には、不法行為に基づく方法も、債務不履行に基づく方法も使用することができません。

 

 他方、瑕疵担保責任に基づく方法は、無過失責任であるとされています。そのため、売主が売買の目的物である土地の土壌に有害物質が含まれていることを過失なく認識していなかったとしても、それをもって同方法が使用できないことにはなりません。

 

 ところが、瑕疵担保に基づく方法の場合、当然ながら「瑕疵」がなくてはなりません。ここで「瑕疵」が何を指すのかについては色々な説があります。代表的な説としては、「瑕疵」とは、取引通念上当該目的物が有すべき性質を有しないこと、又は、当事者が予定した性質を有しないことを言うとしています。

 

 同説によった場合には、売買の目的物となった土地の土壌から有害物質が検出された場合には、直ちに「瑕疵」に該当しそうですよね。

ところが、そのように簡単に判断することはできません。

 

3 最判平成22年6月1日(民集64巻4号953頁)

 そもそも、取引通念や当事者が予定したという瑕疵該当性の判断は、いつの時点を基準にするのでしょうか。それを判示しているのが、最判平成22年6月1日(民集64巻4号953頁)です。

 

まず、同判決は当事者が予定した性質を判断するに当たり、「売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」とし、「本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれていることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、(原告)もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物資として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であった」と判示しました。

 

 その上で、「人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の社会観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあることは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれを超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。」と判示しました。

 

 

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 4 ではどうするべきか?

 結局のところ、買った土地から有害物質が将来発生してしまった場合、全く保護されなくなってしまうような事態になってしまうかもしれません。

 これは非常に困りますよね。そこで、このような場合には、売買契約を締結するときに、条項で例えば、「契約締結後3年以内に、両当事者の予想することができない人の健康を害する有害物質が生じた場合には、売主がその瑕疵によって発生した損害を賠償する」ニアンスの条項を契約書に盛り込んでみる交渉をするのも一つの手です。

 

 将来自分が不利にならないように色々とリスクを予想することが大切かもしれません。

 

 

 

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契約解除の基本的な考え方

 

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1 契約はしたけど

 例えば、ある人と売買契約を締結して、車等を購入したとします。しかし、契約をしたにもかかわらず、納期に車が来ないとかありますよね。また、建売の住宅を購入する契約を締結したにもかかわらず、その住宅は自分が買った後に、他の人に売られてしまい後に買った人が所有権移転登記をしてしまった場合など、頭に来ますよね。

 

 損害賠償請求ができることは当然だとしても、この場合契約を解除することができるのでしょうか。そこで、今回は、民法の解除制度の基本的な考え方について、検討してみたいと思います。

 

 

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 2 民法の解除とは?

 そもそも、解除とは契約締結後に生じた事情により契約関係を解消させることです。原則、契約を締結したらその約束は守られてしかるべきです。契約してみて「やっぱりやめた。」と言って契約当事者の一方が勝手に契約を解除することができるとすると、契約をする意味自体がありませんよね。

 

 そのため、契約を締結した後は、一定の事由が生じない限りは契約関係を解消することはできません。

 

 では、どのような事由があれば契約を解除することができるのでしょうか。

この点、代表的な条文を三つ見てみましょう。

 

 まず、履行不能を定めた民法第543条です。同条は「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。」と規定しています。

 

 この条文中「履行の全部又は一部が不能となったとき」と定めています。

 なぜそもそも履行不能の場合に解除を認めているのでしょうか?

 

 それは、契約目的を達成できないからです。

 

 当たり前の話ですが、例えば、建売の売買契約を締結する時に買主は建物及び土地の所有権を手に入れること、売主は代金をもらうことを目的として、契約を締結します。ところが、建物が売主の過失で損壊し引き渡すことができなかったり、売主が他の人に売って登記を備え、確定的に所有権を取得できなくなったときは、もはや契約の目的を達成することができません。

 

 そのため、契約を維持する意味がないため、契約関係を解消させることを認める。これが解除制度の根本的な発想です。

 

 すごく自明のことなのですが、以下の条文に沿って考えると、非常にこれ自体が重要なことだと分かります。

 

 例えば、履行遅滞を定めた民法第541条は「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約を解除することができる。」と定めています。

 

 弁済期に債務の履行がない以上、直ぐに解除できるような気もしますが、条文はそうなっていません。つまり、履行遅滞の場合は、債務の履行が遅れているだけであって、債務の履行自体は事実上できるのが前提です。そうだとすると、弁済期に債務の履行がなくても、履行される可能性は未だ消えていないため、未履行であることのみでは契約の解除は認めません。

 

 もっとも、「払って下さい」とか「持って来て下さい」と催告をして相当期間経過したにもかかわらず、相手方が払ったり、持参しなかったりした場合には、今後債務が履行されることはないだろうということが明らかになります。

 

 そのため、催告後相当期間経過により、履行不能とし契約目的は達成されないと判断します。

 

 ゆえに、このような相当期間経過後には、契約の解除をすることができるということになります。

 

*補足

 ちなみに、相当期間経過後、解除権行使前に債務の履行があった場合には、解除することができないという見解が有力ですが、今の説明からすると当然の見解だと思います。つまり、解除権行使前に債務の履行があれば契約目的を達成することができ、契約関係を解消させる必要がないからです。

 

 以上を踏まえて、民法第566条第1項前段を見てみましょう。

同条項前段は、「売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達すことができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。」と規定しています。

 

 担保責任の場合、一種の不都合な状況が生じたとしても、その不都合な状況には程度の差があり、契約目的の達成との関係で見た時に、必ずしも契約目的が達成できない場面ばかりではありません。そのため、同条項前段は「そのために契約をした目的を達することができないとき」という要件を置いたのだと言えます。

 

 また、付随的義務違反の場合に原則解除が認められないとする考え方が有力ですが、これも付随的義務の場合には、原則契約目的を達成できない場面ではないことが根本にあります。逆に言うと、契約目的を達成できない場合であれば、解除の理念に従い、付随的義務違反の場合でも、解除が認められることとなります。

 

3 考えすぎないことがコツ

 以上のように解除制度について少し考えてきましたが、意外にその理念はシンプルです。そのため、あまり考えすぎないのがコツです。

 

 

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瑕疵担保。損害賠償請求権の消滅時効

 

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1 大切な物なのに

 家を買ったり、車を買ったり、高額な買い物をすることって人生でありますよね。買う前から色々な物を見て、見積もりを取り、お値段と品質を踏まえつつ、いくつか検討をしながら選ぶ。そのような買う前のプロセスも意外に楽しいですよね。

 

 しかし、いざ買ってみて何年か経った時に、買った時には気付かなかった不具合が見つかることもあります。

 このような場合に、余計な修理代とかがかかったら非常に頭にきますよね。ところが、売主もそのような不具合があったことに気付かなかった!なんてこともあり得ます。

 

 そこで、今回は、買った物に気付きにくい不具合があった場合に、売主に損害賠償請求をすることができるか。また、そのような損害賠償請求はどのくらいの期間まですることができるのか検討してみたいと思います。

 

 

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2 瑕疵担保の話

 まず、このような気付きにくい不具合のことを「隠れた瑕疵」と言います。この隠れた瑕疵については、民法上、以下の条文が規定されています。

 

 民法第570条は「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。」と規定しています。

 

 そして、民法第566条1項は「売買の目的物が地上権・・・である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。」と規定しています。

 

 また、民法第566条第3項では、「前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。」と規定しています。

 

 このように条文だけ並べてもよく分からないですよね。

 

 隠れた瑕疵という以上、買主がその瑕疵を知らず、かつ、通常の注意義務を払っても気づかない不具合である必要があります。このような瑕疵があった場合には、色々な説明がありますが、簡単に言うと、契約した時に不具合はありませんという前提で売主が売っているのにそれに不具合があるってことは、売主は不具合があるものを売って不具合のない物だと仮定した場合の代金をもらっていることになります。

 

 そうだとすると、売主には、その利得分だけ買主に返還させた方がよいのではないか。そのような発想があり、売主の過失の有無を問わず、買主が売主に対して損害賠償請求できることを認めました。これが瑕疵担保制度です。

 

 また、瑕疵つまり不具合は軽微な程度から重度の程度のものまであります。つまり、瑕疵があったからといって直ちに買ったものが使えないことばかりではありません。そこで、解除については契約をした目的を達成できないときに限って、認められています。

 

 3 消滅時効の話

 では、瑕疵担保の制度が何となく分かった上で、大切なのは物を購入して自分の手許に来てから、5年後に瑕疵が判明した場合は、損害賠償請求できるのでしょうか。

 

 先ほどの民法第566条第3項の規定で「買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。」と規定されているため、20年経って初めて知った場合でも、知ってから1年以内に限っては損害賠償請求することができるのでしょうか。

 

 逆に、1年経過後に知った場合には、当然に損害賠償請求ができなくなるのでしょうか。よくわかりません。

 

 この点について、最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁は瑕疵担保に基づく損害賠償請求権は「民法167条1項にいう『債権』に当たることは明らかである。」と判示し、「瑕疵担保による損害賠償請求権は消滅時効の適用があり、この消滅時効は、買主が売主に目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。」と判示しました。

 

 つまり、売主が買主に目的物を引渡してからは、10年間以内に瑕疵を知れば、損害賠償請求をすることが可能ということが明らかになりました。

 

 4 諦めないことが大切

 物を買って何年か経過してしまうと、不具合が見つかっても、「もうだいぶ時間が経過してしまったから泣き寝入りするしかないのかな」と思う方もいると思います。しかし、あきらめる必要はありません。たとえ4年後に気付いたとしても、損害賠償請求をすることが可能です。前向きな気持ちで対処することが得策です。

 

 

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